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全国キャラバン in 西多摩 [2007年09月25日(Tue)]

報告者: ライフリンク事務局長 藤澤 克己


お彼岸3連休の初日となる9月22日(土)に、東京都西多摩保健所にて、「自死遺族支援全国キャラバンシンポジウム in 西多摩」が開催されました。



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シンポジウムは二部構成で、第一部が「自死遺族の体験談」、第二部が「私たちにもできること」をテーマにしたパネルディスカッションでした。

自死遺族の体験談として、3年前にご主人を自殺で亡くされた南部節子さんがご自身の体験を語り始めると、会場はシーンと静まり返り、固唾を呑んでその声に耳を傾けました。



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シンポジウム第二部のパネルディスカッションの初めに、コーディネーターを務めたライフリンク副代表の西田正弘さんが、「まず当事者の声を聞くことからでないと始まらない」と切り出し、体験談を聞いたその思いを踏まえて、各パネラーに話をしてもらうよう促しました。

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最初に話をして下さったのは、東京都立多摩総合精神保健福祉センターの熊谷直樹さん。東京都における自殺の状況を分かりやすく説明していただいた上で、ひとりの医師として、南部さんの話を聞いて考えさせられたことなどを語ってくれました。

次に話をして下さったのは、東京都西多摩保健所の大野順子さん。自殺問題において、当事者(自死遺児)の声に耳を傾けてみて初めて感情が揺さぶられる体験をしたこと、それが大きなきっかけとなりこの問題に積極的に関わろうと決心したこと、少ないながらも仲間がいて話を聞いてくれたからやってこられたこと、などを話してくれました。



3番目は、秋田県で自死遺族支援の活動をしている涌井真弓さん(秋田グリーフケア研究会代表)。秋田が自殺率日本一と報道されるたびに、その言葉が心に突き刺さって辛い思いをしているとのこと。自死遺族支援としては、苦しみ・悲しみを本音で語っていくことのできる場が必要と訴え、「生きることを諦めない地域にしていきたい」という強い思いを教えてもらいました。

4番目に登場したのが、ライフリンク代表の清水康之さん。涌井さんの「生きることを諦めない地域」を受けて、ライフリンク提唱の「生き心地の良い社会づくり」を語ってくれました。水際の対策を充実させて単純に自殺者数を減らせればいいのでなく、社会が豊かになることを目指さなくてはならないこと、いかに豊かな死別体験をできるかがその指標となりえることを話してもらいました。

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パネラーが一通り話しを終えて、意見交換が始まりました。
コーディネーターの西田さんから、「私たちにもできること」というテーマに沿って、パネラー各位がその立場としてではなく、日常に戻ったときの「私」としてできることを語ってもらいたいと、切り出しました。

いろいろな意見が活発に交わされましたが、そのごく一部を紹介します。

・「私にできることは、遺族の声に耳を傾けること、継続すること。顔も名前も出せない人がいることを受け容れること。みなさんも大切な人の生と死、自らの生と死について考えてみて下さい」(涌井さん)
・「自分がどういうときに追い詰められるのかを考え、忘れないようにしたい。千里の道も一歩からだから!」(熊谷さん)
・「それぞれのペースで回復していくことを見守りたい。医療者がうつ病から入りやすいのを注意して、横のつながりを探し、見つけ、作っていくようにする。一緒に考えながら進みたい」(大野さん)
「(担当者の大野さんの熱い思いを受け止めて)結局、人は人で動くんだなということが分かりました。人と人のつながりが大切」(清水さん)
・「聞いてくれる人がいないと語ろうにも語れない。対応の悪さは、遺族の痛みへの想像力の欠如だと思う。感情で引き受ける、実感として気づくことが大切」(西田)

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シンポジウムの最後に、西多摩保健所の関係者がステージの上に並びました。



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地域の自殺対策を推進していくことを改めて確認し、
聞かせてほしいあなたの声
をキャラバンキーワードに選びました。
全国キャラバン in 宮崎 [2007年09月13日(Thu)]

報告者:鵜戸西


 去る9月8日(土)、宮崎県で自死遺族支援全国キャラバンが開催されました。

まず、地元のフリーアナウンサー吉田愛美さんによる司会の中で、「私は親しい友人を自殺で失いました。今日は県民の一人として、参加したいと思います。」とのお話がありました。その言葉に来場者は共感しましたし、自殺者の多さを身近に感じる発言でもありました。

キャラバンの冒頭では、東国原知事による挨拶がありました。
「まさに宮崎の自殺対策は、県民総力戦」
と語られた、東国原知事。キャンペーンのユニホームである青いTシャツを着て来られました。



その後は、自死遺族支援全国キャラバンの主旨説明が西田正弘さん
(NPO法人ライフリンク副代表)より行われ、
キャラバンについての方向性を語っていただきました。

次に、「お父さん『はい』朝刊」という題で、紙芝居が上演されました。これはうつについての紙芝居で、紹介したのは、宮崎自殺防止センターの皆さんでした。

遺族からのメッセージは、DVD上映による桂城舞さんの体験談と、南部節子さんの生の体験談でした。



南部さんは、だんなさんを亡くされた経験と、「誰も死にたくて死ぬわけじゃない。追い詰められて亡くなっているんです。」ということをお話されました。
また、「遺族も悲しんでいるだけでいいのでしょうか。自分たちも声を出さなければいけないと思っています。」とご自身のお気持ちを伝えられました。
 この体験談を通して、マスコミの方が、「皆さんが言わんとしていた意味が、遺族の証言を聞きよくわかった」とコメントされていました。
この報道機関は、「今まで無知だった。今後取り組むべき課題だ。」と反省と展望をその後会議で共有したそうです。なお、月曜から水曜に渡り、夕方のニュース番組で5分間シンポジウムの様子が3日間放送され、南部さんもテレビに出ていました。

 パネルディスカッションでは、「弱音を吐けない男たち」という題目で議論が交わされました。



 パネラーには、石田康さん(宮崎大学医学部)、甲斐妙子さん(宮崎自殺防止センター)、
山口和浩さん(自死遺族支援ネットワークRe)、岩本直安さん(宮崎県日南保健所)。
 コーディネーターは西田正弘さん(NPO法人ライフリンク)が務めました。

 まず、石田さんと岩本さんからは、宮崎県における自殺の実態についての報告がありました。データを使った分かりやすい説明で、自殺率が全国5位という深刻な状況を、会場参加者が共有できました。宮崎県では、一日に一人亡くなっていることになります。

 石田さんは、宮崎県自殺対策連絡協議会では、県民総力戦で取組むということと、専門部署を作るよう、知事に提言したとお話されました。

 岩本さんは、働き盛りの中高年男性を対象にした健康教育等を行っている経験を踏まえ、
自殺を防ぐには、「地域力」のつながりが大切であるということをお話されました。

 甲斐さんは、地元宮崎で、自殺防止センターを設立したことの報告をしてくださいました。
しっかりとした研修内容にもとづく準備を行っていること、そしてすでに実績のある東京自殺防止センターをモデルにして、電話相談からはじめ、分かち合いのつどい(自死遺族支援)やサロン活動へと展開していきたいと、幅広く自殺対策に取り組んでいこうとする心意気を語ってくださいました。

 最後に、山口さんが「活動の本質を見失わないことが必要」とのコメントをされました。支援する側の都合で考えるのでなく、「あくまでも当事者、自死遺族の側に立った活動を忘れないでほしい」と結んでくれたコメントは、これまでの実績に裏打ちされた重みのある言葉として伝わってきました。
 
 保健所、病院など、相談機関や受け皿はあるけれど、これからはそれらみんながつながっていく必要があるということが語られ、宮崎の地域力で自殺を防ぐということが最後に示されました。

 宮崎県のキャラバンキーワードは、「県民総力戦で

 熱い議論が交わされた宮崎県でのキャラバン。

 会場の中だけでなく、外でも、「遺族語る」のパネル展示があり、来場者の方々が食い入るようにパネルを見られていました。
全国キャラバン in 神奈川 [2007年09月02日(Sun)]

報告者: ライフリンク事務局長 藤澤 克己


9月1日(土)、横浜市はまぎんホールヴィアマーレにて
「かながわ自殺対策シンポジウム」が開催されました。
神奈川県、横浜市、川崎市の3県市の共同主催でした。


500人が入る会場は、開始前にほぼ満席状態になりました。




◇◇


開会に先立ち、羽田愼司神奈川県副知事が挨拶を行いました。




この8月に3県市(神奈川・横浜・川ア)で「かながわ自殺対策会議」
を設置したことが報告され、今後は各分野が連携して自殺対策の推進
に取り組んでいくと明言されました。

その上で、「今回のシンポジウムをきっかけとして自殺対策への糸口が
見つけられればと思っています。県民一人ひとりが主役となって考える
ことが大切で、これからは行政や民間団体、県民のみなさんが一体と
なって取り組み、自殺者数の減る住みやすい社会にしていきましょう」
と、このシンポジウムの意義を説明くださいました。


◇◇


シンポジウムは二部構成で、第一部は俳優の竹脇無我さんの講演。

竹脇さんは、15歳の時にお父様が自殺で亡くなった自死遺族であり、
ご自身も重度のうつ病で死にたい衝動に苦しんだ経験をお持ちでした。

竹脇さんは、まず、自死遺族としての経験を語って下さいました。

お父様が自殺で亡くなったことを相当長い間、だれにも言えなかった
そうです。それは、現実問題として、竹脇さんが子どものころから
つい数年前まで、絶対に語らせてくれない雰囲気だったからだと。
語ることの大切さを、「早く語らしてあげた方がいいんですよ」と
経験者として力強く仰っていました。

続いて、うつ病に罹患し克服した体験についても語ってくれました。

周囲が「休ませる勇気」を持つこと、「治るまで待っててやる」という
態度でいることが大切だと、経験談から教えてくださいました。
俳優仲間の森繁久弥さんと加藤剛さんからの手紙も紹介され、
最後に「生きていればなんとかなりますから」と結ばれました。



◇◇


第二部は、「自殺問題・・・今私たちにできること」
というテーマでのシンポジウムとなりました。

コーディネータを桑原寛氏(神奈川県精神保健福祉センター所長)
が務め、
シンポジストとして、(写真左から)柴田雅人氏(内閣府政策統括官・
共生社会政策担当)、平安良雄氏(横浜市立大学教授) 、山口和浩
(自死遺族、自死遺族支援ネットワークRe[長崎]代表)、清水康之
(NPO法人ライフリンク代表)の4名が登壇しました。



シンポジスト4名がそれぞれの立場から話をしました。



柴田氏は、今年6月に策定された自殺総合対策大綱の概要と趣旨を
説明し、「困っている一人の人を支えるためには包括的に関係者が
連携すべきで、縦割り組織の行政は努力が必要」との認識を示した
上で、「これまで語ることのできなかった自殺という死の実態解明
を行い、何を必要とされているのかを見極めるためにも、それを
一番よく分かっている民間団体と連携強化すべき」と説明されました。

平安氏は、救急救命センターにおける精神科医との連携事例について
紹介してくださいました。救急搬送されてきた自殺未遂者が「救命」
された後、心理的サポートをするために精神科医を配置している
のです。ただし、精神科医が不足していて、こうした支援ニーズに
追いつかないので、医師以外の専門家が関わること、そして、地域
コミュニティが関心を持つことの重要性を説明くださいました。

山口氏は、13年前に父親を自殺で亡くし、それから何年もの間、
父親の死について語れなかったこと、あしなが育英会のキャンプで
「ひとりじゃない」と実感できたこと、それから「父親のことを
考えられるようになった」ことなどを教えてくれました。
今では、地元長崎で「自死遺族支援ネットワークRe」を立ち上げ、
自死遺族が安心して語れる場を提供していること、まだ子どもの
参加が少ないのが気がかりなこと、行政との協働で運営が助かって
いることなどを話してくれました。

清水氏は、「自殺の社会問題化」に注力してきたと話がありました。
年間3万人以上の自殺者が9年も続いていて、
未遂者は10倍といわれ、
ひとりの自殺(未遂)によって深刻なダメージを受ける人が
少なくとも5人いるとすると、この10年間で6〜7人に1人の割合で
「自殺」に関わっている、との説明には説得力がありました。
これだけ多くの人が自殺に関わっているのに、
自殺を個人の問題としてきたことに対して危機感を感じたこと、
無関心の連鎖となっている流れを断ち切りたい
と思ったこと、などを語ってくれました。

コーディネータの桑原氏から、神奈川県における
自死遺族を支援する取組みについて紹介がありました。

その後、会場からの質問に答える形で意見交換があり、自死遺族の
分かち合いの中で、自死遺族でない人の関わり方の話がありました。

「体験をしていない人(自死遺族でない人)に受け容れられたと
感じられたときの気持ちの回復が大きい」「体験の無い人がいかに
分かち合いの場に関われるのかが、これからは大事だと思う」
といった山口氏のコメントが印象的でした。

◇◇


最後に、会場のロビー風景です。




7月1日のシンポジウム(東京ビッグサイト)で、やはり会場ロビーに
展示した「遺族語る」というメッセージパネルは、その後も、各地を
「全国キャラバン」として巡っています。前回の開催地・佐賀県から
届けられたものです。次週の宮崎でも展示される予定です。