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全国キャラバン in 北海道 [2008年04月04日(Fri)]
報告者:福山なおみ(NPO法人ライフリンク)


「ほっかいどう自殺予防と自死遺族支援のためのシンポジウム」

〜今、私たちにできること〜


 平成20年3月2日(日)、北の大地・北海道:札幌大通り公園近くにある【札幌WEST19(5階講堂)】で、「ほっかいどう自殺予防と自死遺族支援のためのシンポジウム」が開かれました。


時計台



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主催者挨拶

高橋教一さん(北海道保健福祉部長)



 はじめに、ライフリンクの呼びかけにより【官民連携事業】として開催することができたことを喜ばしく思うと話されました。

 北海道内の年間自殺者数は1,500余名。

 遺族支援は、自殺対策基本法・大綱において大きな柱であり、今日は、遺族支援の取り組みの紹介・遺族の方のメッセージなど、シンポジウムを通して「私たちにできること」を考えていただきたい、と話されました。

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キャラバン趣旨説明

清水康之さん(NPO法人ライフリンク代表)

 「全国キャラバン」は、自殺対策の理念を地域に根ざしていくこと、基本法の柱の一つで『遺族支援』を地域で進めていくことを目指しているとお話されました。

 「自殺対策は、【生きる支援】、【いのちへの支援】であり、対策の先に《人》がいることを感じられるかが『鍵』である」と話されました。


                    
自死遺族を支援するということ

 DVD「東京マラソン」2008

 まず、清水さんが撮影された「東京マラソン」のDVDが上映されました。

 「東京マラソン」に参加された人数は3万人以上。日本における年間自殺者3万人以上と同じ人数です。

 一人ひとりには、家族・友人・思い出がある。そのかけがえのない人が3万人亡くなっており、遺される人たちも増え続けているということ。

 同時代に生きる私たちは、この現実と向き合い、遺族の話に耳を傾け、その体験を一人でも知ってもらい、(自死は)特別なことではないことを感じてもらいたいと強調されました。


                  
自死遺族の思いとは 

DVD「わかち合う声」〜リメンバー福岡〜

 次に、「自死遺族のつどい」の様子がDVDで紹介されました。

 大切な家族を自死で失ったご遺族の自責の念、遺された家族・親族たちの様々な思い、安心して悲しめない現実があることなどが映像の中から伝えられました。

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自死遺族からのメッセージ

藤本佳史さんの語り



 8年前に母親を自死で亡くされ、「母親を救えなかったこと」、「どうして死に急いだのか」、胸の内から湧き上がる感情に溢れる涙を拭いながら、一言ひとこと紐解くように語られました。
                  
《支えてくれる人・共感してくれる人は遺族だけとは限らない》

 「母の死後、僕の様子がおかしいと気づいた学友が校舎の裏の芝生に呼んでくれ、肩を抱いて一緒に泣いてくれました。その時、友人として全身で受け止めてくれたと実感することが出来ました」とお話されました。
                  
《いのちを救える精神科医を目指したい》

 母親を救えなかった思いから、医学部に入りなおし、医師国家資格を取得した藤本さんは、「研修医として働く姿を父に見せたい。それが母への答え(Answer)だと思っている」と話され、そこには新たな人生を歩みだそうとする強い意志が感じられました。
                  
《安心して語れる場》、《安心して泣いていい場が必要》

 「あしなが育英会のつどい」で様々な体験を持つ学生と出会い、自死体験を語りながら、ご自分の気持ちが良い方向に変化したと語られました。
                 
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シンポジウム 〜自死遺族支援、今、私たちにできること〜

<シンポジスト>
 吉野 淳一さん(癒しの会代表)
 縄井 詠子さん(十勝保健福祉事務所子ども・保健推進課長)
 築島 健さん(札幌こころのセンター所長)
 山口 和浩さん(NPO法人自死遺族支援ネットワークRe代表)
 清水 康之さん(NPO法人ライフリンク代表)
<コーディネーター>
 市川 淳二さん(北海道立精神保健福祉センター相談研究部長)



吉野 淳一さん(癒しの会代表)

  『癒しの会』設立の経緯や運営上の約束事、研究の一環としての考え方、取り組みについてお話されました。

 「会を通して<苦難の力を社会貢献に向けている>という印象を受けました。また、遺族の方の物語から教えてもらうことが突破口になります。手探りの取り組みではありましたが、10年過ぎた今、私はそこにいても何も出来ないが、当事者が語りを聞き、絆を強めながら何とかしたいというのが実感としてあります。」と結ばれました。


                  
縄井 詠子さん(十勝保健福祉事務所子ども・保健推進課長)

 会が果たしてきたことは、「話していい場所と時間が確保された」、「泣いてもいい、頑張らなくてもよいことが保証された」、「何を話しても聞いてもらえることこで安心感が生まれた」ことだとお話になられました。

 これらから、「自分の感情を広げる力、自分を認める力、自分の感情を変えていく力、新しい日常を受け止める力がでてきている。ただ、男性の参加や子どもの参加が少なく、会は新たな局面を迎え変化する必要があると考えられる。今、私たちにできることは、【見守ること】【グループメンバーと共に歩むこと】だと思います。」とお話されました。


                
築島 健さん(札幌こころのセンター所長)

 行政として取り組むことについて、まず自殺の実態を明らかにすること、そして、民間の活動を応援することが必要であると話されました。

 心の問題への対策(うつ対策)ばかりではなく、経済・金融・雇用・一般医療・交通対策その他多くの関係部門を総合的に巻き込み、推進するために必要な調整を行うことをお話されました。

 「自死遺族支援」については、北海道は広いので様々な施策がやりにくい。その点についても教えて欲しいと話されました。

◇◇


山口和浩さん(NPO法人自死遺族支援ネットワークRe代表)

 「『(自殺を)語れない』理由には、自殺への偏見、弱いから自殺するんだ、勝手だ、自殺するくらいならもっとできることがある・・・このような社会の圧倒的な圧力があり、<語れない雰囲気>を作り出しているということがあります。勝手な『自死遺族像』を押し付けないで、一人ひとりしっかり向き合って欲しい。『語りの相手は、遺族だけではない。体験のない人も受け入れてもらえたと感じたときに力になること』を分かってもらいたい」と強調されました。
                
 また、行政との連携については、築島さんが発言された、北海道が広いが故の施策の困難さに対して、「長崎は離島を多くもっていることが特徴ですが、出張自死遺族支援の対策も重要と考えています。遺族支援には、経済的支援、心理的支援がある。それらを相談機関につなぐ役割が必要です。」と結ばれました。
        
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清水康之さん(NPO法人ライフリンク代表)

 自死遺族が、安心して語れる、悲しめる場所を地域につくる必要があるということをお話しになられました。

 また、ご遺族から教えてもらうことによって、生き心地のよい社会に変えていくことができますし、そのためには行動に移すことが必要であるとお話されました。

 特に、行政でできることとできないこと、素人だから出来ること、行政と民間が連携して出来ることなどについて話される中で、想像力を働かせ「私にできること」を自分の立場で考え行動に移すことではないか、とお話になられました。
             
 また、「自殺の実態調査」の重要性についてお話しになられ、誤解や偏見を払拭するためには、プロセスを明確にすること、亡くなられた方がこの社会に存在したことから学び取り、記憶に留めること、このことが遺族支援につながると話されました。
  

           
築島 健さん(札幌こころのセンター所長)

 警察の「自殺統計」や厚労省の「心理的剖検」は研究的視点が重視され、社会的対策がない。「1000人調査」に注目していると述べられました。

 このお話を受け、清水さんは、「今、多くの自死遺族の方々が全国から実態調査に参加したいと声を上げてくださっています。一緒に取り組むことで、回復力につながっていくことがあります。」と実態調査を通して実感していることをお話になりました。


                
市川 淳二さん(北海道立精神保健福祉センター相談研究部長)

 (山口さんに)北海道の取り組みに対して、長崎で取り組んでおられる実務的なアドバイスをお願いしたいと話されました。



山口 和浩さん(NPO法人自死遺族支援ネットワークRe代表)

 「長崎には、島が数十個あり、離島は都市部より偏見がある。また、近隣であるために参加しづらいこともある。行政はハード対応(広報案内、当日の準備)、Reはソフト対応(分かち合いでのファシリテータ養成、保健師研修)をしています。ノウハウがあれば連携していくと思うので、遺族が相談できる選択肢があることが重要ではないでしょうか。」と体験を踏まえた具体的対策をお話なさいました。

◇◇

 次に、マイクがフロアに向けられ、有益な意見交換が展開された後、最後にシンポジストの一人一人から発言がありました。

吉野さん

 何も出来ない自分がそこにいる、無力を認めたい。

縄井さん

 広い地域を管轄する保健所の保健予防を強化し、他の保健所へも活動を伝えていきたい。

築島さん

 子どものいじめ自殺は、教育委員会を巻き込んでいくことが必要である。

山口さん

 教育の問題は、大人たちが生きる姿を見せていくことが重要である。

清水さん

 自分の限界を見極め、できないことは他者へ支援をもらう。一方、無力ではない。微力を持ち寄り、皆と一緒に新しい解決力を培っていきたい。

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 広大な北海道において、「自殺のない生き心地のよい社会作り」を目指すには、その一つに地域特性や地域格差の問題等を明らかにする必要があります。

 そして、故人が自殺に追い詰められていった自殺の実態を解明することも必要になります。

 「(ご遺族が)求めている支援はどのようなことか」を、ご遺族から教えてもらい、自殺総合対策につなげる必要がある、と実感した北海道キャラバンでした。



 雪深い北海道札幌のシンポジウム会場には、関心を示される方々が大勢参加され、入口に展示された『遺族語る』のパネルの「声なき声」にも熱心に耳を傾けて下さっていました。



 北海道のキャラバン・キーワードは、『どんなときにも大切にしたい、分かち合う心』となりました。