第24回海事振興セミナー(九州クルーズセミナー)開催報告[2023年08月03日(Thu)]
第24回海事振興セミナー開催報告
令和5年7月25日(火)、福岡市において第24回海事振興セミナーを開催しましたので、その概要を報告致します。なお、今回の海事振興セミナーは、九州クルーズ振興協議会との共催として、同協議会総会の後に「九州クルーズセミナー」として開催致しました。
〇 日 時 令和5年7月25日(火) 14:20 〜 16:00
〇 会 場 福岡合同庁舎 新館7階 九州運輸局 海技試験場
〇 主 催 公益財団法人九州運輸振興センター 九州クルーズ振興協議会
〇 後 援 JR九州
〇 プログラム
@基調講演
テーマ:新気候体制下のクルーズ観光と観光戦略−量から質への転換−
講 師:中村学園大学流通科学部流通科学科 准教授 前嶋了二氏
Aパネルディスカッション
テーマ:持続可能で地域活性化につながるクルーズ船の受け入れとは
コーディネイター 大阪大学国際公共政策研究科長・教授 赤井伸郎 氏
パネリスト
中村学園大学流通科学部流通科学科 准教授 前嶋了二氏
福岡市観光コンベンション部クルーズ課長 冨永誠治氏
長崎県クルーズ振興協議会 事務局長 太田勝也氏
鹿児島県観光・文化スポーツ部PR観光課 参事 長友洋子氏
〇 参 加 者 61名
〇 資 料 @新気候体制下のクルーズ観光と観光戦略−量から質への転換−
A九州クルーズセミナーパネルディスカッション
〇 講演概要
【国際クルーズ市場の動向】
主要国のクルーズ利用者数の回復状況について見ると、2019年は29.7万人であったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、2020年5.8万人、2021年は4.8万人と大きく減少していたが、クルーズ船の運航再開により、2023年には31.5万人とコロナ前を上回る見込み。
2019年から2022年にかけての主要国のクルーズ利用者数の回復状況は、世界的な旅行需要の高まりを受けて復調している。こうした中、中国の国際クルーズが順次再開され、ロイヤルカリビアン社も来年春には中国へ配船する計画。
クルーズ船の建造も活発になってきており、2023年から2028年までの6年間で67隻が発注されており、2023年19隻、2024年31隻が就航予定。中でも高級小型旅客船、エクスペディション船の市場が好調であるとの紹介がありました。
【新気候体制と高級クルーズ市場】
現在、地球温暖化等により全地球規模で環境破壊危機にさらされている。第6大絶滅期突入との研究結果もあるなど、人類の活動が地質や生態系にも明確な影響をもたらしている。世界気象機関(WHO)の報告では、気温上昇は66%の確率で2027年までに1.5度を超えるといった指摘もあり、最近の気候変動が地球環境に与える影響は思ったよりも悪いとの懸念が示されました。
また、そうした中で観光産業が与える様々な影響についても触れ、最近では、クルーズ関連の水質汚染や大気汚染、オーバーツーリズム(観光公害)に対する懸念も高まっており、クルーズ観光を含む観光産業にも厳しい目が注がれている。こうした環境問題への対策のありようによっては、今後のクルーズ産業の存続にも影響するのではないかとの指摘がありました。
【長期的観光政策におけるクルーズ観光の役割 −量から質へ− 】
2023年から2028年にかけて5万トン未満の小型高級船及びエクスペディション船が24隻建造される予定となっており、全新造船の35.8%を占める。また、環境対策面から33隻(全建造船の49%)に代替エネルギーでの運航機能が装備される見込みである。我が国へのラグジュアリー客船の寄港回数も増えてきており、コロナ前のデータではあるが、2018年の72隻から2019年の177隻と約2.5倍に増加。地方港や小規模港への寄港も増え、初寄港地も前年比318%となるなど大幅に増加しているとの報告がありました。
小型高級客船及びエクスペディション船の乗客は、欧米中心の富裕層・知識層の方が多く、彼らの知的好奇心、本物志向により、このような船舶が市場に投入される要因の一つとなっている。自然や歴史、文化、体験など高付加価値素材への指向性が高いという特徴があり、最近ではこうしたニーズに応えるため、大型客船が入れない海域や港湾をあえて狙った旅行商品やチャーター運航なども増加しているとの紹介がありました。
このような船舶の観光地へのメリットとして、高学歴、知的好奇心旺盛な富裕層が訪れることで、知名度・観光地としての価値が向上し、地域文化・自然・歴史の適切な商品化が期待でき、観光資源のブラッシュアップにも繋がる。また、リピーターも多く、船内での充実した事前学習とガイドを提供することで、持続可能な観光に向けた社会的ベクトル(サスティナブルツーリズムの導入、プラスチックの不使用、再生エネルギー利用等)にも応えられるといった点などが挙げられました。
【高質のクルーズ客受入と地域に期待される変化】
クルーズ船の寄港地関係者から「富裕層のはずなのに経済効果が小さい」といった悩みを聞くが、それは、乗客が「ほしい」と思う商品がない。或いは「買い物」事態がクルーズ観光の動機ではないということに留意する必要がある。高教育・高収入の乗客は、価値あるものにしか金を使わない。高付加価値の商品はあるが、価値が理解できるまで情報提供できていない。価値を理解するまでの時間が提供できていないといったようなことが挙げられるのではないか。
それではどうすればよいのかということになるが、高級クルーズ客は、本物志向であり、また、志向も多様化してきていることから、地域の価値を理解してもらえるよう、日常のプロモーション活動を強化すること。船内で歴史的価値や文化的価値について事前にじっくりと時間をかけて情報提供すること。伝統工芸品などの高付加価値商品に関する体験をツアーに組み込んで理解を図ること。乗客のニーズについて、正しい理解が得られるよう調査を行うことの重要性について説明があり、これらに加え、市場の拡大を見据え、他船社の寄港や他の観光商品への波及など長期的な効果や社会的及び教育的効果、新しい観光価値の創造についても配慮のうえ、「自分たちの地域に合った地域経営と観光戦略の中で正しいクルーズを選択していただきたい」との言葉で締めくくられました。
今回の海事振興セミナーは、九州クルーズ振興協議会メンバーの一部の方々に会場参加いただき、クルーズ振興等の関係者61名が参加されました。
令和5年7月25日(火)、福岡市において第24回海事振興セミナーを開催しましたので、その概要を報告致します。なお、今回の海事振興セミナーは、九州クルーズ振興協議会との共催として、同協議会総会の後に「九州クルーズセミナー」として開催致しました。
〇 日 時 令和5年7月25日(火) 14:20 〜 16:00
〇 会 場 福岡合同庁舎 新館7階 九州運輸局 海技試験場
〇 主 催 公益財団法人九州運輸振興センター 九州クルーズ振興協議会
〇 後 援 JR九州
〇 プログラム
@基調講演
テーマ:新気候体制下のクルーズ観光と観光戦略−量から質への転換−
講 師:中村学園大学流通科学部流通科学科 准教授 前嶋了二氏
Aパネルディスカッション
テーマ:持続可能で地域活性化につながるクルーズ船の受け入れとは
コーディネイター 大阪大学国際公共政策研究科長・教授 赤井伸郎 氏
パネリスト
中村学園大学流通科学部流通科学科 准教授 前嶋了二氏
福岡市観光コンベンション部クルーズ課長 冨永誠治氏
長崎県クルーズ振興協議会 事務局長 太田勝也氏
鹿児島県観光・文化スポーツ部PR観光課 参事 長友洋子氏
〇 参 加 者 61名
〇 資 料 @新気候体制下のクルーズ観光と観光戦略−量から質への転換−
A九州クルーズセミナーパネルディスカッション
〇 講演概要
【国際クルーズ市場の動向】
主要国のクルーズ利用者数の回復状況について見ると、2019年は29.7万人であったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、2020年5.8万人、2021年は4.8万人と大きく減少していたが、クルーズ船の運航再開により、2023年には31.5万人とコロナ前を上回る見込み。
2019年から2022年にかけての主要国のクルーズ利用者数の回復状況は、世界的な旅行需要の高まりを受けて復調している。こうした中、中国の国際クルーズが順次再開され、ロイヤルカリビアン社も来年春には中国へ配船する計画。
クルーズ船の建造も活発になってきており、2023年から2028年までの6年間で67隻が発注されており、2023年19隻、2024年31隻が就航予定。中でも高級小型旅客船、エクスペディション船の市場が好調であるとの紹介がありました。
【新気候体制と高級クルーズ市場】
現在、地球温暖化等により全地球規模で環境破壊危機にさらされている。第6大絶滅期突入との研究結果もあるなど、人類の活動が地質や生態系にも明確な影響をもたらしている。世界気象機関(WHO)の報告では、気温上昇は66%の確率で2027年までに1.5度を超えるといった指摘もあり、最近の気候変動が地球環境に与える影響は思ったよりも悪いとの懸念が示されました。
また、そうした中で観光産業が与える様々な影響についても触れ、最近では、クルーズ関連の水質汚染や大気汚染、オーバーツーリズム(観光公害)に対する懸念も高まっており、クルーズ観光を含む観光産業にも厳しい目が注がれている。こうした環境問題への対策のありようによっては、今後のクルーズ産業の存続にも影響するのではないかとの指摘がありました。
【長期的観光政策におけるクルーズ観光の役割 −量から質へ− 】
2023年から2028年にかけて5万トン未満の小型高級船及びエクスペディション船が24隻建造される予定となっており、全新造船の35.8%を占める。また、環境対策面から33隻(全建造船の49%)に代替エネルギーでの運航機能が装備される見込みである。我が国へのラグジュアリー客船の寄港回数も増えてきており、コロナ前のデータではあるが、2018年の72隻から2019年の177隻と約2.5倍に増加。地方港や小規模港への寄港も増え、初寄港地も前年比318%となるなど大幅に増加しているとの報告がありました。
小型高級客船及びエクスペディション船の乗客は、欧米中心の富裕層・知識層の方が多く、彼らの知的好奇心、本物志向により、このような船舶が市場に投入される要因の一つとなっている。自然や歴史、文化、体験など高付加価値素材への指向性が高いという特徴があり、最近ではこうしたニーズに応えるため、大型客船が入れない海域や港湾をあえて狙った旅行商品やチャーター運航なども増加しているとの紹介がありました。
このような船舶の観光地へのメリットとして、高学歴、知的好奇心旺盛な富裕層が訪れることで、知名度・観光地としての価値が向上し、地域文化・自然・歴史の適切な商品化が期待でき、観光資源のブラッシュアップにも繋がる。また、リピーターも多く、船内での充実した事前学習とガイドを提供することで、持続可能な観光に向けた社会的ベクトル(サスティナブルツーリズムの導入、プラスチックの不使用、再生エネルギー利用等)にも応えられるといった点などが挙げられました。
【高質のクルーズ客受入と地域に期待される変化】
クルーズ船の寄港地関係者から「富裕層のはずなのに経済効果が小さい」といった悩みを聞くが、それは、乗客が「ほしい」と思う商品がない。或いは「買い物」事態がクルーズ観光の動機ではないということに留意する必要がある。高教育・高収入の乗客は、価値あるものにしか金を使わない。高付加価値の商品はあるが、価値が理解できるまで情報提供できていない。価値を理解するまでの時間が提供できていないといったようなことが挙げられるのではないか。
それではどうすればよいのかということになるが、高級クルーズ客は、本物志向であり、また、志向も多様化してきていることから、地域の価値を理解してもらえるよう、日常のプロモーション活動を強化すること。船内で歴史的価値や文化的価値について事前にじっくりと時間をかけて情報提供すること。伝統工芸品などの高付加価値商品に関する体験をツアーに組み込んで理解を図ること。乗客のニーズについて、正しい理解が得られるよう調査を行うことの重要性について説明があり、これらに加え、市場の拡大を見据え、他船社の寄港や他の観光商品への波及など長期的な効果や社会的及び教育的効果、新しい観光価値の創造についても配慮のうえ、「自分たちの地域に合った地域経営と観光戦略の中で正しいクルーズを選択していただきたい」との言葉で締めくくられました。
今回の海事振興セミナーは、九州クルーズ振興協議会メンバーの一部の方々に会場参加いただき、クルーズ振興等の関係者61名が参加されました。