「日中未来創発フォーラムin東京〜拝啓、20年後の私たちへ」(クロージング)
[2024年12月02日(Mon)]
11月24日、「日中未来創発フォーラムin東京〜拝啓、20年後の私たちへ」が、「AP虎ノ門」(東京・港区)で開催され、これまで2か月に亘って様々な形で進められてきた研究・交流活動の最終成果が発表されました。
このフォーラムは、笹川平和財団(理事長 角南 篤氏)が、日本科学協会、中国人民大学、学生団体「京論壇」の協力を得て開催する対話・研究型の日中交流イベントで、9月には「20年後の私たちのために未来を描く」をテーマに、キックオフミーティング、10月にはフィールドワークが実施されています。また、11月初めには、北京でも中国人民大学学生と北京の大学に留学中の日本人学生によって同様のフォーラムが開催されていて、今回のイベントは日中両国で実施されてきた一連の研究・交流活動の集大成とも言えるものです。
この日は、日本の大学生等43名と中国からの留学生等39名、更に本フォーラム参加のために来日した中国人民大学の学生11名、合計93名が一堂に会し、多文化共生など大きく変わり続ける社会環境の中、未来における日中協力の可能性を「環境」「教育」「文化」「福祉」の4つの視点から探りました。
開会にあたり、笹川平和財団評議委員で日本財団理事長の尾形武寿氏は、40年に亘る自らの日中民間交流に係る経験を紹介し、現在の日中関係は厳しい状況にあるとした上で、政治環境の如何に関わらず日中民間交流を継続していくことが大切であるとしました。更に今回のような対面交流の機会を設けて相互理解促進の努力を続けることが重要であるとして本フォーラムの意義を強調し、会場の参加者には色々な議論をしてこの場を楽しんで欲しいとの期待を示しました。
また、中華人民共和国駐日本国大使館教育処公使参事官の杜柯偉氏は、 本フォーラムを中日の若者交流の重要なプラットフォームとした上で、若者が社会に対する責任感、知識欲、未来への展望を持ち、それぞれの考えをぶつけ合い両国協力の新たな可能性探ることで中日友好の発展促進に新たな活力を注いでいると評価しました。会場の参加者には、世界の平和と発展を促進するという両国の使命を担い、中日友好を維持し中日交流と協力を促進することで中日友好を次世代に継承して欲しい旨の期待を示しました。
◆グループ別成果発表
「環境」「教育」「文化」「福祉」の各グループは、これまでの研究・交流活動の成果を踏まえ、20年後の実現したい未来像をチーム毎に描き全体共有しました。
【環 境】
3チームが地球温暖化、カーボンニュートラル宣言、大気汚染、化石エネルギーへの依存、食品ロス、海洋プラスチック、海洋環境保護などの課題に着目してチーム毎に多様なテーマ設定をして対話するとともに、江の島海岸清掃体験や海洋環境問題の専門家によるレクチャー等のフィールドワークを通じて環境問題に関する多角的な理解と意見交換を行ってきました。
Team 1
・テーマ:
日中協力によるクリアランス制度の普及と再利用の促進
・ビジョン:
原子力発電所の運転や廃止措置に伴って発生する放射性廃棄物のうち放射能濃度が低く健康への影響が殆どないものについて普通の廃棄物として処理できるという「クリアランス制度」が、クリアランス物への不安解消のための制度整備、公共事業における活用、民間における利用促進等の対策を経て社会に定着しクリアランス物が幅広く再利用されている。
Team 2
・テーマ:
日中食品ロスの減少と再利用の研究
・ビジョン:
AIにより食品の生産、流通、消費における廃棄物が大幅に削減され、食品廃棄物や食品ロスから創出された再生可能エネルギーが有効に活用されるとともに“食品を無駄にしない”“資源を大切にする”という意識が人々の生活に定着している。さらに、技術、教育、政策等における日中協力によりカーボンニュートラルに向けて食品ロスレスが達成されている。
Team 3
・テーマ:
リサイクル銀行と廃棄物問題
・ビジョン:
家庭ゴミをコミュニティで分別回収のうえリサイクラーに売却した利益を住民たちが市中銀行のように貯蓄・引き出しできる仕組み「リサイクル銀行」の確立によりゼロウェイスト社会が実現されるとともに、ゴミ(価値ある資源)に対する人々の意識改革やゴミリサイクル活動を通じたコミュニティの環境保護への参加意識の高揚により環境問題の改善されている。
【教 育】
4チームがメディアの教育への影響、農村部と都市部の教育格差、教育のデジタル化、つめ込み教育、歴史認識等の課題に着目してチーム毎にテーマ設定をして対話するとともに、東京大学教授 園田茂人氏との座談会(テーマ「日本と中国の高等教育の違い」)や「eラーニング・ラボなどの最先端ICTラボの見学などを通じて研究・交流を深めてきました。
Team 1
・テーマ:
教育とメディア
・ビジョン:
スマホ、SNS,インターネットなど情報入手手段の多様化に伴って人々の考え方や価値観も多様化する中、教育現場においてネットリテラシー教育が普及・強化されることで、安心・安全を損なうフェイクニュースや日中関係の発展を阻害するような誤情報の正誤を見極めるが能力を一人一人が習得している。
Team 2
・テーマ:
ICTを用いて農村部と都市部の教育格差をどのように是正するのか
―日中の高等教育と義務教育の異同からー
・ビジョン:
ICT、特に生成AIの活用により農村部でも都市部でも同レベルの教育提供が可能となり地域間の教育格差が是正されている。その際、ICT教育アプリに関する中国の経験は日本の教育技術の改善・発展に役立つし、生徒の個性とニーズを重視する日本の教育理念は、成績を重視する中国の詰め込み教育の課題解決に役立つと期待できる。
Team 3
・テーマ:
日中の受験方式が歴史認識に与える影響
・ビジョン:
詰め込み教育による思考・討論の機会減少や歴史研究の知見に触れる機会不足が歴史認識問題の一因となっていると考えられ、20年後の入試では歴史研究の成果を問う問題形式の導入により教育現場でも多角的な歴史理解が促進されている。2006年に日中韓の研究者等が共同で東アジアの近現代史教材づくりに取り組んだように、この「入試版」とも言える改革により歴史認識問題は収束に向け進んでいる。
Team 4
・テーマ:
中日二次元文化の未来−中国、日本コスプレ文化を例に
・ビジョン:
中国は、コスプレ先進国である日本の経験を参考にこの業界における専門教育の強化、商業化の促進、オリジナルコンテンツ制作の支援、広報活動の強化、関連産業との連携などを図ることで中国のコスプレ産業が文化的にも商業的にも発展している。
【文 化】
日本側4チームが多文化共生や異文化コミュニケーション、在日外国人への違和感などの課題に着目してチーム毎に多様なテーマ設定をして対話するとともに、日中で活躍しているエンタメ関係者やインフルエンサー等による講演会、横浜中華街の視察等のフィールドワークを通じて研究・交流を深めてきました。
また、中国側も中国人民大学の学生と北京に留学中の日本人学生が、孫悟空のイメージ、日本の作品の二次創作をテーマに意見交換し、このうち11名/2チームの中国人民大学の学生がこの日のフォーラムに参加しました。
Team 1
・テーマ:
作品から見る日中交流
・ビジョン:
アニメやゲームなどの作品を通して日中文化交換の機会を増やす他、アニメ映画のような日中合同制作(『詩季織々』)、中国のゲーム開発者に対するソニーの支援、日中韓学生アニメーション国際共同制作 (Co-work)等のような日中の文化共創により、良好な友好関係が再構築され、日中両国が互いにネガティブな感情を持っていない状況になっている。
Team 2
・テーマ:
20年後の日本における中国人街の展望
―横浜・池袋にみる華人社会と日本社会の在り方―
・ビジョン:
中国人街は多文化共生を促進しながら伝統文化を維持し新たな現代文化を導入することで、日本語能力が不自由な新移民の中国人にも安定した生活基盤を獲得できる場所となっていると同時に、日本文化と中国文化を組み合わせた「相互文化イベント」を実施することで日本社会との相互交流を深める役割を果たしている。
Team 3
・テーマ:
中日二次元文化の未来−中国、日本コスプレ文化を例に
・ビジョン:
中国は、コスプレ先進国である日本の経験を参考にこの業界における専門教育の強化、商業化の促進、オリジナルコンテンツ制作の支援、広報活動の強化、関連産業との連携などを図ることで中国のコスプレ産業が文化的にも商業的にも発展している。
Team 4
・テーマ:
日中メディアの歴史と未来
・ビジョン:
多様な文化の発信媒体であるメディアは、技術の発展によりオンラインが一層進化(味覚・触覚・嗅覚)すると同時に技術的ネックによりオフラインが流行するなど二極化が進むが、AI翻訳により言語の壁が消え、国や人、文化の違いに寛容になっている。
Team 5 (中国人民大学)
・テーマ:
多メディア時代における孫悟空のイメージの中日調査
・ビジョン:
『西遊記』から生まれたキャラクターである孫悟空については、中国では原著に忠実である一方、日本ではゲーム「黒神話・悟空」のキャラクターとして人気を博すなど原著を離れ多元化されているが、今後は、新技術により古典の再発見と文化の相互理解の深層化が図られている。
Team 6 (中国人民大学)
・テーマ:
中国における日本アニメの受容−中国の若者による二次創作を中心に
・ビジョン:
中国の若者のサブカルチャーの1つであり、若者のアイデンティティの強化や他の人との相互理解の深化という点で大きな意義を持つ「二次創作」については、日中の共通共同プラットフォームが構築されると同時に、人間中心の創作観を重要視した上でAIなどのデジタル技術と共存共栄している。
【福 祉】
1チームが、少子高齢化社会、認知症問題、介護施設・人材不足、デジタル技術の活用等の課題に着目し、「高齢化社会におけるデジタル技術の在り方を考える」をテーマにチーム内で意見交換するとともに、AIなどの最新技術を活用したスマート高齢者ケアを実践している複合福祉施設見学などのフィールドワーク等を経て研究・交流を深めてきました。
・テーマ:
未来の高齢者生活生活
・ビジョン:
医療機関、介護施設、地域社会、家族、企業、政府等の協力により高齢者が安心して暮らせる環境を整備するとともに社会的関心の喚起により高齢者福祉や健康管理への投資を促進することで、社会全体の安定と持続可能な発展が図られることから良い高齢者福祉と健康管理が実現し、高齢者が社会の一員として充実した生活を送っている。
◆プログラム修了証授与
フォーラム参加者全員に修了証書授与式が行われ、笹川平和財団 笹川日中友好基金室 特任グループ長 尾形慶祐氏から4分野の代表者にそれぞれ修了証書が授与されました。
◆全体講評
まず、日本科学協会理事で東京大学名誉教授の渡邊雄一郎氏は、どのテーマ(分野)においてもDXなど自然科学が必要な面と哲学的なことを含め人文社会科学が必要な面があるが、それらを総合的に考えるようテーマ設計され、それぞれの背景をもとに議題が見事にまとめられていたとした上で、デジタル化、AI等の話が多く出ていたが、文化のみならず生身の人間−-人と人とのコンタクト、経験の共有ということが様々な形で提言されたことは非常に重要であると評価しました。
最後に、中国人民大学党書記の張東剛氏は、中日の若者が対話し20年後の未来について共に考えることは有意義であるとした上で若者の視点や考え方は興味深いとしました。更に世界における中日関係の重要性を強調し、中日友好の未来は若い世代にかかっているとしました。今後に向けては青年間の相互理解や相互協力が重要であること、また人類発展の源である革新的な考えの強化が重要でことを強調しました。
◆参加者感想
フォーラム終了後、中国人民大学の2人の学生にこのフォーラム参加前後の感想聞いてみました。
外国語学院学生の曹湛碩さんは「参加前、中国人の学生が関心を持っていることに対して、日本人の学生はどのような考えを持っているのか興味があったが、北京でも東京でも日本の学生と交流することで相互理解を深めることができた。自分たちの研究テーマ(“孫悟空”のイメージの日中相違)以外のテーマの発表を聞いてとても勉強になった。来年は日本に留学予定なので、その際はもう1度このフォーラムに参加し中日大学生の相互理解のために努力したい。」との感想と抱負を聞かせてくれました。
顔銘希さんは、外国語学院の学生として初めてこのような活動に参加したとした上で、「参加前、日本人とどのように異文化交流すればよいか分からず緊張していた。文化摩擦(ズレ)があるので、もし間違ったことを言ってしまったらどうしたらよいのかなど色々心配した。自分たちの研究テーマである“二次創作”については余り了解していなかったが、日本人の視点と自分たちと異なる意見を了解したいと思っていた。日本に来て異なる意見を了解し日本人の友達もできて嬉しく思ったし、二次創作への了解も深まったことは良かったと思う。」との感想を聞かせてくれました。
また、本会が実施しているPanda杯作文コンクールの訪中団OBで今年2月の日中ワークショップにも参加した横浜国立大学の倉持和輝さんも次のような感想を寄せてくれました。
私は「20年後の日本における中国人街の展望―横浜・池袋にみる華人社会と日本社会の在り方―」をテーマにグループ研究を行いました。フィールドワークでは池袋や横浜中華街を訪れ、中国文化が日本にどのように導入され、浸透してきたのかを確認しました。また、自主的に本や文献を調査しました。議論を行う過程で、中国出身のメンバーから本格的な中国料理と日本でアレンジされた中国風料理の違いや、日本文化の背景に存在する中国文化について教わる貴重な機会も得ました。自分の知らなかった知識を得ることができ、とても刺激的でした。
活動を通じて、文化の違いを単に受け入れるだけでなく、それを理解し、共感しながら協力することの大切さを改めて実感しました。日本と中国の間にはさまざまな課題が存在しますが、異なる考え方や価値観を否定するのではなく、それらを現実として認識し、事実を見つめることが、良好な関係を築く土台になると私は考えます。今回のような若者同士の対話と交流は、日中両国の未来におけるさらなる協力と発展に繋がると信じています。
さらに、浙江大学学生で笹川杯訪日団2024のOB、現在。東京大学に留学中の董潤高遠さんも今年2月の日中ワークショップの際に続き感想を寄せてくれました。
このフォーラムに参加できてよかった。 イベント中、私は新しい友人を作り、いくつかのグループディスカッションを通して「文化」というテーマについてより深い理解を得ることができた。 私たちは、テクノロジーの発展が私たちの生活様式を変えただけでなく、文化をかつてないほど多様で魅力的なものにしていることに気づいた。 メディア」を出発点として、私たちのグループは過去20年間のメディアの発展を振り返り、現代メディアの問題点を分析し、現実に基づいて将来の発展傾向を予測した。 私見では、このフォーラムは異文化交流であるだけでなく、より良い未来に対する中日の若者の共通の期待を示している。(和訳)
文責:宮内孝子