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日本科学協会の国際交流活動

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日中未来創発ワークショップ〜海の未来を考えるin 沼津〜の開催(6月17日) [2023年06月20日(Tue)]
 地球規模で増え続ける海ごみが生態系に与える影響は年々深刻化し、海洋環境保全が喫緊の課題となる中、豊かな海を未来に引き継ぐため、若者目線で海ごみ問題を考えようという交流イベント「日中未来創発ワークショップ」が、6月17日、沼津御用邸記念公園 東附属邸学問所等で開催されました。

 このワークショップは、笹川平和財団(東京都港区、理事長:角南篤氏)が、 日本科学協会と学生団体(「京論壇」、「茶話日和」)の協力により開催するもので、日本人学生と中国人留学生(合計33名)が、海ごみ問題の中でも海洋プラスチックごみ問題に焦点を当て、未来視点で対話し、日中民間レベルでの協力可能性を探りました。

 参加者は、海岸清掃体験や 「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲーム、専門家によるレクチャー、対話などを通じて海洋プラスチックごみ問題の現状や具体的な取り組みを把握した上で、その削減方策等について、日中民間協力の観点からアイデアを出し合い、今後10年間のアクションプランに取りまとめました。 

 今回のワークショップは、昨年9月6日9月9日、日中国交正常化50周年記念事業として東京で開催された初回ワークショップに続く第2弾で、今後も第3弾、第4弾を開催する予定となっています。

◆ 海岸清掃体験

 この日最初のワークは、“海ごみゼロウィーク”活動の一環として、地元ボランティア団体「地球をきれいにする会」(代表:尾澤裕氏)ともに実施する牛臥海岸の清掃体験です。

 まず、尾澤代表から、60年〜70年前のこの海岸にはプラスチックごみが見られなかったこと、海ごみの多くはプラスチックごみであること、海ごみは絶えず漂着するため、今日きれいにした海岸も次週の清掃時には元の状態に戻っていて活動に終わりというものがないということ等、この海岸における海ごみのかつての状況と今の状況、清掃活動の現状などを紹介していただいた後、実際にペットボトル、プラスチック容器・製品の一部、アルミ缶、流木、紙ごみなど様々な漂着ごみの回収作業を行いました。


ごみ清掃⓶.jpeg
尾澤代表からのレクチャー

 清掃体験後の参加者からは、次のような感想をいただきました。

・非常に細かいプラスチックごみが堆積していて、清掃が難しい
・海ごみの多くは川から流れついているということを知り驚いた
・一見きれいそうでも、よく見ると様々なごみが有って悲しい気持ちになった
・海ごみは砂の中にも有ることを知り、この問題は深刻な問題である思った
・海ごみ問題を研究しているのでこのイベントに参加したが、海ごみ問題は重要な問題と感じた
・海ごみの量の多さに驚いた
・マリンスポーツをしている人の姿と海ごみや流木は、非常に対照的であると感じた


2.海集合.jpg
”海ごみゼロウィーク活動”に参加

◆「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲーム

 海ごみ問題を“自分ごと”として捉え多角的な観点から考えるきっかけを掴むため、石川千里さんと玉谷圭子さんにファシリテーターを担当していただき、参加者は「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲームに挑みました。

 ゲームの舞台を“日本と中国が開発支援している近隣の第三国のあるまち”で、“海ごみ問題が深刻化している状況”と設定した上で、12チームに分かれた参加者が農家、漁業、林業、容器製造業、自動車製造業、清掃会社、メディア、役場、ボランティア等このまちの様々な職業を分担します。

 具体的には、各チームがその職業における海ごみ削減のための行動(カード)を選択すると、その結果が市民意識、技術、便利さ、ごみの汚れという観点からそれぞれポイント化されるので、その結果を他の職業チームと情報交換しながら社会全体として海ごみ問題の改善を目指すというもので、ゲームプレイを通して海ごみ問題の原因、削減のための取り組みや課題等を探りました。
 プレイ後の参加者からは、次のような声が聞かれました。

・良かれと思って選択した行動が、逆に市民意識の低下、ごみの増加に繋がることもあったので、環境に配慮する正しい知識が必要だ
・全ての側面が互いに関係し合っていると実感でき、良い学びとなった
・市民意識が高くなれば、ごみも減っていくので、自ら日々実行していく必要がある
・他のチームが選択する行動により自分のチームの結果も影響を受けるので、まち全体で情報共有することが大切だ
・思い通りにいかないことが多々あり、ごみ問題の複雑さを実感した
・まちを変えるためには、基礎となる市民意識と技術が必要だ


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海ごみ削減のための行動カードを「仕事面」と「生活面」から選択


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選択カードは4つの観点からポイント化

◆専門家レクチャー

 参加者が海洋プラスチックごみ問題について科学的視点でも考えられるよう、海ごみ対策の具体例から海ごみ問題への理解を深められるよう、日本財団 海洋事業部 シニア・オフィサーの塩入同氏から講話をいただきました。

 塩入氏は、まず、海ごみの約7割は自然分解することがないプラスチックごみであること、また、海ごみの8割は陸で発生していることに言及し、陸ごみが川へ運ばれ、川から海へ流れていく過程を紹介した上で、海より川、川より陸と早い段階でのごみ回収はより容易であり、より低コストであることから、できるだけ早い段階でのごみ回収の重要性を強調しました。

 さらに、海ごみは、広範な地域や国々に関係する問題であることから、自治体連携による海洋ごみ対策の具体例「瀬戸内オーシャンズX」を紹介し、海ごみ問題を根本的に解決するためには、自治体、企業、市民が協働して海ごみ削減のための行動を実践すること、ひとりひとりが海ごみ問題を意識し、地域社会や国、世界国々の意識が変わっていくこと、そして行動を実践することの重要性を強調しました。


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川のごみ拾いは海ごみ回収の「最後の砦」と、塩入氏

◆対 話

 この日最後のワークはブレインストーミングで、参加者は、海岸清掃体験、カードゲーム、専門家レクチャー等を通じて得られた理解、発想、気づきなどをベースに対話し、最終目標である海ごみ削減のためのアクションプランづくりに臨みました。

 今後10年間における日中民間協力で海ごみを減らすため、日中の“誰と誰が”、“どのようなアクションで”実現させるのか、実現のための“課題は何か”などをポイントに、グループ毎にアイデアを出し合った後、他のグループとの意見交換、ブラッシュアップを経てアクションプランを確定させました。


6.ブレスト.JPG
グループ毎のアクションプランづくり

 最終発表では、海洋プラスチックごみ削減のため、プラスチック製品のリデュースやリユース、リサイクルの観点から日中間の学術ツアー、観光地のごみ巡り、自然分解素材の開発、廃プラスチックを活用した商品開発、フォーラム開催など様々なアクションが提案されました。
★グループ1
・アクション:企業協賛学術ツアー
・課題:企業の収益性、法制度の違い/分別法の違い
<参加者からの感想>
・日中間で学生の段階でごみ問題の意識をもてるのは良い
・技術所有権はどうするのか
・海洋研究とIT技術の組み合わせがいい
・企業のメリットが課題

★グループ2
・アクション:日中ゴミ巡り〜日中の大学と観光協会との協働〜
・課題:ビザ問題・意欲・資金
<参加者からの感想>
・観光をインセンティブに両国の意識改革を図るのは面白い
・お金がかかりそうだが、影響範囲は限定的
・日中両国の比較、データ収集は実践可能性が高く良性的競争を促せる
・観光とゴミ問題をミックスさせることに驚いた。具体性、社会性、独自性の説明も良い

★グループ3
・アクション:日中の研究機関による自然分解素材の開発と生産
・課題:開発資金、生産コストと販売価格、知的財産権、国により違う法規制
<参加者からの感想>
・知的財産権に関する課題が興味深い(法規制の面も)
・課題とそのソリューションに対して広範な考察がなされている
・その国の研究機関と企業が、なぜ、自国ではなく他国の研究機関と企業と協力するのかと思った
・生産の段階でその量を減らすことは良い

★グループ4
・アクション:日中デザイナーによる商品開発
・課題:収益化、著作権・特許等、資金・人材
<参加者からの感想>
・回収プラスチックの商品による循環のための考察とアプローチが面白い
・私もNIKEの環境にやさしい素材の靴好きなので、デザイナーの協力は楽しそう
・経済的な角度からの分析も大事、発展できない場合、環境も守れない
・協力に関わる法規制や著作権の複雑さがよく分かった

★グループ5
・アクション:日中フォーラム(研究機関、企業、学生ボランティア)
・課題:意識の低い人の参加、海ごみの対する国際的な意識
 <参加者からの感想>
・開催国を毎回変えるのはとても良い 国は異なっても海は世界に 1 つしかないので、その点を感じられたら有意義
・今のごみをどう減らす?これからのゴミはどうするか?この二つの問題提起が非常に良い
・ボランティアに継続性があるのかなと思った 一過性にならなってしまわないのか
・参加者のインセンティブの方策が面白い

★グループ6
・アクション:海ごみを減らすための諸対策
       (ゴミ分別制度、既存・今後のゴミ対策、日中韓協力研究、材料開発等)
<参加者からの感想>
・CO2 と同様に各国でごみの排出量を定めるのが面白い!民間レベルだと限界があるかもしれない
・規制だけでなくインセンティブも考慮しており、既存の枠組みをうまく拡張していて興味 深い
・对于现存的垃圾和未来的垃圾领着都有所考虑,不仅时中日两国之间,中日韩三国情况都有 所考虑
・学校教育の中に海洋ごみを取り入れるのはいいアイデア


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最終発表(Gr.3 自然分解素材開発)


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最終発表(Gr.5日中フォーラム)

◆講 評

 各グループが発表したアクションプランを受けて、塩入氏は、「今回のワークショップ参加者の中から海ごみ問題を解決できる人が出てくることを期待する」旨の講評を述べられました。

 また、笹川平和財団 海洋政策研究所 研究員の田中広太郎氏は、今回のワークショップのキーワードである日中民間協力に関して「法的な拘束力がある政府レベルの協力は動きが遅いが、民間レベルでは即効性がある。一人ひとりが動けば、世界的な動きになる」として、民間協力の意義を強調しました。

 ファシリテーターの石川さんは、「今日は楽しかったですか。楽しむということがとても大事だと思います。楽しければ自然と続けていくことができ、その継続がいつしか大きな力になる」として、今後も参加者が海ごみ削減のための活動を続けていくことへの期待を述べました。

最後に、主催者を代表して笹川平和財団 笹川日中友好基金 特任グループ長の尾形慶祐氏は、「今後もこうした交流の場を多く作っていきたい。交流に関する希望や提案があれば是非聞かせて欲しい。財団で手伝えることがあれば、全力で応援する」と参加者に呼びかけた上、「皆さんと共に交流イベントを開催し、共に国際交流の場を盛り上げて行きたい」との希望を述べてワークショップを閉会しました。


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「共に交流の場を盛り上げていきたい」と尾形慶祐氏


10.集合写真.JPG
海の未来を共に考え対話した日中の参加者











Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 13:18 | 日中未来共創プロジェクト | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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