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15のまなび 馬見塚珠生さん「児童虐待と愛着障害 その予防」 [2015年10月02日(Fri)]
第9回  9月26日(土)「児童虐待と愛着障害 その予防」
     10:15〜12:30 講座・質疑応答
     13:00〜14:15 講師を囲んでの座談会

講師:親と子のこころのエンパワメント研究所 代表 馬見塚珠生さん

 15のまなびも、もう後半に差し掛かりました。第9回になる今回は子育ての文化研究所の仲間でもあり、親と子のこころのエンパワメント研究所代表を務められている馬見塚珠生さんをお招きしました。馬見塚さんは、臨床心理士として長年京都市のスクールカウンセラーをされてきました。現在は京都府内で、複数の保育園幼稚園でのカウンセラー、児童デイサービスの心理職として子ども支援、親支援をされています。また、子ども虐待防止をめざし、親向けの心理教育プログラムを各地で実施されています。最近は虐待予防だけでなく、起きてしまった虐待によるトラウマの治療ができるように、トラウマ治療者としても活躍なさっています。

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 今回は子育て支援者として虐待予防の目を養うため「児童虐待と愛着障害 その予防」というテーマでお話を頂きました。参加者の中には、現場で気になる親子が居るが、どのように声を掛けて良いのかわからない支援者や、教育、行政など多様なフィールドの方の参加があり活発な質疑応答や意見が飛び交いました。

 全国の児童相談所に寄せられる虐待相談件数は2012年度の時点で66,807件の相談が寄せられ、京都府は全国12位であり首都圏が上位を占めています。年々右肩上がりになっていますが、これは徐々に虐待という意識が浸透し、地域で気に会ったら通報しているという現状の反映でもあります。また、相談件数1位の大阪府は虐待予防の活動が活発だからこそ相談件数も1位ということになります。

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そのことを踏まえ、今回の講座の目標として4つのテーマが挙げられました。
1つ目 子どもの虐待対応の枠組み(フレームワーク)を知る。
2つ目 子どもの虐待が及ぼす問題と後遺症を知る。
3つ目 健全なアタッチメントを育む重要性を知る。
4つ目 私達に出来ることを知る。
この4つのテーマを順序立てて分かりやすく説明して下さいました。

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 まず、1つ目の子どもの虐待対応の枠組み=フレームワークを知る、ですが、一言で虐待と言ってもその捉え方は様々です。今回は森田ゆり氏の著書『新・子どもの虐待』(岩波ブックレット)で扱われている虐待問題に取り組むための3つの柱と1つの基盤をもとに進められました。まず、大きな基盤として子どもの人権がベースにあります。子どもの権利条約などでもうたわれていますが、子どもを1人の人間としてみていくことです。これは柱の1つである「子ども観」にも繋がってきます。他の2つの柱は「公衆衛生」と「エンパワメント」でした。「公衆衛生」という視点は新たな視点でした。
 実は7日に1人の割合で子どもが虐待で亡くなっています。これはすぐにでも対策と予防をしていかなければいけない数字です。このことから「公衆衛生」が重要になる3つの理由として
@ 健康医療上深刻な問題である事
A 予防教育の徹底によって発生件数を減らせる事
B 伝染性ゆえに緊急性が高いが、世代に引き継がれて伝染している
が挙げられるとのことでした。Bに伝染性が挙げられていますが、感染症のようにすぐに派生する伝染ではなく、世代間、家庭の文化として引き継がれるため、この部分をどのように変えていくかが重要な取り組みになるのだと仰っていました。これから現状に対する緊急性、地域ぐるみの予防、地域社会を巻きこんだ地域社会環境の整備の3つの認識が必要になってくるとのことでした。

 ここで少し、虐待の5次予防図と馬見塚先生が現在トラウマ治療でも活用しておられる親教育プログラムの対応についてお話がありました。虐待の5次予防図は、

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D虐待
C疑い
Bハイリスク
A養育問題
@ 健全育成
@→Dに向けて下からピラミット状に図式化されていました。@、Aが一次予防、B、Cが二次予防、Dが三次予防であり、一次予防に対する親教育プログラムは「安心感の輪」(COSP)、二次予防に対する親教育プログラムは「トリプルP」、三次予防に対する親教育プログラムは「MY TREE」でした。一次予防の層は、子育て家庭には誰にでもある悩みやしんどさであり、それはひろばなどで解消できるものとのことでした。しかし、ここに例えば夫の非協力やDV、知的なものが加わるとハイリスクになり、二次予防の層はしんどさの要因が一つではなくいくつかの要因が複合的に存在しているとのことでした。そのため、少しでもハイリスクの可能性がある場合は保健士等に繋ぎ、大変な事になる前の介入が重要になってくるとのことでした。お話をお聞きし、二次予防になる要因は外からは見えにくく、二次予防の層への支援はなかなか行き届きづらいように感じました。

 続いて「子ども観」(子どもをどう見るか)ということについてお話がありました。『子どもが繰り返し嘘をつくことについてどう考えるか』という例えを出されました。参加者の皆さんからは「嘘をつかないといけない状況だった」など、子どもの視点に立った意見が出されました。嘘はいけないこと、ということを子どもに伝えることは養育者として必要なことですが、伝える際にいつも子どもの視点に立って伝えられるかと言われると自信の無い雰囲気が漂いました。保育士や支援者としてであれば子どもの視点に立って冷静に伝えられるかもしれません。しかし、「親」となると、どうしても強く叱ってしまうこともあるでしょう。時には手を挙げる方も居られるかもしれません。そのようなことは誰にでもある可能性であり、それは子どもと距離が近いあまりに「親」としての責任や子どもを思い通りにしたいという思いが強くあるからだと仰っていました。同じように友達が自分に対して嘘をついたとしても叩くまでする状況は少ないと例えて下さいました。それは友達との信頼関係が壊れてしまう、つまりその人を大切にしたいという思いからだと仰っていました。その思いは友達を「私とは別の人」「同じではない」「対等」だと思っているからだと説明されました。
 ここで改めて「子ども観」について考えると2つの「子ども観」が考えられるとのことでした。1つ目は「子どもを1人の個人として尊重されるべき人格としてみる」という考え方で、子どもの人権を尊重する考え方です。二つ目は「親、家庭、国家による指導と育ちの対象としてみる」という考え方です。これは子どもの人権を尊重しない子ども観ですが、逆にこのような子ども観をベースにした社会は虐待が存在しません。とても二極化した子ども観ですが、どのような子ども観を持つかによって虐待へのアプローチが変わってくるとのことでした。一つ目の子ども観をベースに虐待へのアプローチを考えていく必要がありますが、子どもの人権を尊重するには前もって子どもとの間にルールを作ると良いと教えて下さいました。子どもが駄々を捏ねても、子どもとの間にお互い同意したルールが存在するとそれに沿って対応でき、それは子どもの人権を尊重することに繋がるとのことでした。

 次に「エンパワメント」ですが、これは、人はもともと素晴らしい力を持っていることを前提とし、その力を引き出し、高める事だそうです。これは虐待問題に取り組む上で発生予防策として重要な位置を占めるとのことでした。少し疑いのある家庭やハイリスク家庭に支援をする際、親の関わりや考え方を増やせるような支援をすることがありますが、それによって子どもが変わると、親も変わったことになります。その際、親が変わったからこそ子どもも変わったのだと親自身の変化を褒め、力をあげるような支援が必要になってくるとのことでした。

 続いて、脳研究から見た虐待がもたらす子どもの発達について発達障害と絡めてお話下さいました。虐待は身体的虐待、心理的虐待、ネグレクト、性的虐待と4つに分類されますが、虐待の種別によって脳へ与えるダメージと子どもへの影響は変わってきます。身体的虐待は直接の痛みや、いつ叩かれるかわからないという怖さが常にあるため、頭の中は常に危険に備えている状態だそうです。これは情動コントロールを司る大脳前頭葉が刺激され続けているため、落ち着きが無くADHDのような多動性が見られたり、少しの事で逆切れしやすいなどの様子が見られたりするとのことでした。心理的虐待は、無視や親のDVを見せられることも当てはまります。これは子どもの存在に応えてもらえないことで起こり、聴覚野を司る大脳側頭葉が阻害されている状態だそうです。また性的虐待は視覚野を阻害されるため、そのような虐待を受けている子ども達は視覚、聴覚からの情報が整理できないことが多いそうです。ネグレクトは養育をしてもらえない虐待です。右脳と左脳を繋ぐ脳樑という部分が阻害され、普通右脳から左脳へは言葉にして繋がっているそうですが、子どもへの声かけが無いと右脳と左脳を繋ぐ言葉が無く、脳のネットワーク不全や発語が遅い症状が現れます。それによって他者とのコミュニケーション不全という影響が出てくるとのことでした。このように脳研究から虐待を見ると、虐待によって発達障害のように見られることと、もともと発達障害を持っており育てづらさから虐待に陥るケースと2パターン見られます。二つの相互作用により脳の発達阻害が増えているのが現状のようです。

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 以上のようなお話があり、まずは小さい時に健全なアタッチメントを育むことが大切だとお話し下さいました。(その方法の一つとして安心感の輪が紹介されました、が詳しくは次回の北川先生の回でお話をお聞きします)。
 必ずしも健全なアタッチメントが育まれず、アタッチメント障害になることもあります。自分の存在を軽視し、何事にも無気力になる反応性愛着障害と、誰かれ構わずくっつき愛情をくれる人を求める脱抑制的対人交流症とがあるとのことでした。もともとアタッチメント(「愛着」と訳されることが多いです)とは、不安な時に慰めて欲しい、大きな存在にくっつきたい(守られたい)という欲求ですが、アタッチメント障害になると必要な時に頼れなかったり、親が頼りなかったりする状況に陥ります。そのような状況を見逃さずにキャッチすることが虐待の早期発見になるためこれからの支援者の課題になると感じました。

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 最後のテーマとして私達支援者ができることですが、今までお話をして下さったように、まずは何より発生予防が一番とのことでした。今は以前よりも社会で虐待の認識が高まったからこそ、今まで隠れていた部分が見え始め、虐待件数も増えてきたのかもしれませんが、いずれにせよ虐待を未然に予防できるに越したことはなく、そのためには私達子育て支援者の働きかけが重要になってくると感じました。

 最後に参加者からの質疑応答や感想が述べられました。皆さんご自分のフィールドを想定されながら虐待予防のための実際の声かけや対応を質問されました。それに対し、親の視点を変えることが必要だが、子育て支援は親の価値観を否定するものではない、とお話し下さいました。どう伝えるかはとても難しいですが、親自身の価値観を大切にしつつ支援者が伝える方法も一つの方法であり、「その方法も良い」と思ってもらえるような関わりが大切になってくるようでした。そのためにも普段から子どものことをよく見て、その様子を親と共有する事、必要な時には機関に繋げられるように、信頼できる機関と繋がっておくことが必要だと仰いました。

 午後は馬見塚さんとお昼を一緒にしながら参加者同士、ご自分のフィールドで経験された事、難しい対応などを話され、時間も忘れるほど活発な意見交換の場になりました。
 虐待に至るまでの心のもやもやは何気ないおしゃべりで解消できることもあります。そういった小さな虐待予防はひろばなど地域だからこそできる事なのではないかと感じました。

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