作業所でメール便の袋詰めに取り組む「チャオ」のメンバー
障害があっても地域の中で働き、暮らしていく「ノーマライゼーション」の理念が広がりつつあるが、それをサポートする支援組織の悩みは人手と資金の確保だ。なかでも「資金」は公的支援に加え、独自の事業で収益を上げることが
就労支援にもつながり、組織としての知恵の出しどころ。さまざまな試みがみられる中で、「画廊経営」というユニークなジャンルに挑戦しようとしているグループが福島県いわき市にある。
いわき市常磐湯本町のJR湯本駅近くで共同作業所を運営している「
地域活動支援センター・チャオ」は、精神障害者の生活や就労を支援する作業所だ。「チャオ」は10年の活動歴を持つNPO法人で、グループホームなどから通ってくる15人余のメンバーが、メール便の袋詰め作業や配達に携わっている。作業所を銀行などが近い市中に確保しているのも、こうした仕事の利便性を考えてで、扱い量は確実に増加している。
また郊外の農場を借り、シシトウ栽培を手がけている。5月から10月のシーズン中は、ビニールハウスでの植え付けから収穫、出荷まで、ボランティアの協力を得ながら畑仕事に汗を流す。6月には最初の収穫が始まり、「遠野シシトウ」のブランドで出荷する。今年で5年目となるシシトウ栽培は、メンバーの屋外活動としても好評だ。
これらの事業を切り盛りする理事長の山田肇さんはアイデアマン。メール便やシシトウ栽培のほかにもリサイクル品をネット・オークションに出品、作業所の貴重な運営費を確保している。市内の廃品回収業者の協力で、そこに集まった「捨てられた家具」などをみんなで磨き上げ、きちんと使えるようにしてオークションにかけるのだ。保管用の倉庫と発送作業が必要となるが、インターネットによる販売だから低コストで効率がいいという。(写真:郊外の澄んだ空気の中で改装が進む「画廊」と山田理事長)
新事業としてグループが乗り出そうとしているのが「画廊」経営だ。いわき市郊外の小川町に、450平米の土地と木造平屋建て170平米の民家を借り受け、個展やグループ展に展示施設を提供しようという、スペース貸しを目指す「貸し画廊」の試みだ。築14年の住宅を、
日本財団の助成を受けて作品展示室3、実技室1、休憩室1などに改装中だ。今年夏には第1回の展示会を開催する計画で、プロによる版画教室も開催していく。(写真:民家のリビングを作品展示室に衣替え)
山田さんが「貸し画廊経営」を考えたのは、いわき市の土地柄がヒントになった。「いわき市は、市民運動で立派な市立美術館が建設されたほどの絵の愛好者が多いところで、作品発表のための会場を探している人が多い」というのだ。だから展示スペースを提供すれば、その受付や案内発送など、メンバーが市民と触れ合いながらできる仕事が増えると考えた。こうした事業収入で利用費を抑え、収入をアップして社会復帰に繋げたいのだ。(写真:庭からの採光も十分な展示室)
建設地は市街から車で20分ほどの郊外だが、市民の行楽地である二ッ箭山の麓にあってハイキングコースの入口。ハイカー用の広い駐車場が隣接しており、行楽の行き帰りに立ち寄る人も期待できそうだ。アイデアマンの山田さんは「個展の作者の協力で、展示作品をネット・オークションに出品できないか」などと、早くも「戦略」を練っている。(写真:温泉街の一角に作業所を持つ「チャオ」)