開会式のテープカット
中央右がアール・ブリュット・コレクションのリュシエンヌ・ペリー館長(LapoLapoLa提供)
北海道旭川市の
北海道立旭川美術館で『アール・ブリュット/交差する魂』展が開幕した。スイス・ローザンヌにある「
アール・ブリュット・コレクション」と、滋賀県近江八幡市の「
ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」の連携で実現した企画展で、国内で開催される「アウトサイダー・アート」の初の本格的国際交流展だ。訪れた人たちは「人間が持つ根源の表現衝動」に直面し、いつもの美術展とは異質な驚きで作品に見入っている。
厳寒の中、熱心に詰めかけた市民たち 澤田真一さんの粘土造形を鑑賞する人たち
「アウトサイダー・アート」は、美術界や教育現場とは無縁に生きる作家たちによって生み出される創作活動の総称として用いられている。
滋賀県社会福祉事業団が運営する「
NO-MA」は、知的障害者ら国内のそうした作家を発掘し、作品の展示活動を続けてきた。一方、直訳すれば《生(き)の芸術》という意味になる「アール・ブリュット」は、いち早くこうしたジャンルに着目して収集された世界的コレクションだ。
今回の展示は、アール・ブリュットのコレクションと日本の作家のコラボレーションで、絵画、コラージュ、造形など多岐にわたる。素材も鉛筆やボールペン、ダンボールや包装紙、食器の破片など、既成の概念で区分することが難しい作品群となっている。作家自身、孤児院や精神病院で生涯を送るなど、正規の美術教育を受けた経験を持たない。それ以上にこの美術展を特徴付けているのは、作品が発表を前提に制作されたものではなく、鑑賞者の評価や賞賛に無関心であることだ。
(写真:ダンボールに描かれた小幡正雄さんの作品)その特色については、旭川が市中心部でも氷点下25.7度と今冬一番の冷え込みとなった19日、同美術館で開催された開催記念フォーラムで、同コレクションのリュシエンヌ・ペリー館長が「アール・ブリュットのキーワードは沈黙・秘密・孤独であり、社会的しがらみから開放された作家たちであるからこそ、独創的創造が生れた」と解説した。フォーラムには100人を超す市民が参加、講演とトークショーを熱心に聴いた。
この展覧会は、「NO-MA」のアートディレクターである「はたよしこ」さんらが3年越しに進めてきた企画で、アウトサイダー・アートの認知度が低い日本にアール・ブリュットのエネルギーを注入し、人間の表現衝動の根源を知らしめようという狙いがある。また同時期、スイスで日本展を開催、日本のアウトサイダー・アート作家を世界に紹介することになっている。
日本財団はこれら一連の企画に対し支援を続けている。
(写真:道立旭川美術館で開幕した「アール・ブリュット展」)旭川展は、地元でこうしたジャンルの作家発掘を進めている
NPO法人・ラポラポラ(工藤和彦代表)が主催、2月17日まで開かれている。以後、滋賀「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」(2月28日−5月11日)、東京「松下電工汐留ミュージアム」(5月24日−7月20日)を巡回する。