昔語りで町おこし 岩手・雫石の「語り隊」参上! [2009年03月26日(Thu)]
昔語りに夢中の(右から)石井さん、小林さん、堂前さん 「むがーし 杉の木の根っ子から たーんたーんと心に響く いいおどがしてた場所が あったんだと」。そのイントネーションを、正確に書き表すことは極めて難しいのだけれど、石井浩一さん(47)と小林由美子さん(38)が語り始めた岩手県雫石町に伝わる地名伝承を文字に起こせば、こんな具合になる。二人は「しずくいし・昔っこ語り隊」の隊員なのである。 |
岩手山の南麓にあって、盛岡と角館(秋田県)を結ぶ秋田街道の要地として代官所が置かれた雫石は、かつては南部駒の取引などで街道が人で埋まる賑わいを見せた土地だという。その中心商店街も、今では夏の「よしゃれ祭」の日を除けば閑散としたもので、人口1万9000人の自然豊かな町は、農林業とともに温泉やスキー場、それに小岩井農場などの観光に力を入れている。(写真:雫石小の児童クラブで開いた「昔語りの会」(「語り隊」提供))
この静かな町で、昔ながらの「雫石弁」の魅力を再発見し、語り継がれて来た「昔語り」を継承して行こうと活動しているサークルが「しずくいし・昔っこ語り隊」である。公民館の「昔語り教室」の卒業生らによって昨年4月、結成された。「コトバが持つ文化力を、地域づくりに繋げよう」という意気込みで、「お年寄りが元気ないま、始めなければ」と、26歳の若者や84歳のおばあさんら20人が立ち上がった。(写真:地元料理を持ち寄って「語り隊」の新年会(「語り隊」提供)) お年寄りを訪ねて「昔っこおへでけで」と昔語りを採話し、「かだれるようになるべ」と練習を重ね、「聴いでけで」と月例会を開いている。自動車販売店を経営する石井さんが会長、町商工観光課職員の小林さんが事務を担当する。ともに生粋の雫石っ子で、石井さんは「語り隊」の拠点にしようと、「よしゃれ通り」の空き店舗を借りて「昔語り館」をオープンさせるほどの熱中ぶりだ。(写真:自ら開設した「昔語り館」で石井さん) 5月から11月の毎月第1日曜日に開かれる「軽トラック市」(朝市)では「昔語りライブ」に挑戦、路上で語りを披露している。「こんなことになろうとは夢にも思わなかった」という小林さんの「語り部」活動は、両親を喜ばせ、夫を驚かせ、娘二人は「私もやる!」といった具合に家族を巻き込んでいる。(写真:朝市で路上ライブを熱演する小林さん(「語り隊」提供)) こうしたサークル活動が生まれた背景には、町の活性化を目指し、6年前に結成されたNPO法人「しずくいし・いきいき暮らしネットワーク」の存在がある。主催するグリーン・ツーリズムの中で雫石の昔語りを聴く活動を続けて来たのだ。この1年間、日本財団の《郷土学助成》を得て「語り隊」を支援して来た。事務局長の堂前義信さんは「ここまで来れば、皆さんは独り立ちしていくでしょう」と頼もしそうに話している。 「語り隊」はこれまでに30話ほどを採話、冊子にまとめたり映像や音声に収録している。今後は民話のふるさとと呼ばれる遠野市のグループと連携し、専門家の指導で「雫石昔語り」の体系化を進めたいと考えている。「細々でも長く続けたい」という隊員たちにとって、「よその国の言葉を聞いているような雫石弁」を発見する毎日が「どっと はれ(り)ぃえ」(めでたし、めでたし)なのである。(加藤春樹) |