さあ!「子ども時間」だ クリニクラウンがやって来る! [2008年10月30日(Thu)]
赤い鼻を「ノーズ・オン」して子ども時間の始まりだ 「クリニクラウン」をご存知だろうか。クリニック(病院)とクラウン(道化師)を組み合わせた造語で、医療の現場で患者らの心に「生きる力」を呼び起こそうと笑顔を生み出す道化師たちのことだ。大阪市を本拠に活動するNPO・日本クリニクラウン協会は、自らを「臨床道化師」と訳している。日本ではまだ馴染みが薄い活動ではあるけれど、長期の入院生活を続けている子どもたちがクラウンに向かって「今度はいつ来るの?」と問いかけて来るようになった。活動の場は確実に広がっている。 |
日本クリニクラウン協会は2005年に発足し、これまでに13人の認定クラウンを養成、全国8カ所の大学病院やこども病院と連携してクラウンの定期派遣事業を展開している。新生児から18歳までの小児病棟に入院している子どもとその家族が対象で、月に1、2回、1回2時間程度の定期訪問を続けている。クラウンは二人一組で病室を訪れ、1年間に7000人ほどの子どもたちに会うことになる。(写真:ベッドを離れられない子どもから、笑顔を引き出していく)
クリニクラウンの認定を受けるには、協会が主催するオーディションに合格した後、3ヶ月間の養成トレーニングを受け、提携先の病院で半年ほどの臨床研修が課せられる。そうやって最後の認定試験に合格して、初めて正規のクリニクラウンとして活動することができる。これまでの3年間で400人を超す応募があったものの、認定されたのはまだ13人(男5人、女8人)。最年少は29歳、最年長は60歳だ。 病気の治療に「笑い」が大きな効果をもたらすことは、医療の現場で今や「常識」となりつつある。しかしクリニクラウンが目指すのは、単なる「道化た笑い」をとることではない。闘病のため、本来関わるべき社会との接触を妨げられている子どもたちの想像力を刺激し、自主性や機動性を育む機会をプレゼントすることが目的だ。そうすることで子どもたちが、本来の生きる力を取り戻すきっかけをつかむ可能性が増すからだ。(写真:医療スタッフも加わって、病棟全体がクラウンの世界に) 子どもたちをリラックスさせて対人恐怖を払拭させ、保護者のストレス緩和にもつなげるために、道化師のスタイルは効果的だ。しかしシンボルの「赤い鼻」以外は派手なメイクはせず、衣装も安全で清潔を保持することが優先される。医療スタッフと入念な事前打ち合わせを行い、身体と道具の消毒を徹底し、時には赤ちゃんの集中治療室を訪問することもある。 例えば「ドジな子ども」を演じることで、むしろ入院中の子どもたちがクラウンの世話を焼かざるを得ないような状況を作り出し、《子ども時間》を開始する。子どもたちは長期療養の中で、すっかり受け身の生活に慣れてしまっているが、クラウンと過ごした後は「子どもらしい笑顔が生まれ、病棟が明るくなった」「子どもの積極性が高まり、参考になった」と、医療スタッフを驚かせる変化を見せる。(写真:ワークショップで理解を広げる(以上の写真は「日本クリニクラウン協会」提供)) 協会設立のきっかけは、先進地・オランダの在大阪・神戸総領事館からの働きかけだった。「日本にはなぜクリニクラウンがいないのか?」という問いから始まったプロジェクトが関西を中心に共感の輪を広げ、医師、保育士、プロの道化師らが集まった。オランダでは子どもの社会的権利としてのクリニクラウン事業が定着しており、国民の寄付と尊敬がクラウンたちを支えている。 日本クリニクラウン協会がNPOとなって今月で丸3年。設立時からの理解者である大阪府立母子保健総合医療センターの河敬世病院長は「クリニクラウンは、自由を奪われ落ち込んでいる子どもたちに、子どもらしさを取り戻してくれる特効薬です」と現場の声を寄せている。協会事務局長でリーダー役の塚原成幸さんは「優秀なクラウンを増やし、より多くの医療現場の求めに応えることがこれからの課題です。日本ならではの社会的定着の方法があると信じ、みんな活動を続けています」と語っている。(写真:オランダ財団と共通のシンボルマークを掲げる塚原事務局長) デモンストレーションを受け入れている病院も含めれば、クリニクラウンの派遣先は関西と関東を中心に東北や北海道にも広がっている。クラウンたちは実費だけで病院訪問を続け、月1回の大阪での研修会も欠かさない。日本財団はこうしたクリニクラウンの活動を支援している。 |