アジアの融和へ大衆文化の可能性 国際シンポで夏目房之介氏ら講演 [2008年10月24日(Fri)]
白石隆氏、夏目房之介氏らの講演映像(2:50秒) アジア5カ国のジャーナリスト、芸術家、学者らの研究交流活動を推進する日本財団APIフェローシップのフェローらがパネリストとして参加する国際シンポジウムが、10月4日、東京で開催された。白石隆・政策研究大学院大学副学長の基調講演のほか、マンガコラムニストの夏目房之介氏やアジア各国からのパネリストが分断するアジアの課題と融和に向けた大衆文化の可能性について議論した。 |
APIフェローシップは、アジアが直面する諸問題について国境を越えて取り組む人材育成を目的に2000年にスタートした。タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、日本のアジア5カ国から毎年30人がフェローとして研究活動に従事し、これまで約240人を輩出している。フェローは各自の研究を行うだけでなく、ワークショップなどを通して研究成果を共有し、国籍や専門領域を超えたネットワークの構築も大きな課題だ。(写真:白石隆副学長)
この日の基調講演ではAPI選考委員でもある白石氏が、感染症、国際テロ、海賊、環境破壊など国単位では解決できない問題の解決に向けて協力することが「東アジア共同体」の土台となるとし、このような国境と分野を越えた対話の中で「共通の課題を発見することが重要だ」と語った。続いて第一部は「分断のアジア」をテーマに、インドネシア・国際バタム大学講師のリナ・シャーリヤニ・シャルラー氏(07年フェロー)による移民労働と人身売買の問題など、国内外からの研究報告が行われた。(写真:シャルラー氏) 大衆文化の可能性をテーマにした第二部では、2001年フェローの夏目氏が、海外のアニメ雑誌で漫画やアニメと一緒に大仏や神社、こたつなど日本文化が解説されている事例を挙げながら、日本の大衆文化がアジアで浸透していることを紹介した。明治学院大学教授の四方田犬彦氏(07年フェロー)は東南アジアのお化け映画について解説、「米映画では強い男性が怪物になるのに対して、東アジアでは女性や子どもなどの弱者、犠牲者が幽霊になり、その恨みが解かれることで観客はカタルシス(魂の浄化)を感じる」と同地域の文化的共通性に注目した。また、フィリピン・ニューシネマ研究所のニック・デオカンポ所長(01年フェロー)は、俳優、脚本、監督、資本をアジア各国で構成し共同制作する「アジア映画」の可能性について語り、「映画や大衆文化が人々の考えを共有するのに役立つ」と指摘した。(写真:シンポジウムのパネリストら) シンポジウムを主催した日本財団の笹川陽平会長は「会議を行い、報告書を提出して終わりといった単なるシンクタンクにとどまることなく、政策にどうつなげるかを考える“ドゥタンク”にしなければならない」と述べ、同フェローのネットワークを活用した具体的な行動への期待を示した。(写真:笹川会長)(本山勝寛) |