「死を見つめ、今を生きる」を考える 長崎でmemento mori最終回 [2008年10月16日(Thu)]
会場の浦上天主堂には多くの聴衆が詰め掛けた 日本財団、笹川医学医療研究財団、ライフ・プランニング・センターが1999年から続けてきた「memento mori」セミナー最終回が12日、長崎市の浦上天主堂で開かれた。30回目の区切りとなるセミナーは「死を見つめ、今を生きる」をテーマに、講演とバイオリン演奏が行なわれ、約800人が生と死について考える時間を共有した。 |
セミナーではまず作家の柳田邦男さんが「つながるいのち 悲しみを生きる糧に」と題して講演した。柳田さんは「他者を思いやり、生命の大事さを知る心はテレビやゲームからは生まれない」として、東京の母親たちが「ノーテレビ運動」をやった結果、親と子どもの会話が戻ったことなどを紹介。続いて作家の瀬戸内寂聴さんが芥川賞作家の故大庭みな子さんの思い出を書いた新聞のエッセーに触れ、大庭さんは亡くなっても夫の利雄氏を通じてその精神は生き続けていると指摘した。ハンセン病にかかり療養所で俳句を作ることを生きがいにした故村越化石氏の生き方や柳田さんの父親代わりになり、ことし1月に亡くなった兄の生涯を振り返り「人は亡くなっても、だれかがその人の精神を受け継ぐ命のバトンタッチがある」と語った。講演の終わりは「たとえ明日、地球が滅びようとも、私はリンゴの木を植える」というマルチン・ルター(16世紀のドイツ宗教家)の言葉で締めくくった。(写真:講演する柳田邦男さん)
続いてバイオリニストの川井郁子さんが松本俊穂さんのパイプオルガン伴奏でバッハのガボット、G線上のアリア、アベマリアの3曲を演奏。川井さんは「2年前に子どもを生んでから命の奇跡を実感し、子どもたちのためにつながることをしたいと思い難民を応援している。これらの体験を音楽活動に生かしたい」と話した。 最後に30回の催し中欠席は1回のみという日野原重明聖路加病院理事長が「いのち・平和への願い」と題して講演した。この10月4日に97歳の誕生日を迎えたばかりという日野原さんは、まず平和の大切さを訴えた後、少子、高齢化社会の現状を説明し「子どもたちに命とは何かについて教えることが大事だ」と強調した。続いて「私たちの命は天から与えられたものだ」と指摘し「与えられた遺伝子と環境をどう生かすか」「病む人の喜びを自分の喜びにしよう」「私たちにできることはたくさんある」など、命の大事さについて多くのエピソードを交えながら語りかけた。最後に「私は西に向かって立つと97歳という長い影があるが、与えられた年月を全力で激しく生きて行きたい」と述べ、聴衆から大きな拍手が送られた。(写真:会場の外ではNPOがバザー) 「memento mori」は死を想えというラテン語で、「今をいかに生きるか」という意味も含まれ、ホスピス(緩和ケア)啓発活動を支援している日本財団は、このセミナーを1999年8月長崎市内で初めて開催。以来日野原さんを中心に会を重ね、今回が最終回。(写真:97歳を迎えた日野原さん)(石井克則) *動画はコチラ(2:05秒) |