サクラに込めた思いが揺れて〜キッズキャンプ宿泊棟の1年 [2013年06月18日(Tue)]
![]() 植樹したサクラの木が、丘の下のキャンプ場を見守っていた 心地良い風が高原を吹き抜けた。木々の葉が揺れる。針葉樹に交じってサクラやカツラの葉も揺れた。サクラは、この高原のキャンプに行きたい…それが果たせなかったわが子を偲んで、遺族らが植樹したものだという。北海道滝川市の丸加高原に、小児がんなどの難病と闘う子どもたちと家族のために整備された日本初の医療ケア付きキャンプ場「そらぷちキッズキャンプ」。日本財団などの支援で宿泊棟が完成して1年、施設の全容が整い、これから本格的なキャンプシーズンを迎える。 |
![]() ![]() 窓越しに広がる暑寒別連峰/2年目を迎える宿泊棟 難病のこどもは全国に約20万人いるといわれている。病院での苦しい治療、入退院の繰り返し…辛い日々を癒すには自然の中での生活を、と公益財団法人「そらぷちキッズキャンプ」(代表理事・細谷亮太聖路加国際病院小児総合医療センター長)が2007年から、滝川市から無償譲渡された16ヘクタールの草原と森に医療棟、事務棟、食堂・浴室棟、宿泊棟などを整備してきた。多くの企業や団体、ボランティアらが資金集めや運営に協力している。 ![]() こだわりが詰まったツリーハウス 「ハード面の整備だけでなく、ソフト面も重視した」とスタッフの1人、佐々木健一郎さん。食堂・浴室棟や宿泊棟の大きな窓からは暑寒別(しょかんべつ)連峰が一望でき、反対側の窓からは広場で遊ぶキャンプ仲間の姿が視界に飛び込んでくる構造。疲れて室内で休憩していても、いつも仲間と一緒にいられるのだ。 ![]() 殺虫剤をまく佐々木さん 施設群から草地の斜面を下りていくと、高さ8メートルの木の上に、車いすのまま入れるツリーハウスが現れる。ツリーハウス製作の第一人者、小林崇さんの監修で、一昨年と昨年に大工の棟梁4人が合わせて2か月間泊まり込んで完成させた。揺れる吊り橋を渡り、ステンドグラスをはめ込んだ扉を開けると、10人は座れる部屋。 ![]() 室内。右手にストーブがある 屋根は「木の瓦でないと柔らかみが出ない」(小林さん)の一言でトタン説が退けられた。おかげで冬の間は2週間に1回は、命綱をつけての雪下ろし。室内に置かれた薪ストーブはヨットのキャビンなどで使われる米国製。国産に比べると割高だが、小林さんも自ら寄付金集めに協力。昨夏はスズメバチに巣を作られ四苦八苦。このためこの6月は巡回するたびに殺虫剤を散布する毎日だという。維持管理も大変だが、ツリーハウスに入った子どもも大人も、みんな悪ガキになる姿が忘れられないという。 ![]() 昨年の夏キャンプの集合写真(そらぷちキッズキャンプ提供) 宿泊棟ができた昨年の利用は、6月から10月にかけて計5回、125人(うち子どもと被災地の高校生が40人)を受け入れた。今年は8月から計7回の計画。1回の定員約20人に3倍近い申し込みがある。医師や看護師、栄養士を含め40人ほどのボランティアが必要で、「ボランティアには専門知識も求められるので、宿泊研修を含めてシステム化し、数を増やしたい。そうすることでキャンプ回数を増やし、1人でも多くの子どもたちの希望に応えたい」と佐々木さん。1年中フルに専用施設を使っている状態になる『年20回』のキャンプが目標という。 ◇ ![]() 施設の全容 子どもだけが参加するキャンプでは同じ病気の仲間が集まるためか、子どもたちの、学校や病院では見せない“素顔”の表情が出る。乗馬や釣り、森の散策など楽しみも多く、キャンプ場が年中子どもたちの笑顔でいっぱいになる日が待ち遠しい。 取材に訪れた6月9日、心地良い風がキャンプ場を見下ろす高原を吹き抜けた。(平尾隆夫) |
