「死んだら人はどうなるのか?」 ある緩和ケア医の想い [2011年08月09日(Tue)]
“死者のゆくえ”をテーマに議論を交わす講師 すべての人に必ず訪れる死。逃れることができない死と向き合い、どう生きるかという「生と死」をテーマに、学際的な研究をしているのが2003年に東洋英和女学院大学の研究所として開設された死生学研究所(東京六本木)だ。16日に開催された公開シンポジウム“死者のゆくえ”では、死後の世界について、日頃から患者に接し、語り合っている医師や研究者が自身の臨床経験をもとに意見を交わした。 |
「逃げ出さないで患者と向き合っていきたい」と語る奥野先任準教授 パネリストの一人、順天堂大学医学部の奥野滋子先任準教授は、12年間、緩和ケア医として働き、約2000人の患者を看取ってきた。「最初から医師を目指していたわけでなく、いろいろ回り道をして今に至っている」と話す奥野さん。初めて病気の人の役に立ちたいと思ったのは、3歳の時、心臓病を患い他界した祖母の存在が大きいという。高校時代にある病院で、病気のために顔が大きく変形した女性と出会った。こうした人々が堂々と社会に戻るお手伝いがしたいと医学部に進学、医師として形成外科医を目指した。 当時、奥野さんは「死は非現実で怖いものだ」と感じており、この診療科では人は死なないだろうと思っていた。しかし、現実には形成外科でも多くの患者を看取ることになった。こうした経験を経て、痛みを和らげる麻酔科に転科。その後、終末期の患者とかかわるために経験を積もうと、緩和ケア医になることを決意したという。 熱心に講義を受ける学生や社会人 ホスピス病棟に初めて出勤した日、患者の一人から「死んだらどうなるのですか?」と尋ねられ、その問いに答えることができないままその患者が亡くなってしまったという辛い経験もした。そこで大学院に入学して生と死について学び直し、その後もこの分野の研究を続けている。奥野さんは「大学院を卒業した今も、死んだらどうなるという問いに明快に答えることはできない。しかし、患者や家族が死について話すことはとても重要で、そうした環境を医師としてもつくっていきたい」と話した。 死生学研究所は開設以来、宗教学、心理学、教育学、福祉学、医学、看護学など総合学としての「死生学」を目指してこの問題に取り組んでいる。毎月1〜2回の連続講座を実施し、病院で日々患者と接している医師をはじめ、学外からも多くの専門家を講師として迎え、大学院生だけではなく、広く一般社会人にも開放、日本財団もこの取り組みを支援している。次回10月25日(土)の第4回連続講座では、東洋英和女学院大学矢吹和美教授が「想像力のもたらす死と再生の体験」について語る予定だ。同日に行われる第5回連続講座では、同大学院の久保田まり教授が「対象の喪失と内なる再生―愛着の彼岸―」と題して講演する。 連続講座の詳細はこちら http://www.toyoeiwa.ac.jp/daigakuin/shiseigaku/shiseigaku.html |