ここが第二の故郷 韓国・ナザレ園の日本人妻 [2010年04月30日(Fri)]
![]() 石造りのナザレ園の建物 「9年前と変わりませんよ」。韓国・慶州にある「ナザレ園」の宋美虎園長はいまも新築のようにきれいに管理されている施設を前に笑顔で迎えてくれた。園内は隅々まで掃除が行き届き清潔感がある。同園の建物は老朽化し雨風をしのぐのがやっとだったため、2002年に日本財団の支援で新築した。2階建ての洋館を思わせる石造りで、中庭があり暖かな日にはのんびり過ごせる空間を作り出している。釜山から北東に車で1時間半の慶州を訪問、宋園長の案内で施設を見学した。 |
![]() 宋園長 慶州ナザレ園は1972年10月、帰国者寮ナザレ園として朝鮮半島に残された日本人妻の帰国を支援するため、当時の韓国老人施設協会の金龍成会長の尽力で設立された。しかし「夫の祖国で暮らしたい」「生き別れた子どもが半島のどこかで生きているのではないか」といった思いから、日本に帰るに帰れず半島に残った日本人妻の多くが同園にそのまま住み着いた。現在は24人が暮らしており、最高齢は96歳。平均年齢は88歳と高齢化が進み、家族とも離れ、帰国できない日本人女性たちの終のすみかとなっている。 ![]() 清潔な玄関 玄関口で宋園長は「この施設にはスリッパがありません。オンドル(床全体を温める暖房装置)で床が温かいから。おばあちゃんたちも喜んでいます」と私たちを迎え入れてくれた。慶州は夏でも雨が降ると肌寒く、こうした設備がなければお年寄りの身に応えるようだ。ナザレ園は韓国で知名度の高い高齢者施設だ。日本人女性の施設だけでなく、理想とされるモデル的な施設として評価を受けているからだ。 ![]() 花札を楽しむおばあちゃんたち 各部屋には色彩豊かなカーテンや入所者の好みにあわせたタンスが備えられ、画一的な印象はない。部屋には熊の縫いぐるみや日本人形など思い思いの品が飾られ、個性的な空間を醸し出している。テーブルを囲んで「ボケ防止になるから」と花札を楽しんでいるおばあちゃんたちもいた。山口県下関市出身のおばあちゃん(92)は「故郷は失ったけど、ここが第二の故郷になった」と話し、日本の唱歌「故郷」を歌い、私たちを歓迎してくれた。 ![]() 縫いぐるみが飾られた個室 ナザレ園にも悩みはある。財源確保の問題だ。韓国政府の福祉政策の転換、介護保険制度の導入に伴い、これまで受けてきた政府からの支援が打ち切られ、日本国籍者には保険制度が適用されない。病院代は全額自己負担となり、無収入の入所者は支払うことが不可能だ。宋園長によると、寄付だけでは足りず、基本財産の一部を取り崩してやりくりしているという。自身も無給で資産の一部を園のために使っている。1983年にボランティアとして訪問して以来、27年の月日が過ぎたという宋さんは、金氏の遺志を継ぎ戦争の傷跡を抱え、ひっそりと暮らす日本人女性のために尽くしたいと東奔西走の日を送っている。(福田英夫) |
