水中に眠る文化遺産を考える 東京で調査報告とシンポジウム [2010年03月11日(Thu)]
主催したのは福岡を中心に活動しているNPO法人・アジア水中考古学研究所。今プロジェクトを中心となって推進しているグループで、全国の研究機関と協力し、日本の水中文化遺産の調査とデータベース化に取り組んでいる。シンポジウムの開催は3回目で、東京では初めてとなる。
![]() 日本財団ホールで開催された水中考古学報告会 調査報告は沖縄県立埋蔵文化財センターの片桐千亜紀氏が「南西諸島」、アジア水中考古学研究所の野上建紀副理事長が「九州」、NPO法人・水中考古学研究所の吉崎伸理事長が「瀬戸内海・琵琶湖」、金沢大学大学院博士過程の小川光彦氏が「日本海域」について行った。「九州」では昨年9月に鹿児島県の坊津沖で実施した海底遺跡調査が報告された。 またパネルディスカッションに向けて、東京海洋大学の岩淵聡文教授、テキサスA&M大学海洋考古学研究所のランドール・ササキ氏、東京海洋大学大学院の中田達也特任准教授、アジア水中考古学研究所の林原利明理事が、日本や世界における水中考古学の現状などについて基調報告を行った。この中で岩淵教授は、日本の大学教育における水中考古学への取り組みの遅れが海外との研究の格差を生じていると指摘、水中考古学研究を講義科目に取り入れた東京海洋大学や金沢大学などの最近の動きを紹介した。 ![]() 海と古代史が大きな楽しみという中山千夏さんが講演 二つの報告会の間に、作家の中山千夏さんが「水中考古学と私」と題して講演した。俳優として活躍した中山さんは、参議院議員を1期勤めて政界から身を引いたあと、古事記と海とパソコンが3つの楽しみになって水中考古学に関心が向き、この研究分野を市民社会に広く知ってもらいたくて活動しているという。講演では「ファンダイビングと水中考古学をどうつなげて行くか、水中の生物と遺物の共存や、発掘調査における水中の環境保全も考えて行く必要がある」と指摘した。 ![]() 水中考古学への関心が確実に高まっている 日本における水中考古学は、歴史学の中で十分な地歩を占めているとは言い難いのが現状だ。海洋国家でありながら、文化財保護法も「土地に埋蔵されている文化財」が対象であって、いまだ「水中」の埋蔵文化財には目が向いていない。しかし今回の報告会で明らかにされたことは、一部の研究機関や民間のグループによって、少なからずの水中文化遺産が明らかにされつつあり、その活動が確実に広がりを見せていることだ。 ![]() 遠方からの参加者も含め、150人が熱心に聴いた 日本の水中考古学が発展して行く中で、基礎的なスタート台を構築して行くであろう「海の文化遺産総合調査プロジェクト」は、3年計画の半ばを過ぎて着実に成果を上げている。調査されないまま破壊され、消えて行く文化遺産を保全するためにも、こうしたプロジェクトによるデータの共通化や、法律面での整備を働きかけていくことが重要になっている。そうした現状に警鐘を鳴らす報告会でもあった。【加藤春樹】 |
