小児がん治療中の子どもと家族のための「夢の病院」設立を目指して [2006年07月11日(Tue)]
小児がんは助かる病気です
医学の進歩で小児がんも以前と比べて治療成績が良くなり、7割は助かるようになりました。また、自覚症状もなく、重症化してから診断されるケースも多く、そもそもの症例数が少ないことから診断も遅れがちです。小児がんは大人のがんとはちがい、原因がはっきりしませんが、早期発見・早期治療が予後をわけるという点では同じです。 現在、日本では小児科医自体が不足しています。また小児がんを専門とする医師はさらに少なく、診断や治療のレベルも、地域や施設によって異なります。医学の進歩で早期に診断し、適切な治療が受けられれば助かる命も、現在の日本では残念ながら助からない場合があります。 ●適切な診断と治療が行える小児がん専門医の育成が必要です。 ●診断後に適切な治療が受けられる医療機関につなぐことができるネットワークづくりが必要です。 治療には時間がかかります 小児がんは脳腫瘍や神経芽細胞種などの固形腫瘍と、血液のがんと言われる小児白血病とに大別されます。白血病の場合は「化学治療」(Chemical Operation=「ケモ」と呼びます)といって、抗がん剤を投与してがん細胞を減らしていく治療を行います。固形腫瘍の場合も、以前は外科的治療(腫瘍を摘出する)が中心でしたが、摘出前に腫瘍を小さくしたり、再発を防止する目的から化学治療を行うことが一般的です。 化学治療は患児の身体に大きな負担を強います。がん細胞は成長が早いので、抗がん剤は成長する細胞を見つけてやっつけるようにできています。しかし成長する細胞はがん細胞だけではありません。がんの治療で髪が抜けたりするのはこのためですが、髪の他にも消化器の粘膜や血液の成分(菌から身を守る白血球や、出血を止める血小板など)にも影響があります。ですので、患児の身体に負担がかかりすぎないように、抗がん剤の投与は一定の量を少しずつ、数回に分けて行います。通常治療には6ヶ月から1年かかり、重症な場合はさらに年月を要します。 ●長期の入院生活は、患児や付き添い家族の精神的・経済的負担も重くなります。 ●きょうだい児・同級生とのコミュニケーションや、発達段階にあわせた保育・教育が途切れないような配慮も必要です。 小児がん治療中の子どもたちのための専門施設は、どこにもありません 高度な医療が提供されている日本ですが、小児がんに特化した専門病院はありません。 近年全国の子ども病院などでは、子どものQOLに配慮した治療がすすめられるようになり、がん患児のQOLについても重要視されてきています。ただ、化学治療中に特有のケア(抵抗力が落ちることによる感染予防、病室の空気をきれいにするなど一定の設備、化学治療中に食べやすい食事、きょうだい児との面会への配慮など)を優先させるためには、がん治療中の子どもとその家族の状態を重視した専門病院が必要です。また大学病院などでCTなどの画像検査は予約でいっぱいです。じっとしていられない子どもは、鎮静剤を使用することによって検査をしています。子どもが自然に眠った時に検査を行うことがベストですが、その時間的余裕がないのが現状です。また他科(耳鼻科、眼科など)を受診する時は、大人の外来患者様と同じ待合い室で待たなければいけません。普段病棟では感染予防のためプレイルームにも出て遊ばないほうがよいという状態のなか、風邪の人がいる外来窓口でマスクをして診察を待つという矛盾した環境です。 また、勤務医の労働環境は一般に思われているほど良くなく、すぐれた実績がある小児科医でも、「アルバイト」で夜間救急病院の当直をしながら生計を維持しています。 さらに、小児がんを専門とする看護師や、病棟保育士、院内学級の制度も日本では十分な仕組みとなっていません。病院の外では当たり前のこと、友達と遊んだり、勉強したり、家族とともに自由な時間を過ごしたり、ということが、小児がんの患児たちには保障されていません。 ●専門医や治療に関する情報をセンター化するなど、小児がん専門医が安心して治療に専念できる環境を整える必要があります。 ●治療面でのQOLに加え、発達段階に合わせた患児の育成に配慮したQOLの向上を視野に入れなければなりません。 「チャイルド・ケモ・ハウス」が目指すもの そこで私たち「チャイルド・ケモ・ハウス・関西」では、大阪大学医学部付属病院(以下、「阪大病院」)小児科の血液・腫瘍グループ(太田秀明グループ長)とともに、小児がん患児が安心して化学治療を受けるための専門施設を設立する準備を進めています。 まず、30床程度の入院施設を建設し、阪大病院をはじめとする関西の医療機関と連携して、小児がんと診断された患児の化学治療を行います。ハウスでは入院経験のある患児や家族の意見を取り入れて、病棟のアメニティを向上させるほか、小児がん専門看護師やアメリカの「Child Life Specialist」を参考にした病棟内での子どもの発達と化学治療中特有の心身の状態をサポートする専門人材の育成に取り組みます。将来的には、ここでの経験をモデルとして、このハウスと同様の施設が全国にいくつか設立されることで、全国的な小児がんの治療成績が向上し、小児がんになったすべての子どもが、笑顔で家族と共に治療を進めることができるような環境作りを目指したいと考えています。 ●安心して化学治療が受けられるハウスを設立し、治療中も成長していく 子どもの発達に応じたサポートについても研究や人材の育成を進めていく必要があります。 ●ひとつのモデル施設を示すことで、全国どこで小児がんと診断されても、子どもの成長が中断されることなく、安心して治療が受けられる環境づくりを広げていくことが必要です。 |