臨床の現場より D [2007年04月09日(Mon)]
「臨床の現場よりC」に関連して、外来化学療法中の敗血症性ショックについてコメントを貰いましたので、その件に関して質問してみました。まず、特に外来化学療法中で白血球減少中の患者さんには、発熱したら直ちに病院受診するように強く指導している。また、遠方に滞在している患者さんであっても、どの地域のERに受診しようと、学会レベルで化学療法のため白血球減少中の発熱患者に対する治療マニュアルが徹底しているし、そのような患者さんは優先して診て貰える。その上で、実際に敗血症性ショックにまで陥ることは殆どないとのことでした。
また、米国では念のための入院というのが、あまりないのかも知れません。こちらの病院で妊娠・出産された方の話によると、出産直後にトイレに行ってシャワーも浴びて来るよう促され、「え?」と戸惑っていると、「だって、シャワーを浴びないと気持ち悪いでしょう?」と言われたそうです。シャワーを浴びた後には、病室で赤ちゃんの世話を開始させられ、1泊したら退院。自宅で会陰部の消毒を自分でしたそうです。「あれでは、無痛分娩でないと持たない」というのが彼女の感想でした。 それから、ERで優先して診て貰えると書きましたが、ある人が耳かきで鼓膜を突き破ってしまってERを受診したところ、数時間待ちとされました。銃で撃たれた人など重症の患者さんが優先だったそうです。また、上に書いた赤ちゃんが大きくなって、ウイルス性腸炎でしょうか下痢・嘔吐の症状になった時に、やはりERに連れて行かれました。この子は本当に人見知りしない愛想の好い子で、私たち夫婦も大好きなのですが、ERでもその本領を発揮してしまったようで、受付で「比較的元気だ」とされて、やはり数時間待ちにされたそうです。トリアージという災害医療の分野から出た考え方・方法があります。私自身、渡米前には小児救急の仕事もしていましたが、実際のところ殆どの患者さんは軽症の患者さんでした。そして、現在でも同じでしょうが、それらを含めた全ての患者さんについて、どのようにして短時間で小児科専門医にアクセス出来るようにするかというのが大きな社会問題でした。米国のプライマリー医療については批判も多いし、何の経験もありませんが、もう少し、本当に小児科専門医による診療が必要な患者さんが確実に専門医にアクセス出来るシステムを作るという発想が必要ではないか、そうでないと不可能ではないか。そんなことを考えています。 脱線が過ぎました。引用です。 [化学療法、輸血の投与におけるチェック体制] 小児の悪性腫瘍の治療において、臨床医を最も悩ませるのが、患者のサイズが年齢・個人によって大きく異なることです。化学療法は、患者の体重や体表面積に基づいて計算され、もちろん悪性腫瘍やプロトコールの種類によって投与する薬剤も異なります。投与を間違えると、致命的な医療ミスに陥る可能性があるため、細心の注意を払わなければなりません。私が日本で働いていた頃は、主治医がプロトコールを確認し、それに基づいて薬剤部に薬のバイアルをオーダーし、そのバイアルから主治医が必要な量を取り、ナースに渡すという手順でした。この際、薬剤の投与に関与するのは主治医とナースの2人のみであることもありました。当時は私を含め、どの医師も化学療法の投与については非常に神経質になっていました。 St. Judeでは、以下のような手順が踏まれます。1)主治医がプロトコールをもとに化学療法のオーダーを書く。このオーダーは実際の投与の72時間以内になされなければならず、オーダーした医師がフェローなどトレーニング中の身であればアテンディングのサインが必要です。2)このオーダーが薬剤部に届くと、プロトコールに照らし合わせて1人の薬剤師が、日程、薬剤の種類、投与量をまず確認します。3)そして、さらなる2人の異なる薬剤師によって、必要量の化学療法剤が処方されます。4)この薬剤が病棟あるいはメディシンルームに送られ、実際に患者に投与される際、2人のナースがプロトコールを読み、プロトコールの日程に即した薬剤であるか、さらに医師によるオーダーと処方された薬剤に記載された情報が同一のものであるかを確認します。5)すべての患者は名前、患者番号などが書かれたリストバンドをつけており、そのバンドを声に出して読んで本人であることを確認し、ナースが薬剤を患者に投与します。このように実際に薬剤が患者の体内に入るまで通常6−7人の確認を必要とします。輸血の投与も同様の確認作業を行います。St. Judeではこのシステムにより、化学療法剤や輸血の投与ミスは極めて少なく、米国内の他施設からこのシステムを学びに来ることもあります。 by Hiro |
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