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自由法曹団通信 第1413号(4月11日)に掲載された記事を紹介します。 [2012年08月04日(Sat)]

自衛隊情報保全隊の国民監視が違法とされ、慰謝料請求が認められました。
宮城県支部  渡部容子

一 一部勝訴判決!
 本年三月二六日、仙台地方裁判所は、自衛隊情報保全隊の国民監視差止・賠償請求訴訟につき、原告一〇七名中、五名に対し、慰謝料の支払いを命ずる判決を言い渡しました。
 判決は、国が内部文書の存在すら認否しなかったにもかかわらず、「真の原本が存在し、かつ、これらが情報保全隊によって作成されたこと」を真正面から認めたものです。また、自己の個人情報をコントロールする権利を人格権に位置づけて、情報保全隊の情報収集・保有行為を違法と判断した画期的判決です。

二 内部文書の発覚、提訴へ
 二〇〇七年六月六日、内部文書が公表されました。同書には、地元スーパーでのコンサート、街頭でのアピール行動、集会等の自衛隊イラク派兵反対運動など個人・団体の行動が、「イラク自衛隊派遣に対する国内勢力の反対動向」「反自衛隊活動」として自衛隊によって監視され、個人名も含め、詳細に記載されていました。P、Sなどの記号により思想選別までされていました。驚愕の内容です。私たちは、自衛隊によるこのような監視活動は、報道の自由、知る権利、表現の自由、プライバシー権、自己情報コントロール権、監視されない自由、肖像権、思想良心の自由、平和的生存権を侵害する重大な違憲・違法な行為であるとして、同年一〇月五日、仙台地裁に対し、原告らに関する情報を収集・記録・整理・利用・保管してはならないとの差止めと、原告各自に慰謝料一〇〇万円の国家賠償を求める訴えを提起しました。
 私たちは、そもそも自衛隊の市民監視行為は自衛隊法等の法令上の根拠がなく、行政機関個人情報保護法にも違反していること、本件監視活動は戦前の憲兵政治復活の危険があり、人権保障や民主主義、立憲主義に対する重大な侵害行為であり、国家的不法行為であるとの主張・立証をしました。
 原告は東北六県の市民一〇七名であり、弁護団は、仙台弁護士会所属五九名の弁護士に加え、自衛隊イラク派兵違憲判決を勝ち取った名古屋弁護団をはじめ全国のイラク派兵違憲訴訟弁護団員など合計一〇一名の先生方に参加していただきました。

三 訴訟
 原告の監視被害に関する陳述書をほぼ全員分提出しました。また、纐纈厚山口大学教授の情報保全隊の実態に関する意見書、小林武愛知大学教授の情報保全隊国民監視が国民の人権侵害・平和的生存権侵害である旨の意見書も提出しました。
 人証に関しては、情報保全隊関係者証人三名及び学者証人二名は不採用となりましたが、原告五名の尋問を実施しました。原告尋問では、監視の実態が明らかとなり、また原告らの率直な思いを裁判所に伝えることができました。
 訴訟における国の対応は異常なもので、内部文書の成立に関する認否、原告個々人を監視したかどうかに対する認否も頑なに拒否しました。その一方で、監視は人権侵害に当たらない、収集した情報の管理が適正になされているので問題ない、情報収集は行為規範がなくとも組織規範さえあればできると主張しました。さらに、国の指定代理人席に自衛隊の制服組・情報保全隊員が座るという事態も続きました。
 震災で途中、中断を余儀なくされましたが、昨年末、詳細な最終準備書面を提出し、この度の判決となりました。

四 判決
 判決は、「自己情報をコントロールする権利は実体法上の権利とは認められない」との国の主張を排斥し、「自己の個人情報を正当な目的や必要性によらず収集あるいは保有されないという意味での自己の個人情報をコントロールする権利は、法的に保護に値する利益、すなわち人格権」として確立されていると宣言しました。その上で、情報保全隊が、原告らがした活動等の状況等に加え、氏名、職業、所属政党等の思想信条に直結する個人情報を収集して保有したことを認定し、人格権侵害に基づく慰謝料合計三〇万円の支払いを命じました。
 他方で、「個人情報を収集して保有したと認めるには足りず」として、他の原告の慰謝料請求は退けています。実名の記載はされなかったいわば「名も無き市民」への萎縮効果への配慮に欠けています。
 また、判決は情報保全隊の監視行為の差止請求については、特定性を欠くとして却下しました。監視による情報収集・保有行為が違法であることを認めながら、その差止請求を却下したことは一貫性に欠きます。
 なお、判決文は、支援する会HPからダウンロードできます。https://blog.canpan.info/kanshi/

五 今後について
 私たちは、四月五日、本判決で示された違法行為につき、防衛省に対し、控訴しないこと、徹底した原因解明及び防止策を求める要請行動をする予定です。翌六日には、原告九四名が敗訴部分についての控訴をし、その旨の記者会見を行う予定です。
 判決後、北海道新聞、西日本新聞、朝日新聞などの各紙が相次いで「自衛隊 違法な市民監視やめよ」「自衛隊の情報収集 人権守る観点が欠けている」「自衛隊判決―市民を見張る考え違い」など、判決に肯定的な社説を発表していることにも注目したいと思います。地元河北新報は、「国は内部文書の存在についても、認否を留保してきた。ここからうかがえるのは、情報収集の妥当性について説明責任を果たすことなく、その判断をするのは自分たちだという、独り善がりの論理だ。」「自衛隊のイラク派遣をめぐっては国内で賛否が渦巻き、反対運動も高まっていた。自衛隊はこれを「攻撃」と受け止め、監視網を敷いた。過剰反応と言うほかない。・・・防衛省は判決を機に、情報保全隊の活動が本来業務から逸脱しないよう、きちんと基準を示すべきだ。自衛隊が守るべきもの、それは生命財産であると同時に人権、表現の自由である。」という社説を発表しています。

六 私の感想
 私にとっては、弁護士となって最初に取り組んだ憲法訴訟でした。何としても勝ちたい気持ちが強かったので、裁判を紹介した手作りのリーフレットを作ったり、支援を求める集会を企画するなど、原告団と一緒になって、運動面でも頑張ってきました。法律論においては、今回採用されませんでしたが、平和的生存権の主張に力を入れました。イラク訴訟の書面を参考にさせて頂いて、原告一人一人にとっての具体的な平和的生存権の侵害を言葉にする努力をしました。平和憲法に憧れて弁護士になった私からすれば、この裁判に参加できたこと自体、幸せなことでした。今回の判決は、思わず原告団長のおじいちゃんと抱き合って大泣きするほど嬉しかったです。
 判決が前進するよう今後とも頑張りますので、ご支援ご協力どうぞ宜しくお願いいたします。(二〇一二年四月二日)