【レポート】「宇宙を用いたグローバルな海洋監視の最新技術と動向〜本格的な宇宙利用とSociety5.0が切り開く海洋の未来〜
」に関するシンポジウム(2019年2月8日開催) [2019年02月08日(Fri)]
2019年2月8日に笹川平和財団主催で開催された「『宇宙を用いたグローバルな海洋監視の最新技術と動向〜本格的な宇宙利用とSociety5.0が切り開く海洋の未来〜』に関するシンポジウム」に参加しました。
海洋と宇宙は、地球最後のフロンティアとしても、これからの世界情勢の鍵を握るという意味でも関心があり、本シンポジウムに参加しました。 後半からの参加でしたが、濃縮した議論を聞くことができました。 最後に多摩大学の国分さんがコメントされた「ビジネスのイメージがない中で開発、取り組みが行われていることが大きな課題」と「ミッションの範囲が狭いという印象」という言葉が強く胸にささりました。 備忘録的なメモをアップします。 【レポート:「宇宙を用いたグローバルな海洋監視の最新技術と動向〜本格的な宇宙利用とSociety5.0が切り開く海洋の未来〜」に関するシンポジウム(2019年2月8日開催)】 ◆基調講演「日本の宇宙技術をアジアの公共財化するルール形成」 國分 俊史氏(多摩大学大学院教授 ルール形成戦略研究所所長) ![]() ・宇宙、海洋に関連する様々なアセットを、どのようにして公共財化していくのか? ・各国の外交政策、特に中国の外交政策との関連について。 ●中国の動向 ・衛星の打ち上げに加えて、GPSではなく北斗衛星(BeiDou)も導入。 ・一帯一路沿線諸国では、BeiDouを導入する国も増えている。 ・すでに、BeiDouが海上衛星航空システムとしての承認を得ている。(GPS、露GLONASSに次いで3番目) ・無人監視船の開発にも積極的。 ・港湾監視システムをコアにした、インフラの要所を抑えたパッケージ輸出を進めていく。 ・中国の無人船開発アライアンスに、英ロールスロイス社も参加表明。 ・監視カメラと衛星システムを連動させた犯罪者追跡システムの開発も。 ●米国の動向 ・米国のリバランス戦略(2012年から)。 ・キーワードは、レジリエンスの強化。 ・アジア太平洋地域における自然災害を起点とした不安定要素の削減と災害インパクトの最小化を政策の柱に。 ・東南アジアと南アジアはテロ多発地域。 ・さらに、自然災害リスクも高い地域。 ・自然災害への対処が長引くことで、テロの誘発、反乱分子の隆盛、クーデターなどにつながるリスク。 ・日本への期待は、米国を補完する形でのキャパシティビルディング。 ・米太平洋司令本部は、マウイにPacific Disaster Center(自然災害影響予測センター)を開設。 ・熊本地震で日本が米軍にオスプレイの出動を要請した日に、中国は南シナ海の人工島に軍用機を着陸させた。 ・googleのProjectXは成層圏をWiFiで覆い尽くす計画。 ・FaceBookは太陽光で3ヶ月間飛行でき、WiFiの電波を送れるドローンを開発。 ・「インフラ×IoT×安全保障」の発想が求められる。 ●日本の展望 ・インフラ会社のポテンシャル。 ・経験とノウハウとデータを大量に有する。 ・鉄道インフラの例。 ・リニア新幹線の計画では、候補路線の横幅50kmのあらゆるデータを計測する。 ・電力会社も同様に、大量のデータを有する ・インフラ開発と災害経験で培ってきたノウハウが日本の強み。 ・インフラの質は、災害時の対応能力まで含めて捉え、インフラ輸出にも活かす。 ・ISOのTC268では、社会インフラ運用事業者にリアルタイムで自治体、警察、消防、軍と共有することを義務化する内容。 ・気象予測とインフラの運用で得られた情報を組み合わせて災害予測データを生成する。 ・この機能をどのような形で培っていくのか? ・宇宙アセットオペレーターの能力を拡張するのか?日本企業と連携するのか? ◆モデレータ講演「海洋ブロードバンドと地球ビッグデータが新たな海洋立国への道を拓く」 木内英一氏(一般社団法人日本宇宙安全保障研究所主席研究員) ![]() ・海洋は、人類に残された最後の聖域。 ・海洋は、貿易の舞台であり、資源の宝庫であり、環境の母体。 ・海洋基本計画。 ・海洋に関する課題。 ・地球レベルの課題は、地球温暖化、生物多様性、地球環境。 ・2つのイノベーション(本格的な宇宙利用とビッグデータ・イノベーション)が同時進行。 ・測位と通信と観測の技術進化。 ・高精度だけでなく、高頻度の時代に。 ・さらに、大量に生じるビッグデータを、AI、IoT、GPS等の目覚ましい進化で処理可能な時代に。 ・この2つのイノベーションによって、海洋にどのような変化が生じるのか?がディスカッションのテーマ。 ・海洋の課題を解決すること、解決に挑戦することが、新たな海洋立国につながる。 ◆パネルディスカッション 木内英一氏(一般社団法人日本宇宙安全保障研究所主席研究員) Nick Wise氏( CEO and Founder, OceanMind) 桑原悟氏(株式会社日本海洋科学) 松浦直人氏(宇宙研究開発機構) 宮澤泰正氏(海洋研究開発機構) John Mittleman氏(Naval Research Laboratory ) 森下氏(政府関係者) ●松浦直人氏(宇宙航空研究開発機構)「宇宙から見る海洋・船舶情報」 ・北極海の氷の減少。 ・1980年代後半から衛星を打ち上げ始めた。 ・10個の衛星が運用中。 ・観測から3時間以内の情報提供を行なっている。 ・観測だけではなく、JAMSTECとの連携で予測も行なっている。 ・AISとSARを組み合わせることで、AIS搭載船だけでなく、非搭載船も観測が可能。 ・ディープラーニングの導入により、人力ではなく機械での解析化が進んでいる。 ・船の長さの解析エラー率は13%。 ・船の種類の解析エラー率は34%。 ・2018ー2025の7年計画。 ・観測データと他のデータを組み合わせることで、観測に加えて、解析と予測の能力、範囲の拡大を進める。 ![]() ●Wise氏(OCEAN MIND) ・現在と近未来、その先の展望について。 ・グローバル、協働、人間中心がキー。 ・技術の進歩により、ますます様々な情報が観測可能になり、得られるようになる。 ・プライバシーを巡る倫理問題も。 ・上空の軌道上でデータを蓄積、分析できる能力が必要になる。 ・AIがなければ、大量のデータを入手しても、処理ができない。 ・軌道上のデータクラウドが広がり、誰でもアクセスできるデータの民主化が進む。 ・AIは感情に左右されず、合理的な判断や対処ができる。 ・短期的な意思決定、個人の思考の違いにという制約に振り回される。 ・AIにより、このような制約に対応できる範囲が広がり、人間中心の利活用が実現する。 ![]() ●桑原悟氏(日本海洋科学) ・船長。 ・日本郵船グループにおける自動運行船の取り組みについて紹介。 ・日本の自動運行船技術は、世界の中でも遅れているわけではない。 ・ただし、投入予算はまだ少ない。 ・自動運行船そのものが目的ではなく、現場の課題を解決する、解決を支援することが目的。 ・安全性の向上と労働負荷の軽減を目指している。 ・事故の7割はヒューマンエラーが原因。 ・ユーザーの視点と立場からの課題解決。 ・有人自律運行船。 ・機械による支援のもと、人間が適切な認知、予測判断、操作を行う。 ・「Action Planning System」により、人間の弱点を補い、より的確な判断と操作ができるように。 ・実船での実験段階まで来ている。 ・センサーと通信技術。 ・センサーの高度化、リアルタイムでの状況把握。 ・海流の把握は船舶運行への影響が大きいので、衛星の精度向上に期待。 ・通信の安定性は、遠隔操作の進展における課題。 ![]() ●宮澤氏(海洋研究開発機構) ・1998年の西村氏の研究。 ・黒潮の動きが、短時間でドラスティックであることが分かった。 ・モデルでのデータシミュレーションと観測によるリアルデータを組み合わせる。 ・現在の観測と今後の予測技術が発展してきた。 ・海の中のデータは、現場で観測する方法が主のため、まだまだ少ない。 ・データの利用ユーザーと一緒に、観測を増やしていく。 ・ユーザー→JAMSTECにデータ提供、JAMSTEC→予測情報を提供というサイクル。 ・自律型の自動観測技術の進歩。 ・自律的なプラットフォームが進化、普及することで、データ→解析→予測→ユーザー利用のスパイラルが進んでいく。 ![]() ●パネルディスカッション ●松浦氏 ・海の分野では、漁業(効率的に漁場へ到達など)での実効的な利益につながっている。 ・JAXAでは、アップストリーム(衛星を打ち上げ、観測できるようにする)が中心。 ・ミドルストリーム(データをデータセットにする、解析する)もある程度進んでいる。 ・一方で、プラットフォーム化がまだ遅れている。そのため、ダウンストリーム(利活用)が遅れている。 ・もう一つの課題は、データを取り続けるための組織運用が追いついていない。 ●Wise氏 ・官民パートナーシップには様々な形が考えられる。 ・一緒に資金を出し、取り組み、より積極的に利活用する。 ●桑原氏 ・どうやって儲けるのか?を問われる。 ・安全は前提、その先。 ・情報を売っていくビジネスは広がっていく。 ・各種免状も減り、参入障壁も低くなる傾向。 ・海運という観点では、新たなビジネスチャンスは少ない。 ・物流という観点では、様々な変化、可能性がある。 ●宮澤氏 ・海の中の観測が圧倒的に少ない。 ・海の中を見えるようにする、しかも、リアルタイムで見えるようにする。 ・そうなれば、海洋科学は劇的に変わる。 ![]() ●Mittleman氏 ・より完全なデータの必要性。 ・より多くの船がセンサーの役割を果たし、観測(データ収集)に貢献する。 ・大型船(タンカー)では、潮流の影響が非常に大きい。 ・大型船は海面下のデータを収集するセンサーとしてのポテンシャルも。 ・ディープラーニングやAIにより、人間が気がついていないデータの可能性を発見する可能性も。 ・短期的な利益が長期的な利益を損なうリスク。 ・長期的な利益を守るためには、短期的な利益を諦めるという痛みを伴う。 ・また、倫理的な問題も関わってくる。 ・社会全体での取り組みが必要。 ・抑止力をどのように働かせていくのか。 ・違法への処罰だけでなく、合法的な取り組みへのプラスのインセンティブも。 ●森下氏 ・衛星を用いてどのようなことができるのか?をたくさん学んだ。 ・宇宙の利用に関して日本の取り組みはまだ弱い。 ・その背景には、衛星の便益について、海洋サイドの人たちが十分に理解できていないこともある。 ・もう一つは、データ活用のプラットフォームの整備が足りない。 ・経済産業省が衛星データのオープン&フリー化(3年間限定)するサービスが2019年1月からスタート。 ・このような取り組みが、衛星データや宇宙の利用について社会全体で考えるきっかけになるのではないか。 ・宇宙分野と海洋分野が一緒になって取り組んでいくことが必要。 ・行政的な課題を解決するために、民間の技術を活用する、仕事を発注することにもっと力を入れていく。 ●國分氏 ・ルール形成について。 ・ビジネスのイメージがない中で開発、取り組みが行われていることが大きな課題。 ・ミッションの範囲が狭いという印象。 ・たとえば、ASEAN全域をミッションスコープにし、ルール形成も含めて取り組むなど。 ・船舶関連データの多さ、可能性に驚いた。 ・このデータを活用することで、トレーサビリティ、人権配慮、持続可能な漁業など、広い意味でのサステナビリティにつなげていける。 以上 |