「準輻輳海域における航行安全確保に関する調査」第4回委員会
日本海難防止協会主催による「第4回 準輻輳海域における航行安全確保に関する調査委員会」を2月8日(火)に海事センタービルの会議室で開催しました。東京海洋大学 今津副学長(委員長)をはじめ海上保安大学校 長澤名誉教授ら学識経験者4名、海事関係者11名、水産庁漁政部企画課1名、国土交通省総合政策局総務課1名、国土交通省海事局安全環境政策課1名、海上保安庁交通部2名、海上保安庁海洋情報部1名、第三管区・第四管区・第五管区海上保安本部 交通部長ほか数多くのオブザーバーの方にご参加頂きました。
今回の調査委員会では、AISを活用した船舶交通の新たな安全対策として、昨年度から引き続く2ヶ年目のまとめを以下の3点について整理し、準輻輳海域における安全対策の提言としました。
(1) 船舶におけるAISの活用 (2)船舶の動静監視と情報提供 (3)船舶交通の整流化
(1) 船舶におけるAISの活用
@ 現在輻輳海域においては海上交通センターによりレーダによる航行船舶の動静監視が行われていますが、レーダ・サービスエリア外においてもAIS陸上局で電波の受信可能な海域を航行するAIS搭載船舶に対して乗揚防止等を図る動静監視や情報提供を行うことが可能であることから、AISの普及が進めば動静監視対象が拡大される可能性も考えられます。
A 日本においては500GT以上の船舶に搭載が義務付けられていますが、海外においてはSOLAS条約で定められたAIS搭載義務をより厳しい50GT以上の船舶としたり、長さ15m以上の船舶とするなど、搭載義務を拡大している現状があります。このような国際情勢を踏まえれば日本においても搭載義務船舶を拡大することも考えられます。
一部の内航船社においてはAISの機能を活用することにより安全性の向上効果が認識され、搭載義務のない500GT未満の船舶においても新造を期に搭載し始める船舶が徐々に増加しています。しかし、任意での搭載では一部の船舶に限定されることから、搭載普及促進にはAISの有効な利用法やメリット等を周知すると共に、英語で表記される等といった機能面の改善や、利用者のニーズを汲み取った技術開発が望まれます。
(平成20年7月1日に「航海用具の基準を定める告示」の一部改正が施行され、レーダ画面上におけるAIS情報表示に関する要件等が追加された。
ただし、平成24年11月30日までに無線局の免許を取得したレーダで500GT未満の内航船に備えられるものは、従来どおりそのまま使用することができる。)
B AIS普及の阻害要因として本体価格が高額であることも挙げられます。普及と共に低廉化が期待されますが、国による補助金や保険料削減等のインセンティブの導入が普及促進の一助になると考えられます。最近国内で販売が始まった簡易型AISの普及については、価格が安価なことからAISの有効性の認知が高まってくれば普及が期待されます。
C また、AIS搭載船舶増加によって懸念される電波混信やAISを経由する情報過多が表示画面を占有する等の懸念も予測されます。そこでこれら普及に伴って発生する恐れのある新たな問題についても、その影響を評価し未然に防ぐためにも、予め対策を検討しておくことが求められます。
(2) 船舶の動静監視と情報提供
@ 過去の委員会でも明らかとなったように、準輻輳海域における衝突海難の多くは商船対漁船がその半数以上をしめています。商船の航行エリアと漁船の操業エリアが重複する海域では衝突のリスクが高まることから、商船運航者は航路選定にあたって操業漁船の有無を重視する傾向が強く、沿岸域における操業漁船に関する情報提供を望んでいます。
A 500GT以上の船舶が搭載しているAISに比べ簡易型AISは安価ではあるものの、漁業関係者には依然として漁獲高に直結する機器ではないことから、不必要に高額な機器との印象が強く、AIS搭載を普及させることは困難な状況となっています。AISによる動静監視では、対象船がAISを搭載している船舶に限定されることから、AISを搭載していない漁船の動静を把握し商船に対して漁船の操業位置情報を提供する等の注意喚起が必要になります。そのためには、現在輻輳海域に限定されるレーダによる監視エリア拡張することが必要になります。
しかし、準輻輳海域でレーダによる監視エリアを拡張するには湾内等の限定された海域とは異なり、海域により気象・海象及びレーダの性能による制限を受けることを考慮しなければなりません。実際にどの程度の船型の動静把握が可能であるか検証が必要になります。
B AISメッセージの活用方法としては、アンケート調査結果からあまり利用されていない現状が見えてきました。今後は気象・海象情報、工事情報、水路情報等の他、海域内のすべての船舶に同一情報を送信するような活用方法を考慮することが望まれます。
C また、海上交通センターより乗揚等を回避するために行われる情報提供においても、AISメッセージとともにVHFが併用されて海難回避に至った例が多い現状があります。乗揚等回避のための情報提供など、緊急性の高い内容については、従来どおり、VHFや船舶電話を積極的に活用した情報提供を行う必要があります。
D 漁船の操業情報については、漁船の位置をリアルタイム情報として取得することに拘泥することなく、水路誌等の刊行物やパンフレット等により、対象海域の漁船操業活動の特徴をまとめた一般情報として提供する方法が考えられます。
(3) 船舶交通の整流化
@ 船舶同士の衝突海難等が多く、安全対策を講ずべき海域においては、船舶同士の衝突リスクを減少させる方法として船舶交通の整流化が考えられます。現在日本船長協会が推奨している自主分離通航帯はIMOに採択されたものではないことから、法的拘束力を持たず、分離通航帯に従って航行する船舶と従わない船舶の航行が混在する等の問題が生じています。
従って、一つにはこれら「自主分離通航帯」を、IMOで採択し、法的拘束力を持たせることにより、船舶交通の整流化の実効性を担保することが考えられます。
しかし、これには以下の問題があることを念頭に置いておく必要があります。
● 沿岸通航帯を設置する場合、長さ20m以上の船舶が全て対象となり、小型船にまで沖合航行を課すこと
● 関係者との調整 等
A 二つ目には、沿岸通航帯の利用制限や小型船の沖合航行等の問題点を解消するため、一定以上の船舶にのみ、通航路に沿って航行させる新たな通航方式を採用することが考えられます。
調査結果を分析から、比較的船型の小さな船舶は沿岸域を航行する状況が判っており、すべての船舶を対象とした分離通航方式の採用は航行実態にそぐわない状況があります。そこでIMOの採択によらず、一定の船舶のみを対象とした通航路を設定することが考えられます。具体的には法規制面での整備が課題として存在しますが、分離通航帯を海図に表記することでその海域を航行する船舶に通航路の存在を知らしめる効果が期待できるようになると考えられます。
B 分離通航帯を設定する場合、通航路の側端を示したり、推薦航路を設定する場合の中央を表示したり、主要な変針点を示す場合において、「仮想航路標識」の機能を活用することが考えられます。調査にあたり日本航路標識協会からご提供いただいた「仮想航路標識」の活用に関する実証実験結果により、その有効性も確認されています。今後、沿岸域において分離通航方式を採用するにあたっては、「仮想航路標識」を活用した通航路の明示も考えられます。
「仮想航路標識」の活用にあたっては、国際的なルールの策定等IMOでの審議内容を踏まえて検討する必要があり、世界標準を利用することが求められます。国際的な流れを捉えつつ安全対策の構築を検討していくことが望まれます。
2ヶ年にわたる調査から、全国の準輻輳海域における概要をとりまとめることができました。今後はこの成果を踏まえながら、個別の準輻輳海域に対して、最適な安全対策の構築を検討していくことが望まれます。