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先輩研究者のご紹介 小平 友大さん [2026年06月29日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2023年度「メタン発酵消化液とバイオ炭の共施用による環境負荷低減型営農技術の確立」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、(現)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(助成時:創価大学大学院理工学研究科・博士課程学生)の小平友大さんからのお話をお届けします。

<小平さんより>
【助成研究の内容】
私の研究は、有機物の分解処理後に得られるメタン発酵消化液(以下、消化液)と、有機物の炭化後に生成されるバイオ炭を土壌に共施用するという、環境負荷を低減した有機営農技術の開発に取り組みました。窒素肥料は作物生産に欠かせない一方で、土壌中に施肥された窒素の大部分は地下水への流亡や、温室効果ガスとして大気中へ放出され、肥料効果の減少だけでなく環境負荷の原因となります。そこで私は、有機性廃棄物から得られる消化液とバイオ炭を活用し、窒素を土壌中に長く保持できないかを調べました。
具体的には、異なる温度で作製したバイオ炭の性質を分析し、アンモニウム態窒素や硝酸態窒素をどの程度保持できるかを評価しました。また、土壌に消化液や尿素肥料とともにバイオ炭を加え、土壌中で窒素がどのように変化するかといった動態について調査しました。更に得られたデータをもとに、土壌中の窒素移動を数値モデルで解析しました。

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写真1.日々の研究の様子

その結果、バイオ炭の炭化温度によって窒素を保持する仕組みが異なり、肥料の種類によっても土壌中の窒素動態が大きく変化することが明らかとなりました。この研究はその後、国際学会での発表や国際学術誌3本の論文掲載にも繋がり、現在の私の研究活動の大きな基盤となっています。

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写真2.口頭発表の様子

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写真3.ポスター発表の様子

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写真4.開催地付近の壮大な湖:Great Salt Lake

【申請を検討されている方へ】
私は修士2年生の時、博士課程に進学して研究者を目指す覚悟を決めました。しかし、その第一歩として申請した日本学術振興会特別研究員DC1は非常に厳しい結果で返ってきました。当時は、「自分は研究者としてやっていけるのだろうか」と強く落ち込み、研究者としての将来へ絶望した気持ちを抱えていました。
その時に、私を救ってくれたのが笹川科学研究助成でした。申請時点で私は論文を1本も発表しておらず、「採択は難しいかもしれない」と思いながら申請書を提出しました。それでも私の研究計画を評価していただき、採択の知らせを受けた時には、「こんな自分でも研究者として挑戦して良いのかもしれない」と、未来に対して初めて前向きな気持ちを持つことができました。
助成金によって、大学院入学以来の夢であったアメリカ土壌学会(世界最大規模の国際学会)で研究発表を行うこともできました。世界中から優秀な研究者が集まる場で自分の研究を発表し、評価された経験は、私の視野を大きく広げ、研究者として生きていく覚悟をさらに強くしてくれました。これらの成果は博士論文の核をなす主要な研究成果となり、2026年の博士(工学)学位取得へと繋がりました。現在は(国研)農研機構で土壌・リモートセンシング・機械学習等を組み合わせた、我が国が推し進めている「スマート農業」へ貢献する新たな研究へと発展しています。この助成が、現在の研究活動や私の研究者人生の大きな出発点になったと感じています。

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写真5.博士号取得(右:筆者,左:指導教授)

これから申請を考えている方には、実績が十分でないと感じていても、ぜひ挑戦してほし
いです。大切なのは、現時点で完璧な研究者であることではなく、自分の研究で何を明らかにしたいのか、そしてその先にどのような面白くなる未来があるのかを、自分の言葉で誠実に伝えることだと思います。その申請書作成の過程で、更に研究内容を整理することにも繋がります。笹川科学研究助成は、特に経験の少ない発展途上の研究者の挑戦を本気で後押ししてくれる助成だと感じています。自信をもって申請し、未来を切り拓いて共に世界の舞台で活躍していきましょう!!

【助成を受けての出版論文】
Kohira, Y., Fentie, D., Lewoyehu, M., Wutisirirattanachai, T., Gezahegn, A., Addisu, S., Sato, S. (2024). Mitigation of ammonia volatilization from organic and inorganic nitrogen sources applied to soil using water hyacinth biochars. Chemosphere, 363, 142872. https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2024.142872
Kohira, Y., Fentie, D., Lewoyehu, M., Wutisirirattanachai, T., Gezahegn, A., Addisu, S., Sato, S. (2025). Elucidation of ammonium and nitrate adsorption mechanisms by water hyacinth biochar: effects of pyrolysis temperature. Environmental Science and Pollution Research, 32, 762–782. https://doi.org/10.1007/s11356-024-35808-z
Kohira, Y., Fentie, D., Lewoyehu, M., Wutisirirattanachai, T., Gezahegn, A., Addisu, S., Kurosawa, N., Sato, S. (2026). Contrasting mechanisms of biochar–nitrogen interactions under inorganic and organic fertilizers: Integrated evidence from incubation, volatilization, leaching, and apparent nitrogen partitioning. Science of The Total Environment, 1043, 181941. https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2026.181941

<以上>

 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 15:39 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介 稲葉 勇人さん [2026年06月23日(Tue)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2023年度「ティラノサウルス類の残存タンパク質の多角的解析から確立する、
信頼性が高い化石タンパク質の検出方法」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられ
た、丹波市立たんば恐竜博物館 教育普及専門員 / 岡山理科大学大学院 総合情報研究科
数理・環境システム専攻の稲葉勇人さんからのお話をお届けします。

<稲葉さんより>
 この度は、執筆の機会をいただき、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。現在の私
は、丹波市立たんば恐竜博物館にて教育普及専門員を務めながら、岡山理科大学の大学院
生として化石に残されたタンパク質の研究を続けています。

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写真1.たんば恐竜博物館

 「化石」は、「石に化ける」と書きます。このため、読者の方は、骨や歯などが完全に「石」になったものを、化石として思い浮かべるかもしれません。しかし、一部の化石は、完全な「石」ではなく、当時の生き物の成分を保存している場合があります。その成分の代表例が、タンパク質です。
 私たちの体にもあるタンパク質は、一つひとつのアミノ酸が並んで構成されています。そして、その並び方は生き物によって少しずつ異なります。このため、今の動物では、アミノ酸の並び方を調べることで、研究対象がどの動物に近いのか、どのような進化の道をたどってきたのかを考える手がかりになります。一方、絶滅した動物では、多くの場合、化石の形に基づいて仲間分けや進化が考えられています。私は将来的に、恐竜などの絶滅動物を形だけでなく、化石に残された分子情報をもとに進化や分類を考えられるようにしたいと思い、この研究に取り組んでいます。

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写真2. 一部の化石は、ゆっくりと溶かされると、徐々に柔らかくなります。より詳細な分析を実施すると、アミノ酸の並び方まで推測できます。

 しかし、笹川科学研究助成に応募した当時の私には、論文業績が全くありませんでした。また、「化石にタンパク質が残る」ということ自体が、恐らく読者の方に馴染みの無いことのように、研究分野としても発展途上です。そのような状況の中で採択通知をいただいた際には、自分の業績ではなく、この研究の面白さや将来性を認めていただいたように感じて、嬉しかったです。また、周りの先生方や後輩たちも一緒に喜んでくれました。
 採択後、まず印象に残っていることは、研究者交流会に参加したことです。普段の学会では近い分野の研究者と話しますが、この会では、異なる分野に取り組む同年代の大学院生と交流することができました。自分の研究の面白さや悩みなどを語り、「奨励賞を目指そう」と盛り上がったことも覚えています。異なる分野で研究に向き合う仲間に出会えたことは、大きな刺激になりました。
 助成開始後は、概ね計画通りに研究を進めることができました。助成金は、日々使用する実験用品だけでなく、試料採取のためのモンゴル・ゴビ砂漠での恐竜化石の発掘調査、モンゴルの研究所での標本調査、化石から抽出したタンパク質の解析、学会発表のための旅費など、研究の進行に合わせて幅広く活用させていただきました。特に、発掘調査や標本調査に参加できたことは、私の研究にとって大きな意味がありました。化石に残るタンパク質の研究は、ほとんどを実験室で過ごします。このため、発掘現場や研究所で化石と向き合った経験は、化石の残り方や、化石を産出する地層の状態など、試料の地質学的な背景を知ることに繋がり、後の実験室で得られたデータを考える上でも重要な情報になりました。
 しかし、研究を進めていく中で、当初予定していたカナダでの発掘調査には、参加できなくなりました。このときには、研究計画および助成金の使用用途の変更について、柔軟かつ寛大なご対応をしていただけました。このため、当初の目的を保ちながら、安心して研究を進めることができました。

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写真3.日々の実験の様子

 助成終了後には、この助成によって進めることのできた研究成果をもとに、化石からタンパク質を可視化し、抽出する手法の開発に関する論文を発表できました。応募当時には論文業績の無かった私にとって、この成果は研究者としての大きな一歩と感じています。そして現在は、丹波市立たんば恐竜博物館にて、恐竜や化石の魅力を多くの方に伝える仕事もしています。幼い頃から大好きな恐竜に、研究と教育普及の両面から携わることができている現在は、助成によって、研究を継続できたことも大きく影響していると思います。当時の私に、温かいご支援と挑戦の機会を与えてくださった笹川科学研究助成の皆様に、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
 私自身の経験から、笹川科学研究助成の採択では、業績や肩書きなどではなく、純粋な研究の面白さを高く評価してくださると思います。これからの応募を考えている方は、自分自新の研究の可能性を信じて、ぜひ挑戦してみてください。

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写真4.モンゴルの発掘調査にて発見した恐竜の骨化石

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写真5.論文発表時の様子


<以上>


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 13:56 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介 村上 千明さん [2026年06月19日(Fri)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2023年度「新タイプの哺乳類ホスホリパーゼC酵素群の発見と機能解析
−ジアシルグリセロール代謝の新機軸−」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、愛知県がんセンター研究所・研究員(助成時:千葉大学国際高等研究基幹・特任助教)の村上千明さんからのお話をお届けします。

<村上さんより>
 私の研究対象は「脂質代謝」です。脂質は栄養素として利用されるだけではなく、細胞の内と外を隔てる細胞膜の主成分であり、生理的機能(代謝、免疫、神経伝達等)を調節する重要な役割を担うものもあります。私はそのような脂質の1種である「ジアシルグリセロール(DG)」の代謝に注目して研究を行っています。DGを作る酵素(タンパク質)の1種としてホスホリパーゼC(PLC)が知られています(図1)。現在までに発見された哺乳類のPLCは特定のリン脂質(PIP 2 )しかDGを作る反応の材料(基質)に用いません。一方、哺乳類には他のリン脂質を基質とする別種のPLCの存在が予想されており、多様なDGの代謝経路が存在する可能性があります。しかし、どのタンパク質がその働きを担っているのか長年不明でした。特にリン脂質のPCやPEを基質とするPLCの酵素活性の上昇が動脈硬化症や免疫応答に関係することが報告されていますが、どのタンパク質がその酵素活性を担うのか分かっていないことから、生体内における詳細な機能の解析ができずにいました。
 私はDG代謝酵素の研究を進める中で、未知のPLCの探索に取り組み、新タイプの哺乳類PLCを発見しました。さらに、発見した新規PLCと類似したアミノ酸配列を持つタンパク質中から別種のPLCを複数発見しました(参考文献参照)。これらの一連の研究成果によって、国際生化学分子生物学連合(IUBMB)の管理する国際的な酵素データベースに、新たな哺乳類PLCが約40年ぶりに正式に登録されました。今後は、発見した新規PLC酵素群がどのような生命現象に関与するのかを明らかにすることを目標に研究を続けていきます。

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図1 ホスホリパーゼCとリン脂質

参考文献・情報 (*, 責任著者; #, co-first author)
1. IUBMBに登録された新規PLC(酵素番号EC 3.1.4.62, 2024年登録承認)URL:https://enzyme.expasy.org/EC/3.1.4.62
2. Murakami C.* et al: Human PHOSPHO1 exhibits phosphatidylcholine‐ and phosphatidylethanolamine‐phospholipase C activities and interacts with diacylglycerol kinase δ. FEBS Letters,599, 1169-1186 (2025)
3. Murakami C.* et al: Multiple activities of sphingomyelin synthase 2 generate saturated fatty acid- and/or monounsaturated fatty acid-containing diacylglycerol. Journal of Biological Chemistry, 300, 107960 (2024)
4. Suzuki, R.#, Murakami C.#, * et al. Human sphingomyelin synthase 1 generates diacylglycerol in the presence and absence of ceramide via multiple enzymatic activities. FEBS Letters 597 2672–2686 (2023)
5. Furuta M. #, Murakami C.#, * et al. Diacylglycerol kinase ζ interacts with sphingomyelin synthase 1 and sphingomyelin synthase-related protein via different regions. FEBS Open Bio 13 1333-1345 (2023)


【申請を検討されている方へ】
 笹川科学研究助成との縁は学生時代に始まります。学部4年生(2015年応募、当時は郵送申請)の時から何度も応募し、不採択通知にあった審査コメントを読みながら申請書を書き直す日々でした。博士課程進学時(2018年度採択、この年から電子申請に移行しました)に初めて採択され、私の人生初の研究助成金となりました(その後、特別研究員DC1採用のため辞退)。当時は未知のPLCの発見の糸口も掴めずに博士課程へ進学する私にとって、大きな励みとなりました。
 その後、学位取得後に任期付きの教員になった際に再び採択されました(2023年度採択)。当時は任期付きでしたが、独立した研究者として複数の学生と技術補佐員で研究チームを立ち上げ、本研究に取り組んでいました。笹川科学研究助成をきっかけに始めた研究から、学生が筆頭著者の原著論文(文献4、5、他2報投稿中)、国際学会や国内学会の発表が生まれ、指導学生が日本生化学会の若手優秀発表賞を受賞しました。また、一緒にプロジェクトを進めた技術補佐員は、本研究から発展させた研究成果を基に論文博士を申請する予定です。このように、本研究を通じて多くの学生・スタッフが成長する機会を提供することができました。
 笹川科学研究助成の採択研究課題の多くは大学院生が提案したものです。私のように、任期付きの教員が助成金を活用することによって、時間的な制約があっても人材の育成や新たな挑戦への後押しに繋げることもできます。学生時代の採択とは違った立場で再びご縁が巡ってきたことを深く感謝しています。
 笹川科学研究助成金は35歳以下なら申請可能です(詳細は募集要項をご確認ください)。若手の任期付き教員も、大きな志を持ってチームで研究を発展させ、後進の育成にもつながる研究構想をご提案いただけたら幸いです。いつの日か、笹川科学研究助成の採択者の同窓としてお会いできることを楽しみにしています。

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図2 助成終了後に本研究に関して複数の団体から表彰されました。家族も増えました。

<以上>


 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 10:48 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介 杉村 晴菜さん [2026年06月12日(Fri)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2023年度「反芳香族アプローチによる有機近赤外発光色素の創生」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科物質創成科学領域機能有機化学研究室の杉村 晴菜さんからのお話をお届けします。

<杉村さんより>
 私は大学院時代に有機合成化学を専攻し、その中で特異な芳香族性を示す化合物の合成に取り組んできました。ベンゼンなどの芳香族分子は通常安定な化合物ですが、共役系に二電子を加えると性質が反転し、反芳香族化合物となります。反芳香族化合物は不安定で合成が困難だとされる一方で、興味深い電子特性を示すことが期待されています。2023年度笹川科学研究助成では、反芳香族イソフロリンの金属錯体合成、および発光特性の評価に関する研究に対し、ご支援いただきました。研究内容を簡単にご紹介します。

 私たちの身のまわりには野菜や果物、肉など色のついた物質が多くみられます。これらの色はヘムやクロロフィルといった天然色素に由来しています。ヘムやクロロフィルの骨格はポルフィリンと総称され、窒素原子を含む五員環が環状に4個結合した構造を持ちます。ポルフィリンは芳香族性をもつ非常に安定な化合物です。色素や触媒として幅広く用いられています。
 私の注目したイソフロリンは、ポルフィリンの合成中間体として提案された化合物です。イソフロリンはポルフィリンと同じ骨格をもちますが、二電子加わって反芳香族性を帯びるために不安定であるとされてきました。私は合成前駆体ポルフィリンに電子求引性置換基を導入し、イソフロリンを安定に合成することに成功しました(図1)[1]。笹川科学研究助成では、さらに研究を発展させ、イソフロリン金属錯体の合成、およびイソフロリンの発光特性を評価しました。得られた成果は国際学術論文として発表しております[2]。

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図1 反芳香族イソフロリンとその前駆体ポルフィリンの化学構造と溶液写真

 笹川科学研究助成には博士前期課程2年在籍時に申請しました。それまで目の前の実験で手いっぱいだった私にとって、申請書類の作成過程は、自分の研究の意義を深く理解し、次の展開を考える、素晴らしい機会となりました。研究者としての大切な訓練となり、採択いただいたことで研究を続ける自信にもなりました。申請を迷っておられる方は、ぜひチャレンジされることをお薦めします。

 博士課程修了後、私は奈良先端科学技術大学院大学に助教として着任し、反芳香族化合物の本質的な性質を理解しその謎に迫る研究を続けています。このように生涯の研究テーマと言える研究対象に出会えたことも、日本科学協会の皆様に素敵なご縁をいただき、様々ご支援いただいたからです。心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

[1] H. Sugimura, K. Nakajima, K. Yamashita, T. Ogawa, Eur. J. Org. Chem. 2022, e202200747.
https://doi.org/10.1002/ejoc.202200747
[2] H. Sugimura, K. Nakajima, K. Yamashita, Asian J. Org. Chem. 2025, 14, e202400550.
https://doi.org/10.1002/ajoc.202400550

<以上>


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 10:00 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介 伊 蒙楽さん [2026年06月04日(Thu)]
こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2023年度「戦時期台湾知識人の中国叙述:汪精衛政権と満州国政権を中心に」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、中央大学理工学部の伊 蒙楽さんからのお話をお届けします。

<伊さんより>
笹川科学研究助成を受けたのは2023年度でした。
それ以前の数年間、新型コロナウイルス感染症の影響により、台湾文学を研究する
私にとって不可欠な台湾および中国での資料調査を行うことができず、研究は2〜3年
ほど停滞していました。そのような状況の中で笹川科学研究助成に採択していただい
たことは、研究活動を再開する大きな契機となりました。
私の研究は、1937年から1945年までの戦時期を対象とし、中国大陸や満洲で生活し
た経験を持つ台湾知識人の文学作品を通じて、彼らがどのように「中国」を認識し、
表象したのかを考察するものです。助成金の支援により、2023年には南京、蘇州、杭
州、台北、ハルビン、長春、瀋陽などを訪れ、各地の档案館や図書館で資料調査を行
うことができました。日本国内では入手が難しい資料にも接することができ、研究を
大きく前進させる貴重な機会となりました。

写真2 台湾中央研究院.jpg
「図1 黒竜江省档案館」

写真1 黒竜江省档案館.png
「図2 台湾中央研究院」

研究成果として書評や学会発表を行い、研究ノートも発表することができました。
さらに、これらの成果は博士論文の重要な一部となり、2025年の博士学位取得へとつ
ながりました。
振り返ると、笹川科学研究助成は単なる研究費の支援にとどまらず、停滞していた
研究を再び動かし、現地調査、研究発表、そして博士論文完成へとつながる大きな原
動力となりました。研究者としての第一歩を踏み出すことができたのも、この助成の
おかげです。
最後に、この場をお借りして、研究をご支援いただきました日本科学協会と同会の
皆様に心より感謝申し上げます。

<以上>
 

日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちし
ております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 13:04 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)