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先輩研究者のご紹介 榮 航太朗さん [2026年05月26日(Tue)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2023年度「光合成と菌寄生の両方で炭素を獲得する混合栄養植物は根滲出物を土壌に放出して有益細菌を誘引するのか?」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、三重大学 大学院生物資源学研究科 森林微生物学研究室 教育研究分野 博士後期課程の榮 航太朗さんからのお話をお届けします。

<榮さんより>
【助成研究の内容】
 私は、森林の地面近く(林床)で生きる植物を支える共生微生物の役割を研究しています。森林には、林冠を作り上げる巨樹から地面を這う草花まで、多種多様な植物が階層的に生息しています。従来、この多種共存は日光を求めてせめぎ合う競争原理で成立するとされてきました。しかし、日光のほとんどが届かない林床でも植物が生息できる理由は未解明です。今世紀に入って、林床植物のなかから根に定着する真菌類(カビやキノコの仲間)から炭素を得る種が発見されました。自身の葉で行う光合成だけでなく、根に関わる共生菌からも炭素を得る生活は混合栄養性と呼ばれ(図1)、暗い林床に適応するための生存戦略である可能性があります。近年の研究では、植物の生育には、共生菌だけでなく根周辺の細菌なども含めた微生物が協同体(コンソーシアム)として関わることが知られています。しかし真菌類から植物への炭素供給においても微生物協同体が関わるのか、その具体的な仕組みは調べられていませんでした。そこで、私は混合栄養性のツツジ科イチヤクソウ−共生菌−細菌の三者関係に迫る研究を提案し、助成を受けました。助成研究では、イチヤクソウに炭素獲得に関わる共生菌やその共生関係を支える細菌、その共生微生物を維持する植物側の機構を明らかにしました。その成果は、助成のおかげで2本の論文として出版することができました。

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「図1 混合栄養植物の炭素獲得様式の概念図」

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「図2野外調査の様子。榮さんは右下」

【助成を受けた感想】
笹川科学助成研究は、私が博士前期課程1年生時に申請し、翌年度の2年生時に助成を受けました。大学院進学のタイミングで研究分野を変えた私にとって、この申請は最初の挑戦でした。申請のために、従前の研究を整理し研究計画を突き詰める過程では、現在進行中の研究においても中核となっているアイデアを育むことができました。助成によって、高額な解析の実施や2回の国際学会での発表、学会での受賞、論文出版など貴重な経験ができました。研究を始めた早い段階において自己裁量で使える資金を得たことで、活動を自身で運営し、手法の試行錯誤が自由に行えたため、研究の管理や方針決定など俯瞰的な視座を養うきっかけにもなりました。先行投資の性格が強い笹川科学研究助成は、全く研究業績がない駆け出しの段階には貴重な支援制度だと思います。最後に、研究をご支援いただきました日本科学協会と、同会の皆様にこの場を借りて心より感謝申し上げます。

【出版論文】
・Kohtaro Sakae, Shosei Kawai, Yudai Kitagami, Naoko Matsuo, Marc- André Selosse, Toko Tanikawa, Yosuke Matsuda (2024) “Effects of fungicide treatments on mycorrhizal communities and carbon acquisition in mixotrophic plants, Pyrola japonica (Ericaceae)”, Mycorrhiza, 34: 293-302, 2024.06.26
・Kohtaro Sakae, Yudai Kitagami, Yosuke Matsuda (2025) “Rhizosphere bacterial communities alter in process to mycorrhizal developments of a mixotrophic Pyrola japonica”, Microbial Ecology, 88: 28, 2025.04.14


<以上>



 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 16:50 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介 大内 彩子さん [2026年05月12日(Tue)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2023年度「海馬−嗅内皮質回路において未来の経路情報を表現する神経メカニズムの解明」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、理化学研究所・脳神経科学研究センター・時空間認知神経生理学研究チーム・基礎科学特別研究員(現所属)の大内 彩子さんからのお話をお届けします。

<大内さんより>
 2023年度はポスドクとして4年目を迎える年でしたが、当時は業績が十分でないまま、前年度に日本学術振興会特別研究員PDの任期を満了しました。日々実験に取り組んでいたものの、なかなか成果に結びつかず強い焦りを感じていました。そのような状況下で、この業績で自分の研究費を新たに獲得することはできるのだろうかと藁にも縋る思いで笹川科学研究助成に申請したことを今でも鮮明に覚えています。本研究助成によってご支援いただいた研究内容の概要を簡単にご紹介いたします。
 私たちは、自分が今どこにいるのかを把握し、目的地までの移動を計画することができます。こうした空間認知や空間ナビゲーション機能には、海馬や嗅内皮質(きゅうないひしつ)と呼ばれる脳の領域が関わっていると考えられています。海馬は、動物が特定の場所にいるときに活動する「場所細胞」があり、主に自分の現在位置を表しています。一方、嗅内皮質には、空間を移動するときに六角形の格子状に活動する「格子細胞」があり、空間全体の地図のような役割を果たしています(図1)。

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 これまでの研究では、こうした神経細胞が「現在いる場所」をどのように表現しているかが調べられてきました。しかし、「これから向かう場所」を脳がどのように表現しているのかは不明でした。本研究では、ラットの嗅内皮質において将来の位置情報を表現する「予測的格子細胞」を発見しました(図2)。この発見により、動物やヒトがどのように目的地への移動を計画しているのか、さらに記憶と空間認知がどのように結びついているかの理解が進むことが期待されます。

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【申請を検討している方へ】
 私の場合、申請時は後に論文化されたデータもまだ得られておらず、「何か新しい発見につながるのではないか」という期待だけが芽生え始めている段階でした。このように十分な根拠がない状況では、内容が適切に伝わるか、審査において評価されるかという不安もありましたが、「このようなことが明らかになれば意義深いのではないか」と構想を深めながら申請書を作成しました。
 本採択を通じて、データが十分でないから申請書が書けないのではなく、申請書を書くという行為そのものが、自身の研究を俯瞰的に見直し、研究者としての資質を高める機会になるのだと実感しました。助成制度や各種公募においては、不採択となる場合であっても、申請の過程から得られる学びは多いと考えています。申請に迷われている方がいらっしゃいましたらぜひ積極的に挑戦していただきたいと思います。

 最後に、研究者としての励みをくださった日本科学協会の皆様、日頃よりサポートしてくださる研究チームの皆様に、心より御礼申し上げます。

(参考文献)
・Ouchi, A., & Fujisawa, S. (2024). Predictive grid coding in the medial entorhinal cortex. Science, 385(6710), 776-784. https://doi.org/10.1126/science.ado4166
・Ouchi, A. (2026). Predictive grid cells: Future spatial representations in the hippocampal-entorhinal circuit. Neurosci Res, 227, 105053. https://doi.org/10.1016/j.neures.2026.105053

<以上>

 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:49 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)