先輩研究者のご紹介 信田 尚毅さん
[2026年04月01日(Wed)]
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2023年度「グリーンで安全な酸化反応を実現する電極メディエータの開発」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、横浜国立大学大学院工学研究院准教授(助成時)の信田 尚毅さんからのお話をお届けします。
私たちの身の回りにある医薬品や機能性材料の多くは、「酸化反応」と呼ばれる化学反応を経て合成されています。しかし、従来の酸化反応では、有害な試薬を使ったり、大量の廃棄物が生じたりすることが課題となってきました。そこで注目されているのが、電気を使って化学反応を進める「電解合成」です。電気は必要なときに必要な分だけ反応を進めることができ、環境にやさしく、安全な反応設計が可能になります。
本研究では、「グリーンで安全な酸化反応を実現する電極メディエータの開発」をテーマに、笹川科学研究助成の支援を受けて研究を進めてきました。
電解合成では、電極から直接分子に電子を出し入れするのではなく、「電極メディエータ」と呼ばれる分子を介して反応を進めることがあります。
このメディエータは、電極と反応分子の仲介役として働き、反応を穏やかに、選択的に進める重要な役割を担います。研究開始当初、私たちは「電子の受け渡しそのものを助けるタイプのメディエータ」を想定していました。ところが研究を進める中で、まったく予想していなかった現象が見えてきました。
実験を詳しく調べていくと、開発したメディエータは、電気を流して酸化されたときにだけ、相手の分子と弱く引き合う性質を示すことがわかりました(図参照)。この引き合いは「ハロゲン結合」と呼ばれるもので、磁石のように強く結合するわけではありませんが、分子同士の位置関係をうまく整える働きを持っています。重要なのは、このハロゲン結合が「電気を流したときだけオンになる」という点です。これまで、ハロゲン結合そのものは知られていましたが、電気化学的にオン・オフを切り替えられるメディエータは前例がなく、本研究で初めてその可能性が示されました。
このメディエータは、反応相手の分子を一時的に引き寄せ、反応しやすい形に整えます。その結果、強い試薬を使わなくても、穏やかな条件で効率よく反応が進むことがわかりました。まるで、無理に押すのではなく、正しい位置にそっと導くことで反応を成功させているような仕組みです。この考え方は、今後の電極メディエータ設計において、「どのように電子をやり取りするか」だけでなく、「分子同士をどう近づけ、どう整えるか」という視点の重要性を示しています。
本研究の成果は、Journal of the American Chemical Society誌に論文として発表することができ、また論文誌のカバーピクチャーに採択いただきました。当初の想定とは異なるメカニズムにたどり着いたことは、研究の難しさであると同時に、基礎研究ならではの面白さでもあります。今回見いだした「電気で切り替えられるハロゲン結合」という考え方は、今後、より安全で環境にやさしい化学反応の開発につながると期待されます。
笹川科学研究助成の支援によって、自由な発想で研究を進めることができたことに、心より感謝しています。
日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2023年度「グリーンで安全な酸化反応を実現する電極メディエータの開発」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、横浜国立大学大学院工学研究院准教授(助成時)の信田 尚毅さんからのお話をお届けします。
グリーンで安全な酸化反応を目指して
横浜国立大学 大学院工学研究院
准教授 信田尚毅
准教授 信田尚毅
私たちの身の回りにある医薬品や機能性材料の多くは、「酸化反応」と呼ばれる化学反応を経て合成されています。しかし、従来の酸化反応では、有害な試薬を使ったり、大量の廃棄物が生じたりすることが課題となってきました。そこで注目されているのが、電気を使って化学反応を進める「電解合成」です。電気は必要なときに必要な分だけ反応を進めることができ、環境にやさしく、安全な反応設計が可能になります。
本研究では、「グリーンで安全な酸化反応を実現する電極メディエータの開発」をテーマに、笹川科学研究助成の支援を受けて研究を進めてきました。
電解合成では、電極から直接分子に電子を出し入れするのではなく、「電極メディエータ」と呼ばれる分子を介して反応を進めることがあります。
このメディエータは、電極と反応分子の仲介役として働き、反応を穏やかに、選択的に進める重要な役割を担います。研究開始当初、私たちは「電子の受け渡しそのものを助けるタイプのメディエータ」を想定していました。ところが研究を進める中で、まったく予想していなかった現象が見えてきました。
実験を詳しく調べていくと、開発したメディエータは、電気を流して酸化されたときにだけ、相手の分子と弱く引き合う性質を示すことがわかりました(図参照)。この引き合いは「ハロゲン結合」と呼ばれるもので、磁石のように強く結合するわけではありませんが、分子同士の位置関係をうまく整える働きを持っています。重要なのは、このハロゲン結合が「電気を流したときだけオンになる」という点です。これまで、ハロゲン結合そのものは知られていましたが、電気化学的にオン・オフを切り替えられるメディエータは前例がなく、本研究で初めてその可能性が示されました。
このメディエータは、反応相手の分子を一時的に引き寄せ、反応しやすい形に整えます。その結果、強い試薬を使わなくても、穏やかな条件で効率よく反応が進むことがわかりました。まるで、無理に押すのではなく、正しい位置にそっと導くことで反応を成功させているような仕組みです。この考え方は、今後の電極メディエータ設計において、「どのように電子をやり取りするか」だけでなく、「分子同士をどう近づけ、どう整えるか」という視点の重要性を示しています。
本研究の成果は、Journal of the American Chemical Society誌に論文として発表することができ、また論文誌のカバーピクチャーに採択いただきました。当初の想定とは異なるメカニズムにたどり着いたことは、研究の難しさであると同時に、基礎研究ならではの面白さでもあります。今回見いだした「電気で切り替えられるハロゲン結合」という考え方は、今後、より安全で環境にやさしい化学反応の開発につながると期待されます。
笹川科学研究助成の支援によって、自由な発想で研究を進めることができたことに、心より感謝しています。
<以上>
日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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