先輩研究者のご紹介 高屋 浩介さん
[2025年12月16日(Tue)]
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2023年度「深層学習で挑む新たな個体及び交雑種判別手法:情報科学と野外調査でオオサンショウウオの保全に貢献する」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、京都大学大学院農学研究科(助成時)の高屋 浩介さんからのお話をお届けします。
<高屋さんより>
人工知能(AI)の飛躍的な進歩により私たちの社会が大きく変わり始めています。私はこのAIの技術を生物多様性の保全に応用する研究を進めています。笹川科学研究助成をいただき、2本の研究成果を発表することができたので、ご紹介させていただきます。
【研究@AIをオオサンショウウオの個体識別に応用した研究】
野生動物を守るためには、対象となる種が野外でどのような生活をしているのか調べる必要があります。また、年齢や性別によって行動が変わる場合もあるため、様々な方法で個体を識別して観察する必要があります。例えば、鳥類では古くから足環が用いられており、両生類では小型のタグを体内に埋め込む手法などが用いられてきました。従来の方法でも対象種への負担を減らす配慮はなされてきましたが、私はAIの画像認識技術を動物の個体識別に応用できないだろうかと考えました。
オオサンショウウオは日本固有の特別天然記念物であり、絶滅が心配されています。オオサンショウウオの模様は個体ごとに異なるため、この違いを利用したAIによる個体識別に挑戦しました(図1)。具体的にはオオサンショウウオの写真を撮影し、個体ごとの模様の違いをAIに学習してもらいました(図2)。解析の結果、一定の撮影条件下においては、高い精度で個体識別をできることが分かりました。この方法は写真を撮影するだけなので、対象種に与える負担を最小限にできます。また、オオサンショウウオのような長寿命の生き物は(まだ研究中ですが60年以上生存した記録も報告されています)、1人の研究者が生涯を通じて追跡調査することが困難です。そこで、寿命に制約のないAIを活用することで、世代を超えた長期的なモニタリングが可能となります。また、市民科学でも本技術の応用が期待されます(図3)。この成果はScientific Reportsに掲載されました(Takaya et al. 2023)
【研究Aオオサンショウウオの交雑個体の識別にAIを応用した研究】
外来種は生物多様性の減少の要因の1つとされています。外来種と在来種が近縁である場合、両者の間で交雑個体が生じることがあります。多くの動物では交雑個体は繁殖能力を持たないのですが、日本のオオサンショウウオと中国のチュウゴクオオサンショウウオの交雑個体には繁殖能力があることが知られています。そのため、在来のオオサンショウウオの遺伝的多様性の保全の観点から、交雑個体への対策が求められています。交雑個体を特定するためには遺伝的な解析が必要ですが、私はAIを用いて模様で交雑個体を識別できないだろうかと考えました(図4)。解析の結果、オオサンショウウオとチュウゴクオオサンショウウオを親世代に持つ個体(F1世代)では、画像から交雑個体を特定できる可能性が示唆されました。もちろん、正確な交雑個体の特定のためには遺伝的な解析が必須です。しかし、写真からある程度の精度で交雑個体の識別ができれば、野外で交雑の疑いがある個体を迅速に特定することができます。この成果はEcology and Evolutionに掲載され(Takaya et al. 2023)、2023年度の掲載論文の中で閲覧数トップ10%にランクインしました(図5)。
【申請を検討されている方へのアドバイス】
私は博士後期課程の研究で助成をいただきました。学振に採用されなかった私にとって、本当にありがたい助成でした。笹川科学研究助成がなければ、上記の研究は遂行できなかったかもしれません。特に、野外におけるサンプリングにはどうしても不確定な要素が影響します。例えば、雨で増水すれば河川での調査はできません。相手は野生動物なので、都合良く現れてくれるとも限りません(図6)。その点、笹川科学研究助成は研究上必要であれば使用用途を柔軟に変更できるため、他の助成制度と比較して、研究者にとって非常に助かるものでした。また、学振の不採択通知を受け取ると「自分の研究に意味なんてないのかな・・・」と落ち込んでしまいましたが、笹川科学研究助成に採択されたことで前を向くエネルギーもいただきました。ぜひ、応募を検討されている方は積極的に挑戦してみてください。
現在、私は島根大学に講師として着任し、オオサンショウウオだけでなく、ツキノワグマやタヌキなどの哺乳類も対象種として研究を続けています。研究ができるありがたい環境に感謝しつつ、学生や次世代の研究者の育成にも力を入れることで、これまで私が受けてきた様々なサポートへの恩返しができればと考えています。最後になりましたが、金銭的にも精神的にも温かいご支援をいただいた日本科学協会の皆様に、心より感謝申し上げます。改めて、本研究に助成をいただき、ありがとうございました。
【参考文献】
Takaya, K., Taguchi, Y., & Ise, T. (2023) Individual identification of endangered amphibians using deep learning and smartphone images: case study of the Japanese giant salamander (Andrias japonicus). Scientific Reports, 13, 16212. doi.org/10.1038/s41598-023-40814-1
Takaya, K., Taguchi, Y., & Ise, T. (2023) Identification of hybrids between the Japanese giant salamander (Andrias japonicus) and Chinese giant salamander (Andrias cf. davidianus) using deep learning and smartphone images. Ecology and Evolution, 13, e10698. doi.org/10.1002/ece3.10698
日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2023年度「深層学習で挑む新たな個体及び交雑種判別手法:情報科学と野外調査でオオサンショウウオの保全に貢献する」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、京都大学大学院農学研究科(助成時)の高屋 浩介さんからのお話をお届けします。
<高屋さんより>
人工知能(AI)の飛躍的な進歩により私たちの社会が大きく変わり始めています。私はこのAIの技術を生物多様性の保全に応用する研究を進めています。笹川科学研究助成をいただき、2本の研究成果を発表することができたので、ご紹介させていただきます。
【研究@AIをオオサンショウウオの個体識別に応用した研究】
野生動物を守るためには、対象となる種が野外でどのような生活をしているのか調べる必要があります。また、年齢や性別によって行動が変わる場合もあるため、様々な方法で個体を識別して観察する必要があります。例えば、鳥類では古くから足環が用いられており、両生類では小型のタグを体内に埋め込む手法などが用いられてきました。従来の方法でも対象種への負担を減らす配慮はなされてきましたが、私はAIの画像認識技術を動物の個体識別に応用できないだろうかと考えました。
オオサンショウウオは日本固有の特別天然記念物であり、絶滅が心配されています。オオサンショウウオの模様は個体ごとに異なるため、この違いを利用したAIによる個体識別に挑戦しました(図1)。具体的にはオオサンショウウオの写真を撮影し、個体ごとの模様の違いをAIに学習してもらいました(図2)。解析の結果、一定の撮影条件下においては、高い精度で個体識別をできることが分かりました。この方法は写真を撮影するだけなので、対象種に与える負担を最小限にできます。また、オオサンショウウオのような長寿命の生き物は(まだ研究中ですが60年以上生存した記録も報告されています)、1人の研究者が生涯を通じて追跡調査することが困難です。そこで、寿命に制約のないAIを活用することで、世代を超えた長期的なモニタリングが可能となります。また、市民科学でも本技術の応用が期待されます(図3)。この成果はScientific Reportsに掲載されました(Takaya et al. 2023)
【研究Aオオサンショウウオの交雑個体の識別にAIを応用した研究】
外来種は生物多様性の減少の要因の1つとされています。外来種と在来種が近縁である場合、両者の間で交雑個体が生じることがあります。多くの動物では交雑個体は繁殖能力を持たないのですが、日本のオオサンショウウオと中国のチュウゴクオオサンショウウオの交雑個体には繁殖能力があることが知られています。そのため、在来のオオサンショウウオの遺伝的多様性の保全の観点から、交雑個体への対策が求められています。交雑個体を特定するためには遺伝的な解析が必要ですが、私はAIを用いて模様で交雑個体を識別できないだろうかと考えました(図4)。解析の結果、オオサンショウウオとチュウゴクオオサンショウウオを親世代に持つ個体(F1世代)では、画像から交雑個体を特定できる可能性が示唆されました。もちろん、正確な交雑個体の特定のためには遺伝的な解析が必須です。しかし、写真からある程度の精度で交雑個体の識別ができれば、野外で交雑の疑いがある個体を迅速に特定することができます。この成果はEcology and Evolutionに掲載され(Takaya et al. 2023)、2023年度の掲載論文の中で閲覧数トップ10%にランクインしました(図5)。
【申請を検討されている方へのアドバイス】
私は博士後期課程の研究で助成をいただきました。学振に採用されなかった私にとって、本当にありがたい助成でした。笹川科学研究助成がなければ、上記の研究は遂行できなかったかもしれません。特に、野外におけるサンプリングにはどうしても不確定な要素が影響します。例えば、雨で増水すれば河川での調査はできません。相手は野生動物なので、都合良く現れてくれるとも限りません(図6)。その点、笹川科学研究助成は研究上必要であれば使用用途を柔軟に変更できるため、他の助成制度と比較して、研究者にとって非常に助かるものでした。また、学振の不採択通知を受け取ると「自分の研究に意味なんてないのかな・・・」と落ち込んでしまいましたが、笹川科学研究助成に採択されたことで前を向くエネルギーもいただきました。ぜひ、応募を検討されている方は積極的に挑戦してみてください。
現在、私は島根大学に講師として着任し、オオサンショウウオだけでなく、ツキノワグマやタヌキなどの哺乳類も対象種として研究を続けています。研究ができるありがたい環境に感謝しつつ、学生や次世代の研究者の育成にも力を入れることで、これまで私が受けてきた様々なサポートへの恩返しができればと考えています。最後になりましたが、金銭的にも精神的にも温かいご支援をいただいた日本科学協会の皆様に、心より感謝申し上げます。改めて、本研究に助成をいただき、ありがとうございました。
【参考文献】
Takaya, K., Taguchi, Y., & Ise, T. (2023) Individual identification of endangered amphibians using deep learning and smartphone images: case study of the Japanese giant salamander (Andrias japonicus). Scientific Reports, 13, 16212. doi.org/10.1038/s41598-023-40814-1
Takaya, K., Taguchi, Y., & Ise, T. (2023) Identification of hybrids between the Japanese giant salamander (Andrias japonicus) and Chinese giant salamander (Andrias cf. davidianus) using deep learning and smartphone images. Ecology and Evolution, 13, e10698. doi.org/10.1002/ece3.10698
<以上>
日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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