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先輩研究者のご紹介 井本 葵さん [2025年05月26日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2022年度「京都の町家にまつわる事物連関と近代化による変化」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東京科学大学・博士課程の井本葵さんからのお話をお届けします。

<井本さんより>
 私は建築意匠の研究分野で京都の手描友禅という技法で着物をつくる工房を建築的・都市的な観点から研究しています。簡単に研究背景と目的をご紹介いたします。

写真1.JPG
写真1「京手描友禅工房の内観例」

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写真2「現地調査の様子」


 伝統工芸の仕事場をはじめとする生産の場は、かつて都市部の町家に代表される民家の一角にありました。そこでは、自然光を採り入れる格子窓や天井の高い乾燥室など、生業に固有の建築の意匠がみられました。しかし、明治時代以降、多くの手工業は機械工業へ移行し、人口増加も相まって住環境が悪化したことから職住が分離され、「職」は郊外の大規模で画一的な工場へ集約されて大量生産が行われるようになりました。そして、都市の生業に固有の建築の意匠は失われていきました。しかし、近年では、生業や地域に固有の意匠は、まちづくりにおける地域資源として注目されています。また、その意匠を生み出す生産の背景にある職人の技術、道具、建築、都市構造、自然資源などの事物の連関は、身近な資源を最大限に活用したものであり、環境負荷が少ないとして再評価されています。そこで、都市の中で手仕事を組織的に行い、生産の場を生活の近くに持ち続けている好例として、京手描友禅工房の実相を、建築的・都市的観点から示すことを目的とし研究を行っています。人口減少時代の都市における職と住の関係を検討するための研究です。
 ご興味がある方は、下記論文をご覧いただけると嬉しく思います。
京手描友禅の不変の行程における仕事場(https://doi.org/10.3130/aija.89.755)
京手描友禅工房の建物と立地の特徴(https://doi.org/10.3130/aija.90.582)

助成を受けての感想
 博士課程の学生が応募できる数少ない競争的資金の一つです。私の研究は現地調査が必要であったため、交通費や宿泊費の確保が最初の課題でした。博士課程入学前に応募し、幸い採用していただくことができたため、スムーズに研究のスタートを切ることができました。このような助成金を設け、採用していただき、財団や関係者の方々には改めて感謝いたします。

研究奨励の会参加の感想
 複数の異分野の研究者や学生と話すことができ、他の分野と研究の親和性があることに気付く良い機会となりました。

これから本助成に申請を考えている方へのアドバイス
 申請時点で査読付き論文などの業績がないと採用可能性がないと考える人もいるかもしれませんが、私は申請時点では発表済みの査読付き論文はありませんでした。申請書は、研究の社会的意義や発展性など広がりを意識し、異分野の専門家にも伝わるよう専門用語を噛み砕いて作成すると良いと思います。

<以上>


 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:20 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介 加藤 剛臣さん [2025年05月13日(Tue)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2022年度「レーザー・極低温ARPESによるカゴメ超伝導体の新奇物性発現機構解明」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東北大学大学院理学研究科(助成時)の加藤 剛臣さんからのお話をお届けします。

<加藤さんより>
 2022年度に笹川科学研究助成にご支援いただきました、加藤剛臣と申します。まず、本研究に対するご支援に深く感謝いたします。

 私は「角度分解光電子分光」と呼ばれる、結晶の表面に紫外線を照射し、結晶外に放出される電子のエネルギーと運動量を同時に測定することで、物質中の電子状態を観測する実験手法を用いた研究を行っていました。研究対象は結晶構造にカゴメ格子(写真1)と呼ばれる、三角形と六角形が組み合わされた構造を内包する物質です。このカゴメ格子を持つ物質では、特殊な電子構造やフラストレーションを示すことが予想されていました。本課題では、カゴメ物質の中でも最近発見されたバナジウムカゴメ金属における超伝導や、低温で電子が長周期の波を形成する電荷密度波という現象に着目し、その性質や起源解明を目的とした研究を行いました。

写真1_加藤剛臣.jpg
写真1:カゴメ(籠目)格子の名前の由来である、六つ目編みの籠


 バナジウムカゴメ金属に対して角度分解光電子分光を行うことで、この物質の電子の状態を直接可視化することに成功し、カゴメ格子に由来する特殊な電子構造が電荷密度波の形成に重要な役割を持っていることに加え、バナジウムとアンチモン由来の電子が協力しながら超伝導を実現していることを明らかにしました。

 笹川科学研究助成を受けた感想としましては、学生のうちに予算管理を含めた研究計画を立てて実行する良いトレーニングだったと感じています。どの研究器具が必要か、どれくらいの期間で出張実験を行えば良いかなどの実験計画を申請前や助成中に時間をかけて考えることは、研究者になる上で重要な経験になると思います。

写真2_加藤剛臣.jpg
写真2:出張実験を行った放射光施設の装置


 申請書の作成にはかなり労力を費やしますが、自分の研究計画を新たに立てたり、見直したりする良い機会であり、研究費を頂くことができれば今行っている研究の幅がさらに広がります。特に博士課程の学生で主体的に研究を推進したいと考えている方には、ぜひ挑戦してほしいと思います。

<以上>


 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:31 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)