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先輩研究者のご紹介 宮ア 星さん [2025年03月18日(Tue)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2022年度「パンデミック禍における保健所保健師の苦悩と支援策の探究−個人・組織のレジリエンスを高めるために−」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、筑波大学大学院(助成時)の宮ア 星さんからのお話をお届けします。

<宮アさんより>
 私は、2022年度、修士課程の時に笹川科学研究助成にてご支援いただき、パンデミック禍の保健所保健師を対象とした研究を実施しました。パンデミック禍の保健所保健師たちがどのような困難を経験したのか、また過酷な中でも責務を全うし続けている理由をインタビューで聞き取り、質的に分析した後に、それを基に作成したアンケート調査票を用いて全国の保健所保健師たちの経験や個人の逆境を乗り越える力(レジリエンス)及び組織の逆境を乗り越える力(組織レジリエンス)がバーンアウトとどのように関連するのかを量的に分析しました。
 インタビュー調査では、パンデミック初期には、多くの保健師たちが、不確かな状況に不安や怒りを抱えた住民への対応や、医療機関からの協力が得られない状況を経験し、また、陽性者が増加してからは、病院のように満床という概念がない中で終わりが見えない状況を経験していたことなどが分かりました。
 いくつかのこれらの保健師たちの経験は、将来のパンデミックにおいても、繰り返される可能性があります。しかし、そのような状況下でも、組織レジリエンスが強ければ、地域保健の要である保健師たちが、個人のレジリエンスの高低によらず、バーンアウトに陥らず役割を全うし続けることができる可能性が、アンケート調査研究により明らかになりました。
(※本研究における「組織レジリエンス」の因子には、迅速な決断や明確な指示ができるリーダーやその補佐的な役割を担う保健師の存在、個人的な感情を気軽に吐露できる環境等が含まれます。)

 笹川科学研究助成制度は、私のような研究実績のない若手研究者にも機会を与えてくださりました。そのお陰で、当事者としても、社会的にも重大で、喫緊の課題を全国調査により探究し、更にその結果を国際誌への投稿により世界へ発信することができました。
https://doi.org/10.3934/publichealth.2023018
https://doi.org/10.3390/healthcare11081114
 公衆衛生の仕組みやパンデミックへの対応は、国によっても様々ですが、この研究結果が、今後の国内外でのパンデミック対策に少しでも貢献できるのであれば、大変嬉しく思います。

 私は、現在は、茨城県庁で高齢化の進行に対応するための地域包括ケアシステムの推進に携わっています。今年、団塊の世代全員が75歳となる2025年を迎えましたが、今後ますます介護と医療の両方を必要とする高齢者が増加することを踏まえると、保健師等の地域の専門職による住民の力を効果的に引き出す効率的な保健活動の重要性が高まっていることを実感しております。そのような中、最前線の関係者の生の声を聞き、研究の経験を生かしてデータを様々な角度から解釈するなど、保健師と研究者の両方の視点を併せた実践を意識して、日々研鑽しています。次にまた研究に携わる際にも、「実際の現場に生きる研究、現場に還元できる研究」を実践していきたいと思います。

画像1 宮ア星.png


画像2 宮ア星.jpg
「職場の有志の研究会で保健師の人材育成に関する研究に取り組んでいます」


<以上>


 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 15:05 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介 山本 翔平さん [2025年03月10日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2022年度「無料学習サイト大規模フィールド実験でのピア効果による学習時間と学習定着の促進」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、一橋大学特任講師の山本 翔平さんからのお話をお届けします。

<山本さんより>
 この記事を読んでくださっている皆様、山本翔平と申します。皆様は、友人や他の人と一緒に仕事や勉強をすることで、継続しやすくなった経験はありませんか?

 本研究では、模擬的な英語学習スマートフォンアプリを用いて、オンライン学習における学習パートナーの影響を検証しました。具体的には、学習者の成績や忍耐力が、パートナーの学習態度(どのように提示させたかどうかは図1参照)によってどのように変化するのかを調べました。

山本氏ブログ画像.png
図1. 自主学習パート(ペア条件)の例題のスクリーンショット
右上には、学習パートナー(PTQOI84)の学習状況が表示されています。参加者は、提示された英単語の正しい日本語訳を、5つの選択肢の中から選びます。

結果と議論
 しかし、予想に反し、忍耐力の高い学習パートナーは、参加者の成績や忍耐力への影響はみられませんでした。一方、忍耐力の低い学習パートナーと学ぶ場合、参加者の成績や忍耐力が低下してしまうことが明らかになりました (Yamamoto & Iwatani, 2024)。この結果から、教育や職場においてペアを組んで取り組む際には、ネガティブな影響が生じる可能性に注意を払う必要があることが示唆されました。

フィールド実験
 2025年2月から、カナダのトロントでの実際の授業「Management and Human Resource」において約1,500人の学生を対象に、ピア効果が課題の達成率やテスト成績に与える影響を調査しています。この実験には、以下のような意義があります。

1. 学生のモチベーション向上
クラスメイトとの学習を通じて、学生のモチベーションが高まり、授業がより魅力的になる可能性があります。また、大学側も学生の学習意欲の向上に関心を持っています。
2. 外的妥当性の向上
実験室ではなく、実際の授業でデータを収集するため、より一般化可能な研究成果が得られます。
3. 追加報酬が不要
課題やテストが通常の学習活動の一環として行われるため、金銭的なインセンティブを設ける必要がありません。特に研究資金が限られる若手研究者にとって、大きな利点です。

 さらに、このシステムはピア効果の研究にとどまらず、学習内容や介入方法を変更することで、他の教育研究にも応用可能です。

研究の発展と今後の展望
 この研究は現在ワーキングペーパーとしてまとめられ、国際学会で発表しました。今後は論文誌への掲載を目指し、さらなる発展を図っていきます。

 挑戦的な研究に取り組める機会は決して多くありません。しかし、笹川科学研究助成ではこうした革新的な研究を積極的に支援しているため、思い切って申請することを決めました。これから挑戦的な研究の申請を考えている方も、ぜひ前向きにチャレンジしてみることをお勧めします。

 この研究を実施するにあたり、笹川科学研究助成の支援を受けられたことに、心より感謝申し上げます。研究を通じて得られた知見が、今後の教育や学習環境の改善につながることを願っています。

<以上>


 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:36 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)