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先輩研究者のご紹介 木場 安莉沙さん [2024年05月27日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2021年度「日系およびその他アジア系アメリカ人をめぐる現代米国社会のディスコース」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、名古屋文理大学助教の木場 安莉沙さんからのお話をお届けします。

<木場さんより>
2014年より、日本や米国ベイエリアにてエスニックマイノリティやセクシュアルマイノリティの方々にご協力頂き、インタビューを実施してきました。特に2020年以降は、いわゆる「コロナ禍」の開始とともに感染者や少数者、医療従事者といった人々に対する差別的言動が日本でも米国でも報告され、特に米国では、アジア系の人々をターゲットにした(少なくともそのように見受けられる)暴力事件や銃撃事件まで発生する事態となりました。こうした事態を受け、日本もしくは/および米国でコロナ禍を経験したエスニックマイノリティ(主にアジア系)の方々にインタビューを実施し、コロナ禍さなかで起きた変化や経験についてのナラティブ(語り)を収集し、現在文字起こしや分析を進めています。
まだ分析の途中ではありますが、インタビュー協力者が語った「変化」についてはおおよそ以下のようにまとめることができます。まず、予想に反してポジティブな変化を語る人が多く見られました。コロナ禍で新たなオンラインコミュニティが発足したり、家族や友人と連絡を取る機会がむしろ増えるなどして、これまでより人との繋がりが濃くなったと答えた人が日本にも米国にもいました。しかし、「初めて自分を(ヘイトの)ターゲットとして意識するようになった」「(アジア系が少ないような)特定地域には行かないようにするなど行動が制限された」といったように、アイデンティティや言動に変化を余儀なくされたと答えた方もやはりいました。
興味深いのは、こうしたネガティブな経験が必ずしも「変化」として語られたわけではないことです。例えば、或る日本在住の協力者は、コロナ禍で感じた自身のエスニシティや言語能力ゆえの不便、孤立感などは、コロナ禍以前より日本社会で感じていたものであると語りました。米国に在住している/長期滞在していた協力者も、以前から一部地域で感じていた反アジア系感情とコロナ禍でのアジアンヘイトを結び付けたり、2016年の大統領選からエスニックマイノリティへの憎悪を感じていたと語っています。先行研究でも、コロナ禍でのアジアンヘイトは新しく発生したものではなく、歴史的な反アジア系ディスコース(言説、談話)に根差すものであると指摘されています。このように、一見新しく見える社会現象にも、歴史的要因が関与していることを念頭に置きつつ、それがコロナ禍という文脈でどのように「再生産」されたのかを引き続き詳察していく所存です。

抜粋1.jpg

<抜粋1: Kが協力者(アジア系アメリカ人)、Aが筆者。コロナ禍で自身が感じた変化を、移民第一世である両親の経験とリンクさせている。>

抜粋2.jpg

<抜粋2: S, Mが協力者(在米日本人)。コロナ禍以前に受けた差別の経験(「ミネソタにいた時」)とコロナ禍での経験が織り交ぜて語られている。48:42のコロナ禍での経験の語りと53:42のミネソタでの経験の語りに、「行動が制限される」という共通の評価が見られる。>

最後に、初めて笹川科学研究助成にご採択頂いた時は、応募時点ではまだ非常勤講師で専任のポストに就いておりませんでした。専任教員でなければ応募自体ができなかったり、応募できても採択の可能性が極度に低い(特に人文社会系)助成金もある中で、若手研究者で非常勤の身分であった自分を採択して頂き、経済的に助かっただけでなく自分の研究にも自信がつきました。身分や研究歴、いわゆる「花形」の分野であるかどうかに関わらず、研究計画や内容で判断して頂けることは大変有難かったです。
これから申請に臨まれる方は、選考総評を熟読されること、また、可能であれば研究計画書にセカンドオピニオンを貰うことをお勧めします。特に、自分と専門分野が異なる方が読んでも説得力や実現可能性を感じられるかが重要だと思います。最後になりますが、まだ研究職を歩み始めて間もなかった自分に自信と機会を与えて頂いた日本科学協会の皆様に、厚く御礼申し上げます。

笹川科学研究助成を受けて出版された論文

Koba A. (2021) Discursive othering of Asian Americans: A preliminary reflection of a foreshadowing COVID-19’ related hate, Language, Discourse & Society, vol.9, 1(17), pp.15-32.
Koba A. (2021) “Can I be gay and Christian?”: Intersectionality of religious and sexual identity,” JSLS 2021 Conference Handbook.

<以上>


 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:24 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介 佐藤 初さん [2024年05月20日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2020年度「掃除魚に擬態するニセクロスジギンポの繁殖生態と擬態機能解明」、2021年度「掃除魚に擬態するニセクロスジギンポの卵食における協力行動」、2022年度「ニセクロスジギンポにおける保護擬態の効果の実験的検証」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、広島大学大学院統合生命科学研究科 博士後期課程3年の佐藤 初さんからのお話をお届けします。

<佐藤さんより>
幼少期の頃から魚が好きでした。小学生の夏休みに和歌山県のタイドプールで採集した美しいチョウチョウウオの幼魚は、今でも忘れない1匹です。このような経験から、サンゴ礁のある沖縄の海には強い憧れを持ってきました。現在では、沖縄県北部の瀬底島にある琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設に滞在してサンゴ礁魚類の行動生態を研究しています。

サンゴ礁には他の魚の体表に付着した外部寄生虫を取り除くホンソメワケベラ(ベラ科)という魚がいます。そのような習性から、ホンソメワケベラは掃除魚と呼ばれ多くの魚の健康状態を改善する有益な魚として認知されています。しかし、魚の中には掃除魚のふりをして利益を得る魚もいます。私が研究しているのは、ホンソメワケベラにそっくりなニセクロスジギンポ(イソギンポ科)です。(図1)

図1.png
<図1:擬態種ニセクロスジギンポ(上)と掃除魚ホンソメワケベラ(下)>


ニセクロスジギンポは、ホンソメワケベラに似ていることで(1)油断した魚の背後から鰭をかじる“攻撃擬態”と(2)肉食魚から捕食されにくくなる“保護擬態”の両機能を得ると言われてきました。しかし、これらの仮説は驚くほどに検証されてこなかったのです。そこで、私たちの研究チーム(佐藤初・坂井陽一・桑村哲生)は、瀬底島での潜水調査や水槽実験から、この魚の擬態の機能をはじめとする基礎生態を調べてきました。今回はその成果のほんの一部を紹介させていただきます。

私の研究スタイルは、多くの方が想像する研究者像とは少し違うかもしれません。白衣の代わりにウエットスーツ、実験器具の代わりに防水デジカメと記録用の耐水紙を腰にぶら下げ、水中マスクとシュノーケルをつけて海に出ます。1匹1匹識別した個体を毎日観察して、今日は何を食べたとか今日はこんな面白い行動が見れたとかを記録していくわけです。

研究を始めると、すぐにあることに気が付きました。ニセクロスジギンポは、日中の大半を集団で生活していたのです。さらに観察を続けてみると、ニセクロスジギンポは、ロクセンスズメダイ(スズメダイ科)が岩に産みつけた卵を集団で捕食していたのです。スズメダイの親は、卵を食べられまいとニセクロスジギンポを追いかけ回します。しかし、必死の防衛も虚しく、あっという間に巣を取り囲まれ卵を食べられてしまいました。(図2)


図2.jpg
<図2:ニセクロスジギンポが集団でロクセンスズメダイの卵(紫色)を捕食する>


この光景を初めて目撃した時に、「擬態よりもこっちの方が面白い」と思いました。掃除魚のふりをして鰭をかじるのではなく、どうして集団でスズメダイの卵を食べるのだろうか?多くの図鑑には「ニセクロスジギンポは、掃除魚に擬態して主にうろこや鰭をかじる。」と書かれています。しかし、野外での実態はかなり違ったのです。そこで、私は卵食行動に注目して調査を続けてきました。すると、ニセクロスジギンポの卵食の実態が次々と分かってきました。

まず、卵食のターゲットとして狙われるのは、いずれも岩やサンゴ、海藻の表面に卵を産みつけるスズメダイ科魚類でした。スズメダイ科の大きな特徴は、自らの卵を親が保護する(多くの場合オスが子育てを担う)という性質です。卵保護行動は多くの魚類で見られる子の生存率を高める戦略ですが、この性質のおかげで、ほとんどの魚にとってご馳走とも言える栄養価値の高い卵を捕食から守っているのです。

ニセクロスジギンポの集団サイズは平均すると4〜5匹ですが、最大で15匹の集団を見たことがあります。個体は毎朝、卵食に向かいます。スズメダイの巣をいくつか偵察したのち襲撃が始まります。全体としての成功率は、例えば2019年の調査では約78%でした。しかし、成功率は狙われるターゲットの種によってばらつきがあり、20%程度の難敵もいました。ひとたび襲撃に成功すると、腹が大きく膨れるほど卵を食べることができます。

集団の効果を調べるため、ニセクロスジギンポがスズメダイの親魚から追いかけられた回数とニセクロスジギンポが巣に侵入できた回数を計測してみました。すると、集団サイズが増加すると、スズメダイの親から受ける個体あたりの攻撃回数が低下し、侵入成功回数は増加するという相関関係が明らかになりました。(図3)

図3.png
<図3:侵入成功率および被攻撃頻度の集団サイズとの関係>


これは、集団で襲撃することでスズメダイから受ける個体の攻撃リスクを低下させ(希釈効果)、侵入成功率を高めるという集団捕食による利益を示唆しています。ニセクロスジギンポたちは、いわば防衛された資源を効率良く略奪するために集団を作っていたのです。しかし、集団の利点はそれだけではありませんでした。

これは、1年で水温が最も高い9月のことでした。多くのスズメダイは、水温が高くなりすぎると一時的にメスの産卵が中断することがあります。そのような中でも熱心に産卵していたのがミツボシクロスズメダイです。ミツボシはサンゴの発達したリーフよりもやや沖の砂地に点在する小岩の表面に卵を産み付けていました。しかも、スズメダイ科の中では珍しく両親が卵を防衛しており、簡単には襲撃できない難敵です。

3匹のニセクロスジギンポは、ミツボシの巣の襲撃を試みます。しかし、両親が二重で巣を防衛しており、ミツボシの視界に入るだけで激しく追いかけ回されるので接近すら許されません。両者の激しい攻防の末、面白い瞬間が訪れます。

ニセクロスジギンポたちは、巣の近くにある岩の表面を匍匐前進して素早く接近し、窪みに身を隠しました。ミツボシに見つからないよう岩を利用したのです。さらに、3匹の中の1匹が岩の窪みから顔だけを出してミツボシの行動を監視したのです(!)。私はこの個体の役割を“Watcher(監視役)”と名付けました。残りの2匹は頭を下げて身を隠す“Hider(潜伏、隠れ役)”となりました。すると、ミツボシが“Watcher”の存在に気が付き攻撃を開始します。“Watcher”はすぐさま身をひるがえして逃避を開始すると、それに釣られたミツボシは“Watcher”を追いかけました。“Hider”たちはミツボシが通り過ぎると素早く窪みから飛び出して一瞬の隙を突き巣に突入しました。このような、やりとりを繰り返してミツボシの防御体制を崩したニセクロスジギンポたちは、3匹とも卵の捕食に成功することができました(下記のサイトから一連の行動パターンをご視聴いただけます:http://www.momo-p.com/showdetail-e.php?movieid=momo240411at02a)。

このように、ニセクロスジギンポは単に集団をつくるだけでなく、集団内の他の個体と一時的に役割を分担して協力することで様々なスズメダイの襲撃に成功するのです。卵を守りたいスズメダイと、卵を食べたいニセクロスジギンポの間で起こった軍拡競争を示唆する魅力的な例でしょう。ニセクロスジギンポは、これまで鰭をかじる“ずる賢い魚”と呼ばれてきましたが、実際には徒党を組んでスズメダイの巣を襲撃し、親に守られた卵を集団捕食する“かなり賢い集団”だったのです。

では、一体どうして擬態が維持されるのか?魚類で最も精巧と言われるほど巧妙な擬態が進化したのはなぜか?スズメダイの卵を食べるという行動が進化したのはなぜか?次から次に湧いてくる疑問や好奇心が、私の研究に対する原動力です。これからも、フィールドワークを主体としてサンゴ礁魚類の生物学を解き明かしていきたいと考えております。

最後に、これから笹川科学研究助成へ応募する方へ。

私は、笹川科学研究助成への応募を通じて自分の研究に対する理解を格段に深めることができました。また、様々な尺度で自身の研究を俯瞰することで初めて分かる「面白さ」を審査員に伝えることの大切さも学びました。選考総評に書かれている審査員の方々の丁寧なコメントは大変勉強になりました。これらの経験は、現在の自分にとって有利に働いており、結果的に応募して良かったと思っています。

笹川科学研究助成の特徴は、成果が出るのに時間がかかるフィールド研究や、陽の当たりにくい分野の研究でも正当に審査して評価していただけるという点です。実際に私が初めて採択していただいた際の申請時点における業績は学会発表1回だけでした。また、研究助成金の使い道に関しても正当な理由があれば柔軟に変更することができました。当時、とても親切に対応してくださった日本科学協会の事務局の皆様にはこの場を借りて感謝を述べたいと思います。ありがとうございました。

佐藤 初

笹川科学研究助成を受けて出版された論文
Sato H. Sakai Y. & Kuwamura T. (2021) Effects of group behavior in the predatory raid on damselfish nest by the false cleanerfish, Aspidontus taeniatus. Ethology 128: 77–84. (Ethology誌で2021年に出版された論文のうち最多ダウンロード論文として表彰)
Sato H. Sakai Y. & Kuwamura T. (2023) Cleaner fish coloration does not always reduce predation risk: testing the effect of protective mimicry in the false cleanerfish, Aspidontus taeniatus. Biological Journal of the Linnean Society, blad163.
Sato H. Sakai Y. & Kuwamura T. (2024) Temporary division of roles in group hunting for fish eggs by a coral reef fish. Journal of Ethology https://link.springer.com/article/10.1007/s10164-024-00812-w

<以上>


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:42 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介 坂田 尚子さん [2024年05月14日(Tue)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2021年度「博物館における幼児から小学生へ向けたSTEM/STEAM教育プログラム開発と実践、および実践集作成」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、静岡科学館る・く・るの坂田 尚子さんからのお話をお届けします。

<坂田さんより>
 こんにちは。私は、2016年に当時開館したばかりの静岡県立ふじのくに地球環境史ミュージアムに、自然科学教室の開催を企画・提案して認められ、以来年に8回(幼児から小学2年生対象の教室と小学3年生から6年生対象の教室を各4回)実践してきました(写真1)。一緒に活動してくれる力強い味方も現れ、STEM/STEAM教育プログラムとしてプログラム開発を数年続けたところで、開発したプログラムを形として残したり、同じような活動している方々と情報交換をしたりしたくなり、笹川科学研究助成に応募いたしました。

食虫植物1.JPG
<写真1 自然科学教室の様子>


 私たちのめざす科学教室の実践は、とかく低学年の子どもには敷居の高い博物館への入り口をなだらかにし、博物館が、自然好き・科学好きな子どもの学びの場としての位置を確立すること、博物館の持つコンセプトに興味を持もってもらえるようになることにありました。助成金により作成いたしました「科学教育プログラム実践集」と「科学教育プログラム実践集2」(写真2)は、多くの方と実践を分かち合うことができています。ありがたいことに「実践集1」のほうは、増刷が決定いたしました。

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<写真2 実践集表紙>


 助成を受けたことで、私自身の研究が、静岡だけのローカルなものでなく、広く各地の自然系博物館や社会教育施設との共同研究へと広がろうとしており、ふじのくに地球環境史ミュージアムでは、客員教授としてプログラム開発と実践を協働研究として位置付けてくださいました。今年度も、これまで通り新たなプログラムを開発しながら自然科学教室を継続できています。
 研究助成に応募することは、仕事をしながらでは時間的にも大変なこともありましたが、私の場合、思い切って応募したことで、大きなドアが開いた感じがしています。応募をお考えの方は、一度挑戦してみることをお勧めいたします。きっと、何かが変わると思います。

<以上>


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先輩研究者のご紹介 鶴田 真理子さん [2024年05月01日(Wed)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2021年度「造血幹細胞の個体発生における最も初期の前駆細胞の同定と分化シグナルの解明」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、熊本大学大学院医学教育部の鶴田 真理子さんからのお話をお届けします。

<鶴田さんより>
 2021年度笹川科学研究助成にてご支援いただきました、熊本大学大学院医学教育部の鶴田です。今回は、折角ですので研究内容について一部をご紹介させていただきます。

 皆さんは造血幹細胞をご存知でしょうか。造血幹細胞とは、赤血球や顆粒球、リンパ球といったあらゆる血液細胞を産生する役割を担う細胞です。成体では骨髄に存在する造血幹細胞ですが、その発生は胎生期に遡ります。
 マウスにおける造血幹細胞の発生は、図1のように中胚葉からはじまります。中胚葉は筋肉や骨にも分化する細胞ですが、その一部は背側大動脈の内側を裏打ちする血管内皮細胞へ分化します。さらに、内皮細胞の一部は造血性内皮細胞へと分化し、内皮細胞から造血細胞への転換を引き起こすことでプレ造血幹細胞を産生します。その後、プレ造血幹細胞は血流に乗り肝臓へ移行後、最終的に造血幹細胞へと分化します。肝臓で成熟した造血幹細胞は骨髄へ移動し、成体において維持されます。このように、造血幹細胞は個体の発生に伴って環境と前駆細胞の形態を変えながら分化する興味深い細胞です。

図1.jpeg
図1:マウスにおける造血幹細胞の発生過程


 しかし、造血幹細胞の発生については未だ不明な点も多いです。より詳しく造血幹細胞の発生を理解することは、試験管内で造血幹細胞を誘導する手掛かりとなり、再生医療に繋がる可能性を秘めています。私は特に、胎生期における造血幹細胞のもととなる造血性内皮細胞はどのような細胞なのか、造血性内皮細胞から造血幹細胞への分化はどのような因子により制御されているのか、明らかにすべく研究に取り組んでいます。
 笹川科学研究助成によりご支援いただいた研究期間では、造血性内皮細胞から造血幹細胞への分化を促す因子についてデータを得ることができました。現在、論文投稿に向けて邁進しています! また、造血性内皮細胞に関連した研究として、内皮細胞からマスト細胞への造血幹細胞に依存しない発生経路を発見するに至りました(M. Tsuruda et al., 2022, Stem Cells)。

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図2. 試験管内で内皮細胞から誘導した造血前駆細胞の様子


 笹川科学研究助成は大学院生でも申請できる数少ない助成です。私も博士課程への進学にあたって、研究費が欲しいと考え申請しました。申請当時は業績も無く、採択されるかは一か八かの挑戦でしたが、研究室の先生方にアドバイスを沢山いただきながら文章を練った記憶があります。申請書作成の過程は勉強になることばかりで、研究について向き合い、研究の新規性や独自性は何か分野外の方に文章で伝える一連の難しさを身に染みて感じる経験でした。振り返ると、申請書作成を通じ「自分の研究面白いな、もっとやりたいな」と再認識できたことは、それ以降の研究活動に邁進できている理由の1つだと思います。
 申請するか悩んでいる大学院生、やりたい研究がある大学院生は、是非申請に挑戦することをお勧めいたします!

図3_研究所前の桜の写真.jpg
図3. 研究所前の桜:今年は遅めの開花でしたが、綺麗に咲きました。


 最後に、改めまして研究のご支援いただいた日本科学協会の皆様、並びにご指導いただいた先生方に深く感謝申し上げます。今後も研究に精進いたします。

文献:Tsuruda M, Morino-Koga S, Ogawa M, “Hematopoietic Stem Cell-Independent Differentiation of Mast Cells From Mouse Intraembryonic VE-Cadherin+ Cells” Stem Cells, Volume 40, Issue 3, March 2022, Pages 332–345,
https://doi.org/10.1093/stmcls/sxac001

<以上>


 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 11:27 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)