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先輩研究者のご紹介(小林 慧人さん) [2020年01月27日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2018年度に「地上部と地下部の生態を統合した竹林拡大のメカニズム解明」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、京都大学大学院農学研究科所属の、小林 慧人さんから研究内容について、コメントを頂きました。

<小林さんより>
 私はフィールドワークを通してタケ(以下、竹)の生態を理解したいと思い、博士課程で研究を進めています。

◆竹と人
 竹は、イネ科タケ亜科に属する常緑性の多年生草本のことをいいます。古くから人々の食糧や生活資材など日常生活に欠かせない植物として人里近くに植栽され、維持管理されてきました。しかし、近年のライフスタイルの変化にともない、日常生活の中で竹を利用する頻度が激減し、各地で管理されなくなった竹林が目立ってきています。
 その代表格が、背丈が10−20m超と大型なモウソウチクPhyllostachys edulisという種類です。食用筍などの目的で江戸時代に中国より導入され、当時の食糧事情もあってか爆発的に日本各地へ株分けされたと知られています。

竹林.jpg

◆助成金をいただいて行なった研究
 私は地上部と地下部の両面からモウソウチクの旺盛な栄養繁殖の成長戦略を理解することを目指し、調査を行なっています。地下部の調査においては、一度掘り起こされたことのある場所(兵庫県淡路市)で、エアースコップという道具を用いて、地下50pまで再び掘り起こし、地下茎や根を露出させました(下写真)。そして、年間あたりに地下茎がどの程度生産されているか推定値を得るという研究を行ないました。

エアースコップ掘り起し作業.jpg

 また、地上部の調査も継続的に行ないました。地上部の成長様式に関して調査していたところ、新しい竹(地上部の稈)をほとんど作ることができていない衰退傾向にある竹林(京都府井手町)もあることにたまたま気づきました。

イノシシ.jpg

 カメラトラップを用いてモニタリング調査を行なったところ、私の調査地では、イノシシらによって地中にある小さな筍がたびたび食べられており(上写真)、それが原因で新しい竹がでてこないということもわかってきました。

◆ホットな話題
 竹は数十年以上もの間、旺盛に栄養繁殖を行ないますが、稀に一斉に開花し、その後枯れることが知られています。竹の花序はとても地味(下写真は左がクロチク、右がモウソウチク)なのですが、この現象は種類によっては1世紀に1度しか訪れないという非常に珍しい現象であり、「なぜ開花周期はそれほどに長いのか?」や「なぜ同調して咲くのか?」など、不思議で謎な点が多くあり、私にとって非常に魅力的な現象です。

竹の花序.jpg

 私は、竹の開花現象について、納得・理解できることを一つでも増やしていきたいと思っています。明治期以来、約1世紀ぶりに日本各地で開花期に入ったと考えられているハチクPhyllostachys nigra var. henonisについては、まさに今が勝負の時のようですので、研究の主なターゲットとし、日本各地で調査を行なっています。

開花後の様相.jpg

 まずは各地で開花情報を集めようと、上の写真(滋賀県大津市)のような開花真っ盛りの林分を探し回っています。これまでに国内において500を超える林分を目にしてきました。竹研究関係者とともに情報を集める体制を作り(竹林景観ネットワーク:http://balanet.bambusaceae.net/タケ類の開花情報/ )、また、生き物コレクションアプリ「バイオーム」を用いて一般市民の方にも情報収集をお願いするということにもチャレンジしています。
https://www.sankei.com/economy/news/190614/prl1906140393-n1.html

 開花の見られる季節は主に晩春から初夏ですので、2020年のこれから来る時期に竹林に目を向けていただけば、1世紀に一度という貴重なハチクの開花現象を目にすることができるかもしれません。

◆最後に
 今振り返ると、研究資金源のなかった博士課程1年(当時)の私にとって、いただいた助成金は、自身の研究を前進させる大きな助けとなりました。大変感謝しております。2018年度の研究助成によって得たものを生かしつつ、これからもフィールドワークを大切に、魅力的な竹にフォーカスをあてた研究に邁進できればと思っております。
*文中の写真や画像はすべて筆者自身により取得されたものです。
<以上>

 イノシシが竹の生育に関わっていたということに、自然界の厳しさを感じました。予想外の出来事であったかとは思いますが、フィールドワークを大切にし、現地へ足を運んだことによって判明したことかと思います。竹の花だけでなく研究も花開くよう、陰ながら応援させていただきたいと思います。
 
 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:32 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0)
先輩研究者のご紹介(横田 信英さん) [2020年01月20日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2018年度に「スピン制御面発光半導体レーザを用いた位相変調信号発生光源の研究」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東北大学電気通信研究所所属の、横田 信英さんから助成時の研究について、コメントを頂きました。

<横田さんより>
 私は電子のスピン自由度を活用する特殊な半導体レーザについて研究しております。半導体レーザはレーザ光源の中でも小型・省電力・低コストといった長所があり、パソコンのマウスやプリンタ、光通信・計測などに広く応用されております。通常の半導体レーザでは注入する電子の密度は制御しますが、電子のスピン(上向きor下向き)は全く制御しないのでランダムになっています。
 助成時の研究では、このスピン自由度を積極的に取り入れた図1の半導体レーザ構造を提案し、その動作特性を光学的スピン制御技術によって調べました。通常の電子密度変調とスピン密度変調(上向きスピンと下向きスピンの密度差の変調)の特性を比較すると、図2に示すように、スピン密度変調ではスピン物性などによって決まる高い周波数上限まで変調感度が維持されることがわかりました。これは光通信の高速化において非常に重要な特性です。現在はスピン自由度を活用した偏光や位相の制御法なども含め、より深く研究を進めております。

図1.jpg
図1 スピン制御半導体レーザの概念図

図2.jpg
図2 変調特性の比較

当初は本研究に関する実績が乏しかったにもかかわらず、日本科学協会 笹川科学研究助成から快くご支援頂き、重要な研究成果を得ることができました。この場を借りて御礼申し上げます。
<以上>


 私が勉強していた頃には、電子のスピンという概念はあったかと思いますが、コントロールして何かの役に立てるといったことはできていなかったため、科学の進歩を感じました。これからも独創的な研究を続け、頑張っていただきたいと思います。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:16 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0)
先輩研究者のご紹介(高松 美紀さん) [2020年01月06日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2018年度に「探究的な学習における国際バカロレア導入の効果と検証」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東京都立国際高校所属の、高松 美紀さんから助成時とその後の研究について、コメントを頂きました。

<高松さんより>
 研究課題の「探究的な学習」は、新学習指導要領でより重視される傾向にあり、実践上の課題や改善の方策を具体的に検討することが必要です。国際バカロレア(International Baccalaureate、以下「IB」)は、グローバル教育や汎用的能力修得のモデルとして期待されていますが、「探究」が全てのプログラムの中心に据えられています。
 本稿では、IBにおける探究的な学習の検討から、課題研究と探究的な学習を支える学校図書館に焦点を当てて、そこから得られる示唆について報告いたします。

 IBにおける探究的な学習について、PYP(Primary Year Programme)の手引きからは、構成主義的なアプローチ、学習者の知識と体験の関連、疑問からの問題設定と解決方法の吟味、主体的な学習や振り返り、概念的な捉え方の重視などの特徴がうかがえます(注1)。この特徴は、MYP(Middle Year Programme)や、DP(Diploma Programme)などすべてのプログラムにおける学習活動に共通し、カリキュラムや教育方法に反映されています。また各プログラムではプロジェクト型の学習(図1)が設置されており、生徒が既習事項を統合してより創造的に探究的な学習を行い、学習スキル(注2)を磨くことを促します。

図1.jpg
図1 各プログラムのプロジェクト型の学習
国際バカロレア機構(2016)「中等教育プログラム(MYP)プロジェクトガイド」p6

 こうしたプロジェクト型の学習自体は、日本でこれまでも課題研究や総合的な学習の時間を中心に実践され、現在は増加傾向にあります。しかし、学習を通してどのようなスキルをどの程度身につけさせるのか、十分に検討されない傾向があったと考えます。例えば、探究的な学習について、学習指導要領では図2のようなモデルが示されてきました。

図2.jpg
図2「探究的な学習における生徒の学習の姿」
文部科学省(2010)『今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(中学校編)』
教育図書 p17


 このモデル自体を否定するものではありませんが、課題設定や研究方法をどのように吟味するのか、リサーチスキルや分析方法をどう指導し、評価するのか等は十分に示されていません。具体的な指導方法は各学校や担当者に任される傾向があります。高校を対象にした課題研究の調査の過程では、校内組織の課題や効果的な指導法に関する研修が十分に得られないこと、教科指導との関連の不十分さなどから、学習成果が十分に得られない場合があることが明らかになりました。クールソー(C.Kuhlthau 2013)は、「伝統的なリサーチの課題」について、「テーマや問いが予め与えられている」「事実を知ることを重視する」こと等を挙げていますが、これは課題研究の課題とも共通します。資料を「調べて」「まとめる」ことに終始する学習や、形式を整える指導だけでは、自ら思考して判断するスキルの獲得や、大学に接続する学びにはつながりません。
 一方IBのプロジェクト型の学習は、獲得するスキルがより具体的に示され、振り返りが重視されます。例えば、下の図3に示したMYPの目標には、「リサーチスキル、自己管理スキル、コミュニケーションスキルと社会的スキル、思考スキル」が明確に示されています。

図3.jpg
図3 MYP「プロジェクト目標の可視化」
国際バカロレア機構(2016)「プロジェクトガイド」p11

 さらにDPでは、課題論文がディプロマ(大学入学資格)取得の要件として課されており、課題研究で身につけるスキルと世界共通の評価規準(表1)が明確に示されます。評価規準には、課題設定の的確さや研究方法の妥当性、二次資料の批判的な吟味、振り返りも含まれています。生徒は教科の授業を通して、問いの立て方や分析や考察の仕方を身につけますが、課題論文ではそれらを統合し、より自立的な研究のスキルと学術論文の書き方、アカデミック・オネスティ(学問的誠実性)のスキルの意識を身につけます。

表1.jpg
表1 DPにおける課題論文の評価規準の概要 
国際バカロレア機構(2017)「「課題論文」(EE)指導の手引き」p11より

 このようにIBの課題論文では、これまで課題研究で必ずしも十分に取り組まれていなかった思考スキルやコミュニケーション(表現)スキル、研究スキルを明確に求めるカリキュラムと評価のシステムがあります。課題論文作成の過程で得たスキルは高等教育や社会で直接的に活用されるものであり、プロジェクト型の学習や課題研究の参考になると考えます。またIBでは、学校や指導教官がすべきこととしてはいけない範囲についても明確に示しており、校内の指導体制の参考にもなると考えます。

 さらに、IBの探究的な学習において、学校図書館が非常に重要な役割を担うことについて触れたいと思います。IBが示す公式文書(注3)や欧州と豪州を中心にしたIB校の学校図書館の調査(注4)の結果から、本稿では以下特徴を三点を指摘します。
 まず、図書館の施設と蔵書です。IBは世界140カ国以上の国や地域、学校の実態に合わせるため、施設や蔵書について具体的な規準は設けていません。しかし、調査対象校の多くは、パソコン使用スペースや、議論や指導が出来る学習室、プレゼンテーションができる多目的スペースを併設し、探究学習に適した環境を提供しています。図書館は、静かに読書や学習をする空間も保証されていますが、よりアクティブに学ぶ場として機能しています。また、発達段階に応じて図書館内が探究を促進するようにレイアウトされ、視覚教材や体験教材が設置されています。蔵書は紙媒体だけでなく、e-bookもかなり普及しており、PYPやMYPでは探究やプロジェクトに対応した教材が意識的に収集されています。また、多言語主義、多文化理解を意識した選書がされています。
 次に、インターネットからアクセスできるデータベース(注5)や学習コンテンツの充実です。IBではICT環境の充実が必須であり、生徒は学校図書館のサイトから、学習コンテンツや必要なデータベースに容易にアクセスできます。学習コンテンツは、視覚教材を含めたリソースや基本的な論文など、授業担当者とライブラリアンが授業ごとにデザインします。また、アカデミックスキルとして不可欠な、サイテーションスタイルを自動で管理・変換するソフトも日常的に利用しています。こうしたリソースへのアクセスの容易さが、学習への取り組みを促し、学習の深化や質の高いレポートや論文作成に有効であることは言うまでもありません。学校図書館は、まさに学習の心臓として機能し、生徒が自宅や様々な場所で自律的な学習を行うことを可能にしています。
 最後に、ライブラリアンの役割です。ライブラリアンの資格や業務内容は各国や学校で異なりますが、司書教諭に相当するライブラリアンは、初等・中等プログラムではリサーチスキルやアカデミック・オネスティの指導を直接受け持ち、ディプロマプログラムでは課題論文のコーディネーターを担当する等、重要な役割を担っています。IBのライブラリアンは、リソースの管理や環境整備、読書指導だけでなく、インフォメーション・リテラシーとリサーチスキル指導の専門家として教師と生徒をサポートし、学校全体の探究的な学習を発展させるための中心的な役割を果たしています。

図5.jpg

写真左:「インフォメーションリテラシー」、写真右:「リサーチスキルの振り返り」
(ともにCanberra Grammar School PYPライブラリアンのリサーチスキルの授業より)

 このように、IBにおいて学校図書館は、単に蔵書を管理し、レファレンスサービスを提供する施設ではなく、より有機的に結びついた学びのシステムでハブのような機能をもち、ライブラリアンは学校全体の学びをデザインし、活性化する役割にあります。
 日本においては、学校図書館が学習センター・情報センターの役割を担うといわれてから久しいですが、なかなか進まないのが現状です。常勤の学校司書配置率は低く(注6)、データベースシステムの立ち遅れも憂慮されます。もちろんすべてのIB校で図書館が上に述べたような理想的な状況ではなく、教科教員との協力などの課題が報告されています(Tilke 2011)。しかし、IBの理想とする学校図書館や学びのシステムのあり方は、21世紀型の学習の方向を具体的に示しています。日本の学校図書館の再検討は喫緊の課題であり、こうしたIBの示す方向性が参考になると考えます。

 以上、課題研究と学校図書館に焦点を当てて、IBの探究的な学習の検討からの示唆について報告しました。研究については課題もまだ多く、教科における探究や教科間連携による探究的な学習についても、別の機会にご報告できれば幸いです。

【注】


















国際バカロレア(2016)「PYPのつくり方」参考。
ATL(Approuach to Teaching and Learning:指導の方法と学習の方法)の「学習の方法」に具体的なスキルが示されているので参考にされたい。
国際バカロレア機構(2014)「プログラムの基準と実践要綱」、International Baccalaureate Organization (2018) Ideal libraries: A guide for schoolsなど。
International School of Amsterdam、The American School of The Hague、Oakham School、Marymount International School、ACS Egham、Carey Baptist Grammar School、Kambala School、Narrabundah College、Canberra Grammar School、Western Academy of Beijingを参考とした。(調査の一部は2018年度笹川科学研究助成による)
例えば、ディプロマプログラムでは、QuestiaやProQuest、Britanica等の学術論文や資料を閲覧するデータベース(以上はすべて英語)などがよく使われている。
文部科学省の「平成28年度『学校図書館の現状に関する調査』結果」によれば、学校司書を配置している学校の割合は,小・中・高等学校でそれぞれ59.2%、58.2%、66.6%であり、そのうち常勤職員の割合はそれぞれ12.4%、 58.2%、16.7%である。

【引用文献】
国際バカロレア機構(2016)「PYPのつくり方:初等教育のための国際教育カリキュラムの枠組み」.
国際バカロレア機構(2016)「中等教育プログラム(MYP)プロジェクトガイド」.
国際バカロレア機構(2017)「課題論文(EE):指導の手引き」.
中央教育審議会(2016)「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の 学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(平成28年12月21日)」文部科学省.
文部科学省(2010)『今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(中学校編)』教育図書.
文部科学省ホームページ(2016)「平成28年度「学校図書館の現状に関する調査」の結果について」.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1378073.htm(2019年9月30日最終閲覧).
Carol Collier Kuhlthau(2013)Inquiry Inspires Original Research, School Library Monthly, Vol. 30 (2), 5-8.
<以上>

 インターネットなどが発達したことで、探究的な学習は容易になったように思われますが、問題を自ら設定し、情報を活用して解決する、思考力やリサーチスキルがより重要であり、そのためにも学校図書館の改革が求められていると思いました。笹川科学研究助成によって支援された若手研究者達の成果が、更に若手の研究者へ「学習方法の指導」という形で支援として繋がっていき、科学の発展に繋がればうれしく思います。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:15 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0)