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先輩研究者のご紹介(濱崎 佐和子さん) [2019年12月23日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。本日は、2018年度に「血液脳関門の透過性を生理的に亢進する外的刺激の探索とその調節機序の解明」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、鳥取大学大学院医学系研究科所属の、濱崎 佐和子さんから研究について、コメントを頂きました。

<濱崎さんより>
 血液脳関門とは、簡単にいうと、血管内の物質が脳内に入るのを防ぐ仕組みのことです。大部分の脳領域にはこの仕組みがあり、これにより私たちの脳は守られています。私は現在、記憶や学習を司る海馬という脳領域を対象に研究をしています。これまで海馬は、血液脳関門があるために血管内の物質が作用することはないと考えられてきました。しかし私は、血中由来物質が海馬ニューロンに取り込まれることを発見しました。その侵入経路は不明ですが、血管内のものが海馬に到達し得ることを示す重要な知見です。これまで体循環とは隔絶して考えられてきた脳(海馬)の機能解明に一石を投じることになると信じて研究に励んでいます。
 「血液脳関門がある海馬に血中物質が作用することはない」とするこれまでの概念を覆すような研究であり、この成果を得るまでに多大な時間を費やしました。そのため業績が未だ少なく研究助成金を得ることは難しかったのですが、昨年度笹川科学研究助成を受けることができ、それは私にとって大きな励みとなりました。得られた成果は複数の学会で発表し、現在論文投稿中です。今後、どうやって血中物質が海馬ニューロンに到達するのか、またそれは外的刺激の影響を受けるのか、そのメカニズムや生理的意義の解明に向けてより一層研究に精進します。

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写真1: Society for Neuroscience 2018 in San Diego 宿泊ホテルからの眺め

 私が所属している解剖学講座は、常時研究をしている大学院生は私だけです。自由にのびのびと研究をさせてもらっています。医学部の基礎系(≠臨床系)研究室であり、理学部や農学部のようないわゆる“理系研究室”とは少し雰囲気が異なるかもしれません。自分の研究活動だけでなく、臨床の先生方(医師)との共同研究や医学系の実習に携わることができます。そのような経験を通して、マクロからミクロまで幅広い視野を持つ研究者を目指しています。どんなことが自分の研究の発展に繋がるか予測できないので様々なことに興味を持ち、日々楽しんでいたいです。

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写真2: 当講座実験室の一区画

 今の研究活動は多くの方の支えにより成り立っています。最後になりましたが、日本科学協会の皆様ならびに、日々サポートしてくださる研究室の先生方に深く御礼申し上げます。
<以上>

 笹川科学研究助成は、独創性・萌芽性をもつ研究に対しての助成を目標としているため、このような研究のお役に立てたことをうれしく思います。常識に一石を投じられるような成果が出せるよう、これからも頑張っていただきたいと思います。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 13:33 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0)
先輩研究者のご紹介(井上 治代さん) [2019年12月09日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。

 本日は、2018年度に「「無縁死」が問題視される現代社会における葬儀や死後事務等を第三者に託す「葬送の社会化」に関する研究」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、認定NPO法人エンディングセンター所属の井上 治代さんから、助成時の研究についてコメントを頂きました。


<井上さんより>
 2010年にNHK放送によって「無縁社会」の語とその実態がセンセーショナルに報道された。つづく2011年の東日本大震災では日本人の死生観が深まり、2010年に新語・流行語大賞にノミネートされた「終活」の語は、2012年には同大賞でトップテン入りをした。

 つまり自分の死後のことは自身で準備しておこうという動きである。だが葬送の大原則は「自分の死後のことは自分ではできない」「遺骨は自分で歩いてお墓に入れない」のである。つまり自身の死後のことを託す者がいない人はどうするのか、といった問題が浮上した。

 これまで福祉も法律も死者を対象とせず、わずかにあるのは「生活保護法」による葬祭費の給付と、「行旅病人及行旅死亡人取扱法」による措置である。ところが現在増えているのは、葬祭費もあり身元もはっきりしているが、死後のことを託す者がいないケースであって、先の2つの法律の範疇を超えた、既存の法律が想定していない事態が進んでいるのである。

 尊厳ある死と葬送の実現をめざして活動する認定NPO法人エンディングセンター(以下、エンディングセンターと略す)は、前身の「21世紀の結縁と墓を考える会」(1990年発足)の時から「無縁社会」を想定していた。

 夫婦一代限りの不連続な核家族が主流になりさらに個人化が進む社会で、連続性をその特徴にもつ「家」的性格を顕著に残した墓の継承制に制度疲労が起こっていたからだ。

 そこで継承制をとらない非継承墓の必要性を説くと同時に、家族機能が希薄化した社会で葬儀・死後事務等の担い手を確保できない人々の増加に伴い、葬送の社会化の構築を訴えてきた。

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写真1 認定NPO法人エンディングセンター


 2000年に「エンディングセンター」と改名し「考える会」から「実践する会」へと移行、喪主を確保できない人々のために「死後サポート」を開始した。

 そして2005年東京町田市に、2012には大阪・高槻市に、継承を前提としない樹木葬墓地「桜葬」(墓標を桜とする)を開設した。

 2007年にNPO法人の認証を受け、2014年には「認定」NPO法人となり、現在、会員数は約3,700名である。

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写真2 樹木葬墓地「桜葬」


 昨年、笹川科学研究助成を得て、自身の葬儀や死後事務等を、生前の委任契約によってエンディングセンターに託した人々を対象に調査を行った。

 その一部を紹介すると、「子どもがいない、頼れない」というケースでは、親族といえば両親や自分と同世代の兄弟姉妹となり、【高齢】で頼れない。「兄弟姉妹とも不仲ではないものの、面倒なことを頼みたくないという関係であった。

 ましてや甥姪に至っては言うに及ばず」とか「兄弟は同じく年をとっていく。その子どもたちとは全く付き合いもないので【迷惑をかけたくない】」というように、兄弟姉妹は同世代の高齢者で、その子ども(甥や姪)となると【没交渉】となっている。もし死後のことを頼むと【迷惑】がかかると感じている。

 「私は、子は持たなかった。子の代わりの装置(しくみ)としてのエンディングセンターという存在。そしてそのありがたさ」という記述があるように、親族の数の現象と関係性の希薄化によって【葬送の社会化】が求められていることがわかる。

 あらゆる動物の中で、人間だけが遺体を葬るという行為を行うという。そうであるならば「埋葬」までが人間の尊厳、福祉の対象となるべきだろう。
<以上>


 笹川科学研究助成では実践研究部門として、現場の第一線で直面する問題を解決しようとする、教員やNPO職員の方、博物館の学芸員の方を対象に助成を行っております。

 今回は「死」という扱うことが難しいですが、誰もが関係する問題について研究をされたそうです。

 核家族という家族の形が増えることで、葬儀のあり方等についても考え方が変化し、どのように葬儀を変化させていけばいいか、より良い解決方法が見つかるよう頑張っていただきたいと思います。


 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 13:54 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0)
先輩研究者のご紹介(米田 大樹さん) [2019年12月02日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2018年度に「弾性体折り紙:紙ばねの変形と力学特性の解明」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、立命館大学大学院理工学研究科所属の、米田 大樹さんから研究についての、コメントを頂きました。

<米田さんより>
 折り紙は日本の伝統芸術であり、昔から親しまれてきた遊戯ですが、近年その構造が学術的に注目を集めています。シート状の巨大な構造を小さく折り畳んで収納することが可能で、かつ可逆的に再度展開ができるからです。特に、固いパネルと可動折り目で構成された剛体折り構造は、例えば人工衛星のソーラーパネルに折り紙構造を持たせて打ち上げロケットに格納したり、人体の中でマイクロロボットを立体的に立ち上げたりと、有名な工学応用が数多くあります。

 一方で柔らかいパネルで構成され、バネのような復元力をもつ「弾性体折り」という折り畳み構造も存在します。例えば、テントウムシのような昆虫は薄い羽を背中で折り畳んでいますが、飛翔時にはこの羽を一瞬でバネのようにパッと展開できます。これは、折り畳むときに羽を少し曲げて弾性エネルギーを溜めて、展開時に一気に開放する弾性体折りだからです。剛体折り構造であれば、外力なしにこのような瞬発的な駆動は難しいので、弾性体折りの折り畳みは様々な応用が期待されています。しかし、3次元幾何変形と併せて面内応力も考慮しなければならず、まだまだ定量的な理解が進んでいない現状があります。私たちは弾性体折りの特有の機能がどのように創発するのか、いくつか基本的な構造から研究を進めています。

図1.jpg

 まず注目した構造が紙ばね(図1)という、2本のじゃばらを組合せただけのシンプルな弾性体折り紙構造でした。研究を始めたころ、私たちは理論系物理学の研究室であったので理論構築や数値計算は強みでしたが、実験による紙ばねの力学・幾何形状測定には苦戦していました。ペットボトルと質量計を組合せたなんとも手作り感満載な測定装置(図2)を組むなどしていましたが、折り紙の形状複雑で、紙の弾性力は微小なので、より精度の良い計測機器が新たに必要でした。助成金は主にこれら計測機器に使わせていただきました。これによって得た研究成果はアメリカ物理学会の学術誌 Physical Review Eの第100巻に掲載され、Editors' Suggestion にも選出されました(図3)。

図2、3.jpg 

 この研究に続いて、研究室では最近弾性薄膜構造のかたちと機能に関する議論が活発になっています。現在では、「曲るストローはどういったかたちが曲るのか?」(図4)、「折り切り紙の持つ多重安定性」、「摩擦と弾性の競合を考慮するシェルのスナップフ ィット構造」(図5)などをテーマにして、幾何理論と力学測定の両面から、折り紙に限らず弾性薄膜構造のもつ機能について詳しく調べています。

図4、5.jpg

<以上>

 子供の頃、誰もが遊んだことのある折り紙ですが、まだまだ分からないことが多くあることに驚きました。新しい分野であるため測定装置が無く、手作りで装置を作成されるなど様々な苦労があったかと思います。笹川科学研究助成は、その装置作成に役に立つことができたようで、嬉しく思います。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 10:13 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0)