先輩研究者のご紹介(杉山 由里子さん)
[2019年08月19日(Mon)]
こんにちは。科学振興チームの豊田です。
本日は、2018年度に「狩猟採集民ブッシュマンの再定住に伴う葬儀の変容と社会再編に関する研究」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科所属の、杉山 由里子さんから研究について、コメントを頂きました。
<杉山さんより>
私は南アフリカのすぐ北に位置する、ボツワナという国で調査をしています。写真はボツワナの首都ハボロネのショッピングモールです。首都ハボロネは、おしゃれなカフェがたくさんあり、また人々はとてものんびりと生活していて、皆さんがイメージするアフリカとは少し異なるかもしれません。ボツワナは政府がダイヤモンドで得た利益を国の発展のために使い、アフリカの奇跡と言われています。
一方、私が調査しているブッシュマンというボツワナの先住民族は、スーパーや水道・電気のない村に住んでいます。首都ハボロネとは全くの別世界です。そこでの生活は「不便」とも言えますし、同時に「豊かな自然の中で人々が豊かに生活している」とも言えます。
少数民であり先住民でもあるブッシュマンの生活は、伝統的な狩猟採集を営みながらの遊動生活から、定住・集住生活へと大きく変化してきました。マジョリティであるツワナと呼ばれる民族が主導する政府によって、対ブッシュマン政策が行われてきたからです。定住化政策が何度も実行され、多くのブッシュマンが従来の生活域を追われ、なじみのない土地での新たな生活を余儀なくさせられました。写真3はボツワナの人口密度を表しています。カラハリ砂漠にポツンとある場所が、定住化政策によってつくられたブッシュマンの村であり私の調査地のニュー・カデです。
私はこれまで、ブッシュマンが新しい環境下でどのように死と対峙しているのかという疑問から、彼らの葬儀をテーマに調査してきました。商品経済が浸透し、またツワナ式の新しい葬儀の導入によって、遊動時代に見られたシンプルな埋葬は姿を消し、人々は葬儀の食事、種類の多様化する棺や墓にお金をかけるようになりました。葬儀を通して死者とその家族の財力の多寡が可視化されるにもかかわらず、「平等主義的」と特徴づけられてきたブッシュマンはこうした変化を積極的に受け入れています。
不平等を避けてきた彼らですが、近年の露骨な経済格差を前に、物持ちの生き方を否定的に捉えるのでなく、それこそが再定住地でのあるべき姿だという新しい価値観が葬儀の場で共有されつつある、と調査を通して感じました。
少数民族や先住民族の人権保護と、近代化を進めたい国民国家との狭間で見過ごされつつある、ブッシュマンが外生的な変動に対応しながら営んでいる日常生活を捉え、その力強さや柔軟性にこれからも注目していきたいと思います。
その地域の方々の日常生活や思想などを研究するには、現地の方々と同じように生活することが大事であると伺います。その結果、葬儀といった繊細なテーマを取り扱えたのかと思います。また、写真2のようにテントを張って長期間研究をされていたというのも驚きです。フィールドワークを行う研究は毎年何件か採択されておりますが、研究者の生活については、報告書に記載されていることがほとんど無いため、個人的には貴重な写真でした。様々な研究方法があるかと思いますが、安全にも気を付けて、頑張っていただきたいと思います。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2018年度に「狩猟採集民ブッシュマンの再定住に伴う葬儀の変容と社会再編に関する研究」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科所属の、杉山 由里子さんから研究について、コメントを頂きました。
<杉山さんより>
私は南アフリカのすぐ北に位置する、ボツワナという国で調査をしています。写真はボツワナの首都ハボロネのショッピングモールです。首都ハボロネは、おしゃれなカフェがたくさんあり、また人々はとてものんびりと生活していて、皆さんがイメージするアフリカとは少し異なるかもしれません。ボツワナは政府がダイヤモンドで得た利益を国の発展のために使い、アフリカの奇跡と言われています。
一方、私が調査しているブッシュマンというボツワナの先住民族は、スーパーや水道・電気のない村に住んでいます。首都ハボロネとは全くの別世界です。そこでの生活は「不便」とも言えますし、同時に「豊かな自然の中で人々が豊かに生活している」とも言えます。
少数民であり先住民でもあるブッシュマンの生活は、伝統的な狩猟採集を営みながらの遊動生活から、定住・集住生活へと大きく変化してきました。マジョリティであるツワナと呼ばれる民族が主導する政府によって、対ブッシュマン政策が行われてきたからです。定住化政策が何度も実行され、多くのブッシュマンが従来の生活域を追われ、なじみのない土地での新たな生活を余儀なくさせられました。写真3はボツワナの人口密度を表しています。カラハリ砂漠にポツンとある場所が、定住化政策によってつくられたブッシュマンの村であり私の調査地のニュー・カデです。
私はこれまで、ブッシュマンが新しい環境下でどのように死と対峙しているのかという疑問から、彼らの葬儀をテーマに調査してきました。商品経済が浸透し、またツワナ式の新しい葬儀の導入によって、遊動時代に見られたシンプルな埋葬は姿を消し、人々は葬儀の食事、種類の多様化する棺や墓にお金をかけるようになりました。葬儀を通して死者とその家族の財力の多寡が可視化されるにもかかわらず、「平等主義的」と特徴づけられてきたブッシュマンはこうした変化を積極的に受け入れています。
不平等を避けてきた彼らですが、近年の露骨な経済格差を前に、物持ちの生き方を否定的に捉えるのでなく、それこそが再定住地でのあるべき姿だという新しい価値観が葬儀の場で共有されつつある、と調査を通して感じました。
少数民族や先住民族の人権保護と、近代化を進めたい国民国家との狭間で見過ごされつつある、ブッシュマンが外生的な変動に対応しながら営んでいる日常生活を捉え、その力強さや柔軟性にこれからも注目していきたいと思います。
<以上>
その地域の方々の日常生活や思想などを研究するには、現地の方々と同じように生活することが大事であると伺います。その結果、葬儀といった繊細なテーマを取り扱えたのかと思います。また、写真2のようにテントを張って長期間研究をされていたというのも驚きです。フィールドワークを行う研究は毎年何件か採択されておりますが、研究者の生活については、報告書に記載されていることがほとんど無いため、個人的には貴重な写真でした。様々な研究方法があるかと思いますが、安全にも気を付けて、頑張っていただきたいと思います。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。