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先輩研究者のご紹介 池下 雅広さん [2025年11月04日(Tue)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2023年度「円偏光燐光を示す常温液体キラル白金錯体の創成」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、日本大学生産工学部応用分子化学科の池下 雅広さんからのお話をお届けします。

<池下さんより>
 2023年度笹川科学研究助成でご支援いただきました、日本大学の池下 雅広です。このたびは、執筆の機会をいただき、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。今回は、本助成を通じて得た経験を共有し、今後申請を検討されている方々の一助となれば幸いです。
 まず、今回の助成対象となった研究内容について簡単にご紹介いたします。私たちの身のまわりには、ディスプレイや照明、センサーなど、光を操る技術が数多く用いられています。なかでも近年注目されているのが、「円偏光」と呼ばれる、回転を伴って振動する特殊な光です。私たちの目は光の波長から色を認識していますが、円偏光では同じ色の光の中に「右回転」と「左回転」という二種類の情報を組み込むことができます。この円偏光を自在に生み出すことができる発光材料は、3次元ディスプレイや、特定のフィルターを通すと文字や模様が浮かび上がるセキュリティー材料など、次世代の光学技術に直結する研究テーマです。
 私は現所属で一貫して円偏光を発する「円偏光発光性分子」の開発に取り組んできました。特にただ発光するだけでなく、学術的に"おもしろい"と思えるような機能を見出すことを目指して研究を進めています。今回の助成では、その中でも「常温液体円偏光発光材料」の開発に挑戦しました。ここでいう「常温液体」とは、水などの液体状の媒体に溶かしたいわゆる溶液ではなく、発光する物質そのものが液体である状態を指します。発光材料をディスプレイなどに応用する際には、通常、固体の発光物質を溶媒に溶かしてから薄膜に加工する必要があります。一方で、材料そのものが液体であれば、塗布して形を整えるだけでよく、加工の簡便化やデバイス設計の自由度が大きく向上します。
 これまで報告されている円偏光発光物質のほとんどは固体であり、これは分子に機能を持たせようとすると構造が大きく・硬くなり、結果として融点が高くなるためです。そこで本研究では、発光性分子に柔らかい構造要素を導入し、融点を室温以下まで下げるという設計指針を提案しました。助成の申請にあたっては、事前検討によりこの設計方針の妥当性を実験的に示していたことが、研究の実現可能性の面で評価していただけたのではないかと考えています。様々な分子設計を検討しましたが、最終的に図1に示したような物質で当初の目標を達成することができ、成果を学術論文として発表することができました。本論文はオープンアクセスにしており、誰でも無料で閲覧することができるので、ご興味ある方はぜひご一読いただけると嬉しいです(URL: https://doi.org/10.1246/cl.230177)。また、合成検討を進める中で分子設計の幅が広がり、本成果を端緒として複数の関連論文を発表するに至りました。

図1.png
図1 本助成を受けて開発した液状化円偏光発光材料。
筆者の現所属組織である日本大学のロゴマーク「エヌドット」をかたどっている


 私は博士の学位取得後、2021年に日本大学生産工学部に助手として着任しました。2007年の学校教育法改正以降、「助手」という職位は比較的珍しいのですが、学務の負担が少なく、自身の研究基盤を整えるには非常に良い期間だったと感じています。一方で、民間財団の助成金の中には応募資格を「助教相当以上」としているものもあり、職名に多少なりとも不自由さを感じる面もありました。そうした中、笹川科学研究助成は学生から若手教員まで幅広く応募できる制度であり、当時まだ研究成果が十分でなかった私にもチャンスがあると考え、申請を決意しました(助成を受けた2023年度に助教に昇格しましたが、申請当時は“助手”でした)。本助成を受けた1年間は、着任3年目という節目で、研究成果の発信が求められる非常に重要な時期でした。そのなかで、試薬などの購入費を気にせず研究に集中できたことは、若手研究者として大変ありがたい経験でした。また、着任当初10名(教員2名、学部学生8名)だった研究室は、今年度(2025年度)には22名(教員2名、大学院生9名、学部学生11名)にまで成長し、研究室全体に活気が生まれています(図2)。この発展も、本助成を通じて研究の基盤を築けたことが大きく寄与していると感じています。現在、助成金への申請を迷っている方がいらっしゃいましたら、ぜひ積極的に挑戦してみてください。実績の有無にかかわらず、研究に真摯に取り組む姿勢を評価してくださる制度だと思います。

図2.png
図2 2025年度研究室メンバーの集合写真。筆者は写真左下。


 最後になりますが、キャリア形成の基盤を築く貴重な機会を与えてくださった日本科学協会の皆様に、心より御礼申し上げます。本助成を通じて芽生えた研究の種を、今後しっかりと花開かせられるよう、これからも全力で研究に取り組んでまいります!

笹川科学研究助成を受けて出版された論文

M. Ikeshita, T. Oka, M. Kitahara, S. Suzuki, Y. Imai, T. Tsuno “Circularly Polarized Luminescence of Chiral Schiff-base Boron Difluoride Complexes Liquefied with Polyethylene Glycol Chains” Chem. Lett. 2023, 52, 556–559.

M. Ikeshita, N. Hara, Y. Imai, T. Naota “Chiroptical Response Control of Planar and Axially Chiral Polymethylene-Vaulted Platinum(II) Complexes Bearing 1,1'-Binaphthyl Frameworks” Inorg. Chem. 2023, 62, 13964–13976.

M. Ikeshita, S. Watanabe, S. Suzuki, S. Tanaka, S. Hattori, K. Shinozaki, Y. Imai, T. Tsuno “Circularly polarized phosphorescence with a large dissymmetry factor from a helical platinum(II) complex” Chem. Commun. 2024, 60, 2413–2416.

M. Ikeshita, M. Ichinose, T. Tsuno “Luminescent solvent-free liquids based on Schiff-base boron difluoride complexes with polyethylene glycol chains” Soft Matter 2024, 20, 2178–2184.

<以上>


 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 11:10 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)