• もっと見る

日本科学協会が"今"やっていること

お役立ち情報、楽しいイベントやおもしろい出来事などを紹介しています。是非、ご覧ください。


<< 2025年09月 >>
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        
プロフィール

日本科学協会さんの画像
カテゴリアーカイブ
最新記事
最新コメント
リンク集
https://blog.canpan.info/kagakukyokai/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/kagakukyokai/index2_0.xml
先輩研究者のご紹介 青木 要祐さん [2025年09月29日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2022年度「旧石器―縄文時代移行期の津軽海峡を越えた人類集団の接触―黒曜石原産地分析を中心に―」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東北大学埋蔵文化財調査室・専門職員の青木要祐さんからのお話をお届けします。

<青木さんより>
 私は、日本列島のほかロシア・韓国などを含む環日本海地域をフィールドとし、石器に使われた石材や、石器の作り方を中心に研究しています。主な研究対象としている黒曜石という石材は、溶岩が冷えて生成される火山岩の一種です。割るとガラスのように鋭い割れ口ができるため、旧石器時代〜縄文時代を中心に、石器石材として好まれました(図1)。また、生成元の溶岩ごとに化学組成がわずかに異なるという性質をもちます。私はこの性質を活かし、日本列島の各原産地で採取した原石と遺跡から出土した黒曜石製石器の元素組成を比較することで、その石器がどの原産地で産出した黒曜石で製作されたのか、を研究しています。遺跡を残した人類の活動領域や交易範囲、集団の由来を科学的に明らかにすることができる手法です。

図1 黒曜石製の石器.JPG
図1 黒曜石製の石器


 例えば、後期旧石器時代の終わり頃(約1万9千〜1万5千年前)に北海道から本州へ南下した人類集団が残した石器(白滝型細石刃石器群)を分析したところ、東北地方〜岐阜県に分布する遺跡のほぼ全てで、秋田県男鹿半島で産出する黒曜石が搬入されていたことを明らかにできました(図2、青木ほか2023)。北海道から南下し本州を拡散していくなかで、男鹿半島周辺が拠点的な役割を果たしたものと考えられます。これは他時期の集団には見られない傾向です。日本海沿岸を南下していく中で、大きく突き出た男鹿半島がランドマークとなった可能性も想起されるでしょう(図3)。こうした可能性の検証のため、今後も多方面から研究を進めていきます。

図2 本州における白滝型細石刃石器群の遺跡と黒曜石原産地.jpg
図2 本州における白滝型細石刃石器群の遺跡と黒曜石原産地

図3 男鹿半島金ヶ崎の黒曜石原産地.JPG
図3 男鹿半島金ヶ崎の黒曜石原産地


 私は博士課程ののち、新潟大学に助教(任期付き)として着任しました。着任後、科研費の応募準備を始めたのですが、年度途中(8月)着任だったために「研究活動スタート支援」には応募できず、かといって「若手研究」等の応募には準備期間が短い、という状況でした。そうしたなか本助成に応募し、採択していただけました。科研費は不採択だったため、本助成によって研究を続けることができ、安堵したことを覚えております。その後成果を重ね、再度応募した科研費では無事採択され、現在まで研究を継続できています。2024年度末には、本助成やその後の研究成果をまとめ、単著(図4、青木2025)も刊行することができました。科研費に比べて本助成の期間は1年間と短いものの、不安定なキャリアの期間にご支援いただけたことは、年数以上に重要であったと考えています。

差し替え 図4 刊行した書籍.jpg
図4 刊行した書籍


 日本科学協会が重視されてきた、学生や任期付き研究者への支援が今後も継続、発展されていくことを祈念いたします。

引用文献
青木要祐2025『海峡を越えた旧石器人類―東北日本における細石刃石器群の技術と石材の変化』新潟大学人文学部研究叢書20 知泉書館
青木要祐・佐々木繁喜・傍島健太 2023「本州における白滝型細石刃石器群の石材獲得・消費戦略」『旧石器研究』19 pp.39-58 日本旧石器学会

<以上>


 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:06 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)