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先輩研究者のご紹介 出利葉 拓也さん [2024年04月01日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2021年度「時系列情報を保持するワーキングメモリを実現する神経振動の検討」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程3年の出利葉 拓也さんからのお話をお届けします。

<出利葉さんより>
 私は「頭の良さとは何か?」という問いに中学生ぐらいから興味がありました。
中学1年ぐらいまでは「天才」と呼ばれて育ち、勉強をほとんどしなくても誰よりも勉強ができたのです。
しかし気づけば段々と天才性が失われ、みるみるうちに塾ではクラスの最下位レベルになり、高校受験も思ったような結果を得られませんでした。
今考えれば、私はただ早熟なだけだったのです。

 この経験は、私が脳研究の道に入るきっかけとなる重要な疑問を与えてくれました。
『頭の良さとはなんだろうか?』
努力しなくても頭がいい時代も、努力しても頭が良くなれない時代も、両方経験した私からみれば、「頭の良さ」が努力で補える差では決してないことは明らかでした。
では、それを分かるには脳を知るしかない。

 それから時が経ち、私は脳研究の世界を歩き始めました。
研究テーマは「ワーキングメモリ」と呼ばれる短期的な記憶システムに関するものです。
誰しも仕事の指示や料理の手順を覚え、ときに忘れてしまうことがあると思いますが、このような類の短期的な記憶やそれに関わる処理のことをワーキングメモリと呼びます。
ワーキングメモリには個人差があり、それが学業成績や知能においてとても重要だと考えられています。
「頭の良さ」という曖昧なものを知るためのスタートとして、最適な研究テーマでした。

 初めは脳波計を使って人の脳活動を測り、そのメカニズムを調べていました。
学部3年から修士1年のことです。
しかし、やればやるほど困難に直面します。
脳波は脳から頭蓋骨を経由して計測されるため、信号がぼやけすぎてしまうのです。
脳波電極に計測される信号にはあまりにも多くの神経活動やノイズも重なっていて、その意味を見出すのは不可能に思えました。
3年もこのテーマに費やしましたが、このまま研究を継続しても「頭の良さ」について何もわからない…と頭を抱えました。
(実は後に脳波研究を再開していて、その面白さを再発見していますが)

 ちょうどその頃、ある論文と出会いました。
2018年に“Neuron”という雑誌に掲載された”Neural Mechanisms of Sustained Attention Are Rhythmic”(持続的注意のメカニズムはリズミカルである)という論文です。
この論文では驚いたことに、「脳波を測ることなく」脳の詳細な活動を炙り出す独特な手法を用いていました。
実験では参加者が画面に点が現れたのに気づいたらボタンを押すという行為をひたすら繰り返すのですが、そのデータを膨大に集めます。
数百回というボタン押しのデータ(ボタンを押すのにかかる時間=反応時間)を集めると、そこには私たちの脳活動を反映する規則性がわずかに現れるのです。
これを解析すれば、意外にも頭皮から脳波を測るよりもクリアにメカニズムが見えてくる。
測っているのは行動のデータだけなのにも関わらず、です。

 この手法を応用すれば、ワーキングメモリのメカニズムも分かるかもしれないと思いつきました。
この仮説に基づき自分を対象にして試しに実験をしてみると、見事に想定通りの結果が得られて驚くとともに、視界が開けた気分でした。
知る限り、当時この手法をワーキングメモリに応用した研究者は他にいませんでした。
ここからしばらくはとんとん拍子でした。
概ね仮説を支持する(つまりワーキングメモリのメカニズムを明らかにする)結果が得られ、笹川科学研究助成にも採択いただき、モーター・コントロール研究会では若手奨励賞をいただきました。

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(写真1:研究の概念図)


 しかし、この論文をまとめて初めて学術雑誌に投稿するプロセスは、さらなる壁として私の前に立ちはだかりました。
エディターキック(編集部に掲載を断られること)とリジェクト(査読者に掲載が断られること)を合わせて10回ほど経験することになったのです。
そのプロセスでこの研究は半年ほどお蔵入りにすることを決断し、その後主張を当初のものよりも弱めた上、それを確かなものとするために追加実験をするなどしました。
最終的に累計125名を対象に、合わせて70000回ほどの反応時間のデータを分析したことになります。
お蔵入りを決めた年は失意のどん底と言える気分で、基本的に楽天的な自分ですが今回ばかりはダメかも、研究者向いてないな、と思うほどでした。
結果的に粘りを重ねて、なんとか論文のアクセプトをもらった瞬間の喜びと安堵は忘れられません。
厳しかった査読者から”I have nothing else to say. This is a good and interesting study.”(もう言うことはない。これは良い面白い研究だ)というコメントをいただくこともできました。

 とはいえ、この研究自体は、「頭の良さとは何か知りたい」という中学生の自分の疑問のほんの一端の一端を解き明かしたにすぎません。
今現在、これに関わる研究をいくつか進めていて、興味深い結果が得られつつあります。
ようやくスタートに立てたと言うことで、これからますます精進していきたいと思います。
研究の中身について触れることがあまりできませんでしたが、詳細はぜひ論文(下部に記載)に目を通していただければ幸いです。少し難解かもしれませんが…。

最後に、2021年度に笹川科学研究助成を、そして2023年度には海外発表促進助成を賜ったことに心より感謝申し上げます。
本研究がなんとか身を結ぶことができたのは、紛れもなく本助成のおかげです。

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(写真2:海外発表促進助成の支援を賜った学会にて)


 これから笹川科学研究助成に応募したいと言う方へ
当研究助成の特徴の一つは、「若手による基礎研究」への支援を積極的におこなっていただけるということだと思います。
世の中にある大抵の助成金は、ある程度実績があることや、世の中の役に立つことが審査における大きな基準となります。
それと異なり、笹川科学研究助成では私の研究のように、実績もない若手による、すぐには世の中の役にも立たないような研究も寛大に受け入れてくださいます。
もちろん、その面白さを十分に伝える必要はありますが、ぜひ一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

論文
Ideriha, T., Ushiyama, J. Behavioral fluctuation reflecting theta-rhythmic activation of sequential working memory. Sci Rep 14, 550 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-023-51128-7

<以上>


 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 13:10 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)