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先輩研究者のご紹介(楠本 多聞さん) [2022年05月16日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2020年度に「オージェ電子放出核種を使用した標的アイソトープ治療における間接作用の役割の解明」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、量子科学技術研究開発機構放射線計測グループ所属の、楠本 多聞さんからご専門の研究について、コメントを頂きました。

<楠本さんより>
 標的アイソトープ治療とは、放射性同位元素で標識された治療薬剤を腫瘍へ送り届け、放射線によってがん細胞を死滅させる治療法であり、根治が難しいとされる播種性のがんに対する有効な治療法として考えられています。使用される放射性同位元素としては、α線放出核種であるAt-211やAc-225、β線放出核種のI-131、オージェ電子放出核種のIn-11やCu-64が挙げられます。オージェ電子はα線やβ線に比べて飛程が短く、陽子線に匹敵するLET(放射線が単位距離進む間に落とすエネルギー)をもつことから、周囲の正常組織を傷つけることなく、がん組織のみを効率的に攻撃できると考えられています。しかしながら、オージェ電子の飛程は水中で100 nm程度と短いため、治療効果を推定するための線量を直接評価することが難しいとされています。そこで私の研究では、このオージェ電子の線量の評価手法の確立に取り組みました。
 具体的な内容としては、化学線量計としても使用されているクマリン-3-カルボン酸(C3CA)水溶液とCu-64標識した塩化銅水溶液を一定の割合で混ぜ、この混合水溶液の体積を変化させて行きます。オージェ電子の飛程は非常に短いため、混合水溶液の体積に関わらず、一定のエネルギーを落とします。しかしながら、競合過程で放出されるβ線や陽電子は飛程がオージェ電子よりも3ケタ以上も長いため、体積の増加に伴ってそれらの落とすエネルギーも増加します。よって、混合水溶液の体積と混合水溶液内で落とされた放射線のエネルギーの関係を考えると図のような切片をもつようなグラフを得ることができます。この切片がオージェ電子の線量に相当します。実験の結果をGeant4という放射線シミュレータによるシミュレーションの結果と比較することで整合性が確認できたため、オージェ電子を使用した標的アイソトープ治療の生物学的効果を他の放射線がん治療のそれと比較したところ、重粒子線治療(炭素線治療)とほぼ等しいことが分かりました。この結果は、Scientific Reportsという学術誌に成果を報告し、受理されました。

画像1.png

 日本科学協会は、笹川助成金として幅広い分野を対象に研究費の助成をしてくださいます。また、予算の使途にも自由度があり(新型コロナウイルスの影響で出張が困難になった際の使途変更にも柔軟に対応してくださいました!)、集中して研究に取り組むことができました。研究費が原因で研究が思うように進められないと悩んでいる研究者の方は是非一度応募してみてはいかがでしょうか?
最後になりましたが、貴重な機会を与えてくださった日本科学協会の関係者の皆様にお礼申し上げます。
<以上>

 新型コロナウイルスの影響で、なかなか研究が進まないこともあったかと思いますが、諦めずに研究を続けることで、成果を学術誌に報告ができたとのことでした。まだコロナウイルスは終息しておりませんが、これからも頑張っていただきたいと思います。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:29 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)