先輩研究者のご紹介(松山 紘之さん)
[2021年05月31日(Mon)]
こんにちは。科学振興チームの豊田です。
本日は、2019年度に「シカが増えすぎるとマダニが減る? -生態系エンジニアとその外部寄生者が形成する相互作用の解明-」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東京大学大学院・新領域創成科学研究科所属の松山紘之さんから科学的豆知識について、コメントを頂きました。
<松山さんより>
・科学的豆知識
皆さんは感染症の出現と生態系が密接に関わっていることをご存知でしょうか。実は、感染症の70%以上が動物由来であることが言われています(Jones et al. 2008, Nature)。感染症の原因となる病原体や寄生虫は、普段野生動物を宿主として暮らしています。ところが、何かの拍子に野生動物の病原体や寄生虫が人間に感染してしまうことがあります。これが、いわゆる「人獣(畜)共通感染症」と呼ばれているものです。近年、このような宿主となる野生動物種は、人間が利用していない自然と比べて、人間が利用している都市、農地、二次的な自然に、高い割合で生息していることがわかってきました(Gibb et al. 2020, Nature)。このことは、一見、無関係のように思える人間活動が生態系の変化を介して間接的・連鎖的に感染症の出現に関与しているといえます。
私の専門は感染症生態学です。この分野は、比較的新しい研究分野で、生態学で培われた手法や理論を駆使して、生態系での「病原体や寄生虫」と宿主の関係を解明することを目的としています。私は病原体や寄生虫を生態系の「1つの構成員」として捉え、彼らが他の生物とどのような関係を構築しているのか、どのような要因で増減しているのかを調べています。寄生や感染という奇妙かつ複雑な生活史をもつ生物の営みを知ることは学術的に面白いと感じています。一方で、こういったことを紐解いていくことで、病原体や寄生虫の規則性やパタンを見出すことができ、ひいては感染症のリスク低減も考慮した生態系の管理が可能となることも期待しています。
現在は、吸血性の寄生者であるマダニ類(図1)が媒介する感染症に着目して、こういった研究を北海道大学苫小牧研究林(図2-3)の協力のもと実施しています。2019年度助成時の研究では、シカが高密度化すると、シカの採食により下層植生が減少して、下層植生の中で宿主動物を待ち伏せしているマダニ類の生存率が低下することが示唆されました。この研究から、「宿主が増え過ぎると寄生者が減るかもしれない」という意外で面白い現象を発見できたと思っています。
図1.布に付着したマダニ類
マダニは、白い布を地面に引きずって採取しています。
図2. 苫小牧研究林
図3.苫小牧研究林の秋空
マダニを採っていると地面ばかり見ているので、たまに空を見上げて癒されています。
・これから笹川科学研究助成を申請される方へ
私が初めて笹川科学研究助成金(以後、笹川助成)に申請し採択していただくまで(申請時、修士2年)、計4つ以上の研究助成(笹川助成除く)に申請し全て不採択でした。当時の心境は、研究費はもちろんのこと、精神的にも(自分の研究が認められていないような錯覚に陥り)非常に辛かったと記憶しています。笹川助成に採択していただいたことで、とても救われた気持ちになったことを良く覚えています(その節は本当にありがとうございました)。笹川助成を申請するにあたり、指導教員に10回以上も添削していただき、推薦書も快く作成していただきました(鈴木先生、ごめんなさい)。当時、申請書で求められる文量や項目が多かったため、作成には苦労しました。しかし、修士論文を執筆する際、申請書で要求された内容が大いに役立ちました。申請するか悩んでいる方は、ぜひ挑戦してみることをお勧めします。
シカが増えると、寄生者であるマダニも増えそうに思えますが、実際は減少する可能性があるとのことでした。自然界は大変複雑にできているのだと感じました。
助成金への申請は、大変なことだと思います。しかし、その過程で、様々な人と議論を行い、考えをまとめ、申請書を作成することは、研究者として貴重な経験になると思います。本助成を足掛かりとして、今後も挑戦を続けていただきたいと思います。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2019年度に「シカが増えすぎるとマダニが減る? -生態系エンジニアとその外部寄生者が形成する相互作用の解明-」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東京大学大学院・新領域創成科学研究科所属の松山紘之さんから科学的豆知識について、コメントを頂きました。
<松山さんより>
・科学的豆知識
皆さんは感染症の出現と生態系が密接に関わっていることをご存知でしょうか。実は、感染症の70%以上が動物由来であることが言われています(Jones et al. 2008, Nature)。感染症の原因となる病原体や寄生虫は、普段野生動物を宿主として暮らしています。ところが、何かの拍子に野生動物の病原体や寄生虫が人間に感染してしまうことがあります。これが、いわゆる「人獣(畜)共通感染症」と呼ばれているものです。近年、このような宿主となる野生動物種は、人間が利用していない自然と比べて、人間が利用している都市、農地、二次的な自然に、高い割合で生息していることがわかってきました(Gibb et al. 2020, Nature)。このことは、一見、無関係のように思える人間活動が生態系の変化を介して間接的・連鎖的に感染症の出現に関与しているといえます。
私の専門は感染症生態学です。この分野は、比較的新しい研究分野で、生態学で培われた手法や理論を駆使して、生態系での「病原体や寄生虫」と宿主の関係を解明することを目的としています。私は病原体や寄生虫を生態系の「1つの構成員」として捉え、彼らが他の生物とどのような関係を構築しているのか、どのような要因で増減しているのかを調べています。寄生や感染という奇妙かつ複雑な生活史をもつ生物の営みを知ることは学術的に面白いと感じています。一方で、こういったことを紐解いていくことで、病原体や寄生虫の規則性やパタンを見出すことができ、ひいては感染症のリスク低減も考慮した生態系の管理が可能となることも期待しています。
現在は、吸血性の寄生者であるマダニ類(図1)が媒介する感染症に着目して、こういった研究を北海道大学苫小牧研究林(図2-3)の協力のもと実施しています。2019年度助成時の研究では、シカが高密度化すると、シカの採食により下層植生が減少して、下層植生の中で宿主動物を待ち伏せしているマダニ類の生存率が低下することが示唆されました。この研究から、「宿主が増え過ぎると寄生者が減るかもしれない」という意外で面白い現象を発見できたと思っています。
図1.布に付着したマダニ類
マダニは、白い布を地面に引きずって採取しています。
図2. 苫小牧研究林
図3.苫小牧研究林の秋空
マダニを採っていると地面ばかり見ているので、たまに空を見上げて癒されています。
・これから笹川科学研究助成を申請される方へ
私が初めて笹川科学研究助成金(以後、笹川助成)に申請し採択していただくまで(申請時、修士2年)、計4つ以上の研究助成(笹川助成除く)に申請し全て不採択でした。当時の心境は、研究費はもちろんのこと、精神的にも(自分の研究が認められていないような錯覚に陥り)非常に辛かったと記憶しています。笹川助成に採択していただいたことで、とても救われた気持ちになったことを良く覚えています(その節は本当にありがとうございました)。笹川助成を申請するにあたり、指導教員に10回以上も添削していただき、推薦書も快く作成していただきました(鈴木先生、ごめんなさい)。当時、申請書で求められる文量や項目が多かったため、作成には苦労しました。しかし、修士論文を執筆する際、申請書で要求された内容が大いに役立ちました。申請するか悩んでいる方は、ぜひ挑戦してみることをお勧めします。
<以上>
シカが増えると、寄生者であるマダニも増えそうに思えますが、実際は減少する可能性があるとのことでした。自然界は大変複雑にできているのだと感じました。
助成金への申請は、大変なことだと思います。しかし、その過程で、様々な人と議論を行い、考えをまとめ、申請書を作成することは、研究者として貴重な経験になると思います。本助成を足掛かりとして、今後も挑戦を続けていただきたいと思います。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。