先輩研究者のご紹介(石川 智愛さん)
[2020年04月06日(Mon)]
こんにちは。科学振興チームの豊田です。
本日は、2018年度に「SW-R発生時の記憶再生を支えるシナプス入力の時空間パターン」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、慶應義塾大学医学部薬理学所属の、石川 智愛さんから助成時の研究について、コメントを頂きました。
<石川さんより>
私たちの脳は多数の細胞によって構成されています。その中でも情報処理の中心を担うのがニューロンと呼ばれる細胞です。ニューロンは他のニューロンと結びつき、発火することでお互いに情報を伝達します。
これまでに、あるニューロン集団が特定の順番で発火する「シークエンス発火」という現象が報告され、このシークエンス発火によって情報が出力されると考えられています。このようなシークエンス発火は様々な脳領域で観察され、特に海馬で観察されるシークエンス発火は記憶や学習などにも深く関わることから、様々な研究が行われてきました。しかし、シークエンス発火が受け手のニューロンにどのように伝達されるのかに関してはほとんど明らかになっていません。
個々のニューロンは他のニューロンにシナプス入力として情報を伝達します。シナプス入力を受けるのは、樹状突起上に存在するスパインという微細構造です(図1)。受け手のニューロンは同時に受け取ったシナプス入力を足し合わせ、閾値に達すれば、発火してさらに下流へと情報を送ります。この時、いつ、どこで、どのスパインが入力を受け取るのか、すなわちシナプス入力の時空間パターンによって、受け手のニューロンの発火パターンが大きく変わるのです。
私たちは、海馬でシークエンス発火が起きた時の受け手のシナプス入力を観察することで、受け手のニューロンの特定のスパインが特定の順番でシナプス入力を受けるシークエンス入力の存在を世界で初めて発見しました。さらに、このシークエンス入力は近くに存在するスパインに収束していることも明らかにしました。
スパインはわずか数μm(1 μm = 1 mmの千分の1)という非常に小さな構造です。さらに、シークエンス入力の存在を探索するためには、ごく少数のスパインの入力を捉えるだけでは不十分で、シナプス入力を大規模に観察する必要があります。私たちは世界最先端の工学システムを用いて(図2)、数百におよぶスパインへの入力をハイスピードで記録し、シークエンス発火時にニューロン内で行われる情報処理に関して新たな指針を提示しました。シークエンス発火の仕組みを明らかにすることは、記憶をはじめとした様々な脳機能の理解につながると期待しています。
この研究は、笹川科学研究助成にご支援をいただいて完成したものです。2018年に助成をいただき2020年にScience Advance誌に出版することができました。基礎研究をまとめるまでには多くの資金と時間がかかりますが、幅広い研究に対し、独創性・萌芽性を評価して支援してくださる笹川研究助成は、若手研究者にとって貴重なチャンスとなっています。学生でも応募でき、自由度も高く使いやすいので、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。最後になりますが、ご支援いただいた日本科学協会の皆様に感謝申し上げます。
笹川科学研究助成は1年間の助成制度であり、論文発行までに2年かかったとのことですので、全てはサポートできなかったかと思いますが、研究スタート時の足掛かりとなれたようで、うれしく思います。記憶という形の無いものが何であるか解明できるよう、頑張っていただきたいと思います。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2018年度に「SW-R発生時の記憶再生を支えるシナプス入力の時空間パターン」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、慶應義塾大学医学部薬理学所属の、石川 智愛さんから助成時の研究について、コメントを頂きました。
<石川さんより>
私たちの脳は多数の細胞によって構成されています。その中でも情報処理の中心を担うのがニューロンと呼ばれる細胞です。ニューロンは他のニューロンと結びつき、発火することでお互いに情報を伝達します。
これまでに、あるニューロン集団が特定の順番で発火する「シークエンス発火」という現象が報告され、このシークエンス発火によって情報が出力されると考えられています。このようなシークエンス発火は様々な脳領域で観察され、特に海馬で観察されるシークエンス発火は記憶や学習などにも深く関わることから、様々な研究が行われてきました。しかし、シークエンス発火が受け手のニューロンにどのように伝達されるのかに関してはほとんど明らかになっていません。
個々のニューロンは他のニューロンにシナプス入力として情報を伝達します。シナプス入力を受けるのは、樹状突起上に存在するスパインという微細構造です(図1)。受け手のニューロンは同時に受け取ったシナプス入力を足し合わせ、閾値に達すれば、発火してさらに下流へと情報を送ります。この時、いつ、どこで、どのスパインが入力を受け取るのか、すなわちシナプス入力の時空間パターンによって、受け手のニューロンの発火パターンが大きく変わるのです。
私たちは、海馬でシークエンス発火が起きた時の受け手のシナプス入力を観察することで、受け手のニューロンの特定のスパインが特定の順番でシナプス入力を受けるシークエンス入力の存在を世界で初めて発見しました。さらに、このシークエンス入力は近くに存在するスパインに収束していることも明らかにしました。
スパインはわずか数μm(1 μm = 1 mmの千分の1)という非常に小さな構造です。さらに、シークエンス入力の存在を探索するためには、ごく少数のスパインの入力を捉えるだけでは不十分で、シナプス入力を大規模に観察する必要があります。私たちは世界最先端の工学システムを用いて(図2)、数百におよぶスパインへの入力をハイスピードで記録し、シークエンス発火時にニューロン内で行われる情報処理に関して新たな指針を提示しました。シークエンス発火の仕組みを明らかにすることは、記憶をはじめとした様々な脳機能の理解につながると期待しています。
この研究は、笹川科学研究助成にご支援をいただいて完成したものです。2018年に助成をいただき2020年にScience Advance誌に出版することができました。基礎研究をまとめるまでには多くの資金と時間がかかりますが、幅広い研究に対し、独創性・萌芽性を評価して支援してくださる笹川研究助成は、若手研究者にとって貴重なチャンスとなっています。学生でも応募でき、自由度も高く使いやすいので、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。最後になりますが、ご支援いただいた日本科学協会の皆様に感謝申し上げます。
<以上>
笹川科学研究助成は1年間の助成制度であり、論文発行までに2年かかったとのことですので、全てはサポートできなかったかと思いますが、研究スタート時の足掛かりとなれたようで、うれしく思います。記憶という形の無いものが何であるか解明できるよう、頑張っていただきたいと思います。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。