先輩研究者のご紹介(橋本 佳菜さん)
[2019年11月18日(Mon)]
こんにちは。科学振興チームの豊田です。
本日は、2018年度に「結晶を含むマグマにおける脱ガスと空振励起のメカニズム:流体実験と観測による解明」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、金沢大学大学院自然科学研究科自然システム学専攻所属(助成時)の、橋本 佳菜さんから助成時の研究について、コメントを頂きました。
<橋本さんより>
火山活動のモニタリング手法の一つとして、空振観測があります。空振観測とは噴火に伴う空気の振動を観測するものであり、噴火様式(爆発的・非爆発的)などによって様々な空振が観測されています。しかし、火口内部の様子を観察することは困難であるため、噴火様式と観測される空振の関係は明らかになっていません。そこで本研究では、空振波形から噴火様式を推測することを目的として、火山噴火を再現する「モデル実験」を行い、測定した空振と火山で観測される空振の比較を行いました。
本研究の最大の特徴は、マグマのモデル物質として「粒子を含む透明な流体」を用いたことです。マグマは結晶と液体のメルトの混合物であるため、固体と液体の混合物をモデル物質として用いることは重要なポイントです。本研究では粒子(シリコンパウダー)と同じ屈折率のシリコンオイルを混合することにより、透明な流体の作成に成功しました。
本研究では、粒子体積分率40%の流体では気泡の上昇中に破裂が開始し(図1)、穴(以下アパチャーと呼ぶ)が比較的ゆっくりと開口することが明らかになりました。このときアパチャー内で空気の振動が起こり、「ヘルムホルツ共鳴」という原理で空振が励起されます。ヘルムホルツ共鳴とは、瓶の口に息を吹きかけたときに「ボー」と音が出るときに起こる共鳴で、この場合アパチャーをもつ気泡が瓶のように振る舞います。ヘルムホルツ共鳴で励起される空振の周波数は、容器の体積やアパチャー半径に依存します。この原理を利用して、空振周波数から破裂する気泡のアパチャー半径と気泡サイズを推測できる可能性があります。
2015年に噴火した阿蘇山内部の状況を推測してみます。空振波形の解析により、破裂する気泡のアパチャー半径は20 m、体積は1.74×105 m3(直径69.2 m)と求められます。阿蘇山の火道半径が約50 mであることから、火道を満たす縦長に伸びた気泡が破裂する、という噴火様式が推測されます。しかし、実際に阿蘇山で見られる爆発に伴う溶岩の飛び散りが実験では見られないなど、相違点もあります。今回は単一の気泡の破裂について研究しましたが、今後は空気を連続的に入れる実験など現実の火山に近い条件でモデル実験を行う必要があります。より多くの空振データを集め、火山で観測された空振との対応付けを行うことにより、噴火様式の推測の信頼性がより高くなり、防災に活かされることが期待されます。
地面の振動などで火山の状態が分かるというのは、なんとなくイメージすることができますが、空気の振動からも噴火の状態が分かるということには、驚きました。山の多い日本では、火山の研究は非常に重要だと思います。2018年1月23日には、日光白根山が噴火し草津国際スキー場に被害がでましたが、私はその3週間前にそこでスキーをしていたので、切実に思います。防災・安全のためにも、頑張っていただきたいと思います。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2018年度に「結晶を含むマグマにおける脱ガスと空振励起のメカニズム:流体実験と観測による解明」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、金沢大学大学院自然科学研究科自然システム学専攻所属(助成時)の、橋本 佳菜さんから助成時の研究について、コメントを頂きました。
<橋本さんより>
火山活動のモニタリング手法の一つとして、空振観測があります。空振観測とは噴火に伴う空気の振動を観測するものであり、噴火様式(爆発的・非爆発的)などによって様々な空振が観測されています。しかし、火口内部の様子を観察することは困難であるため、噴火様式と観測される空振の関係は明らかになっていません。そこで本研究では、空振波形から噴火様式を推測することを目的として、火山噴火を再現する「モデル実験」を行い、測定した空振と火山で観測される空振の比較を行いました。
本研究の最大の特徴は、マグマのモデル物質として「粒子を含む透明な流体」を用いたことです。マグマは結晶と液体のメルトの混合物であるため、固体と液体の混合物をモデル物質として用いることは重要なポイントです。本研究では粒子(シリコンパウダー)と同じ屈折率のシリコンオイルを混合することにより、透明な流体の作成に成功しました。
本研究では、粒子体積分率40%の流体では気泡の上昇中に破裂が開始し(図1)、穴(以下アパチャーと呼ぶ)が比較的ゆっくりと開口することが明らかになりました。このときアパチャー内で空気の振動が起こり、「ヘルムホルツ共鳴」という原理で空振が励起されます。ヘルムホルツ共鳴とは、瓶の口に息を吹きかけたときに「ボー」と音が出るときに起こる共鳴で、この場合アパチャーをもつ気泡が瓶のように振る舞います。ヘルムホルツ共鳴で励起される空振の周波数は、容器の体積やアパチャー半径に依存します。この原理を利用して、空振周波数から破裂する気泡のアパチャー半径と気泡サイズを推測できる可能性があります。
2015年に噴火した阿蘇山内部の状況を推測してみます。空振波形の解析により、破裂する気泡のアパチャー半径は20 m、体積は1.74×105 m3(直径69.2 m)と求められます。阿蘇山の火道半径が約50 mであることから、火道を満たす縦長に伸びた気泡が破裂する、という噴火様式が推測されます。しかし、実際に阿蘇山で見られる爆発に伴う溶岩の飛び散りが実験では見られないなど、相違点もあります。今回は単一の気泡の破裂について研究しましたが、今後は空気を連続的に入れる実験など現実の火山に近い条件でモデル実験を行う必要があります。より多くの空振データを集め、火山で観測された空振との対応付けを行うことにより、噴火様式の推測の信頼性がより高くなり、防災に活かされることが期待されます。
<以上>
地面の振動などで火山の状態が分かるというのは、なんとなくイメージすることができますが、空気の振動からも噴火の状態が分かるということには、驚きました。山の多い日本では、火山の研究は非常に重要だと思います。2018年1月23日には、日光白根山が噴火し草津国際スキー場に被害がでましたが、私はその3週間前にそこでスキーをしていたので、切実に思います。防災・安全のためにも、頑張っていただきたいと思います。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。