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お役立ち情報、楽しいイベントやおもしろい出来事などを紹介しています。是非、ご覧ください。


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サイエンスセミナー『生き物の運動方程式!? 流れを読み解く数学の世界』を開催しました! [2024年11月08日(Fri)]

2024年11月4日、オンラインセミナー『生き物の運動方程式!? 流れを読み解く数学の世界』を開催しました。
今回の講師は、京都大学数理解析研究所准教授の石本健太先生です。

セミナーは先生が研究されている“流体と生命現象”の話から始まりました。

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運動方程式を用いると未来を予測することが出来るのですが、その仕組みを生き物に応用されたのが先生の研究です。つまり先生は現実の現象と方程式の橋渡しの役割を担われています。

先生のお話の中で特に驚いたのが、『レイノルズ数』という流体のさらさら度を示すものです。なんと体が大きければ大きいほどさらさらであると生き物は感じ、体が小さい微生物はネバネバと感じるらしいです。※下の図のRがレイノルズ数です。

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また、生き物の運動の鍵を握っているのは“渦”なんです。
鳥が空を飛べる理由や飛行機がとべる理由には、渦が関連しています。
先生は今後も“生き物の知性を数学にできるのか?”ということに取り組まれていかれます。


つぎに『何故先生が研究者という職を選んだのか?どのように研究者になったのか?』という経緯を話していただきました。
かつて呆然と、となりのトトロのお父さん(考古学者)にみたいな人に将来なりたいなとイメージしていた先生。中学時代は、何か特別なことに興味があるというより色々な世界に触れたいという少年だったそう。
そんな先生は、大学院の修士課程が終わったら企業に就職しようと考えていたらしいのですが、大学4年生の時に、鴨川を見てぼーとしていた時に「自然現象に興味があると思い勉強をしてきたのに、世界を知らないな。流体を理解すれば世界が違って見えて豊かで幸せな人生になるのでは?」と考え始めます。また修士1年の時に、担当教授から「生物に興味はないか?」と言われたことをきっかけに、“生物バツ1流体バツ1数学”という分野において今からやれば先駆者になれるのでは!と研究者への道に進み始めます。

最後に「研究は楽しいですか?」という質問に対し、先生は「研究者はクリエイティブな仕事で、クリエイティブな人生なので楽しい!」と答えられていました。いいアイディアが生まれたり、深遠で巧妙な数学世界の美しさに触れたりしたときなどに嬉しい気分になるとのこと。

セミナーに参加して下さったみなさん、石本先生、本当にありがとうございました。ぜひ先生の話を聞いて研究者という職業や、流体力学の勉強に興味を持たれた方はその道に進んでみて下さいね!
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 08:40 | サイエンスコミュニケーション | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
データ集録ワークショップ「東京スカイツリー(R)で気圧をはかろう」を開催しました! [2024年09月05日(Thu)]

 2024年8月30日、千葉工業大学東京スカイツリータウン(R)キャンパスにて、中高生対象のデータ集録ワークショップ「東京スカイツリー(R)で気圧をはかろう」を開催しました。
今回の講師は、昨年と同様、岡山大学のはしもとじょーじ先生と千葉工業大学の千秋博紀先生です。

 ワークショップは日本科学協会会長の高橋正征の開会挨拶と千葉工業大学の下山亜希子さんのキャンパス紹介から始まりました。

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 午前中には、はしもと先生の指導のもと、ラズベリーパイを使った気圧測定器を組み立て、机の上と下の気圧を測って動作確認を行いました。ここで使うセンサは気圧だけでなく、温度や湿度も測れます。組み立てや測定器の性質を確認と合わせて、気圧と高度の関係や統計の考え方を学びました。

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 お昼休憩の時間には、キャンパス内にある展示室にて、千秋先生からはやぶさ2の実物大模型を用いた展示物の説明がありました。

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 午後には改めて測定方法の説明があり、スカイツリーへ移動して、1階での気圧と展望デッキ350 mでの気圧を測りました。センサは2秒ごとに気圧を測れるため、展望デッキへ移動するエレベーターの中では上昇に伴って気圧の数値が変化する様子を確認できました。
 また、当日は強い雨でのスタートでしたが、みなさんの日頃のよい行いのおかげか、午後には天気も回復して展望デッキから遠くまで見渡せました。

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 教室に戻ってきた後は、展望デッキでの気圧が予測通りだったかの確認とエレベーターの上昇速度の計算を行いました。

 そして、高橋の講評をもってワークショップは無事終了しました。

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 ワークショップに参加してくださったみなさん、はしもと先生、千秋先生、下山さん、本当にありがとうございました。
 また、このワークショップには、日本科学協会のサイエンスメンタープログラムを修了したOB・OGがスタッフとして参加しました。

 本事業は独立行政法人国立青少年教育振興機構「子どもゆめ基金」の助成を受けて開催しました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 14:03 | サイエンスコミュニケーション | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中高生対象セミナー「地球外生命の探し方」を開催しました! [2024年02月07日(Wed)]

 1/21(日)に東京工業大学で中高生を対象に「地球外生命の探し方」と題して宇宙開発をテーマに東京工業大学地球生命研究所の関根康人所長のセミナーを開催しました。

 オフライン32名、オンライン51名の中高生が参加してくれました。
 カッシーニやキュリオシティーなどの宇宙探査ミッションから関根所長の火星に凍土がある可能性を示唆する検証まで幅広い興味深い話が出ました。さらには技術・科学の話にとどまらず実際に宇宙移住を始めるためには既存の学問分野にとらわれない知識や能力を持った人間が必要だという話もありました。そしてそのような人材を生み出すためには今ある分野間の壁を取り払い新たな学問を立てる必要があるのだという話にまで広がりました。SLIMの月面着陸成功の直後だったこともあり宇宙科学への熱意に溢れる学生達は終始目を輝かせて講演を聞いていました。質疑応答では質問が絶えず、予定していた時間を大幅に過ぎてしまいました(笑)。

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 そして講演の後は東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)にて研究室ツアーを行いました。大学の研究室に入ることのできる貴重な機会であり、講演で紹介された研究が実際に行われている場所なので学生達はとてもワクワクした様子で案内を聞いていました。講演にもあったように分野間の壁を取り払うため、研究所の建物が他分野の研究者と積極的に交流ができるようオープンな作りになっていたことがとても印象的でした。

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 研究室ツアーも終わり解散後、関根所長に声をかけて直接会話をする学生も多く、このセミナーが参加者にとって刺激的なものになったのだなと実感しました。

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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 13:29 | サイエンスコミュニケーション | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
データ集録ワークショップ「東京スカイツリー(R)で気圧をはかろう」を開催しました! [2023年10月19日(Thu)]

 2023年10月15日(日)、中高生を対象としてデータ集録ワークショップ「東京スカイツリー(R)で気圧をはかろう」を千葉工業大学東京スカイツリータウン(R)キャンパスで開催いたしました。

 講師は、はしもとじょーじ先生(岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域教授)と千秋博紀先生(千葉工業大学惑星探査研究センター主席研究員)です。スタッフとして、サイエンスメンタープログラムを修了したOB・CGの廣木さん、右田さん、久保田さん、岩佐さんが協力してくださいました。

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開会挨拶 日本科学協会 会長 橋正征

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講師 はしもとじょーじ先生

 
 午前中は、ラズベリーパイにIoTCAP(センサ)を付け、測定のためのバッテリーをつなげる工作をしました。動作確認のため測定をして、机の上と下の気圧差からスカイツリーの気圧を予測しました。

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 お昼休みは、千葉工業大学惑星探査研究センターの展示室を見学させていただき、千秋先生が「はやぶさ2」の実物大模型の説明をしてくださいました。

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千葉工業大学惑星探査研究センター展示室にて千秋先生の説明

 
 午後は、いよいよ東京スカイツリーの天望デッキへ!
 エレベーターにラズパイを持ち込んで、2人一組で気圧の変化を記録しました。

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エレベーターで気圧測定中

 天望デッキは地上350mにあり、雨模様のため、景色は雲に覆われて真っ白で雲の中曇り
散歩しているようでした。

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 教室に戻って、測定した気圧からエレベーターの上昇速度を計算しました。ラズパイで集録した気圧のデータはPCでグラフにして、お土産として参加者に持ち帰っていただきました。
 最後に会長橋からの講評で、ワークショップは終了しました。

 アンケートでは、ほぼ全員「楽しかった」との回答をいただきました!!
(感想抜粋)
ひらめき普段触れないラズパイで工作・勉強できて楽しかった。
ひらめき気圧のグラフを書くのが面白かった。
ひらめき聞くだけではなく、体験できたのが楽しかった。
ひらめき講義や資料が分かりやすかった。
ひらめき講師やスタッフに丁寧に指導してもらうことができた。
ひらめき同じグループの人と沢山話せて楽しかった。

 
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 参加者の皆さん、はしもと先生、千秋先生、千葉工業大学の下山さん、サイエンスメンタープログラムOB・OGの皆さん、付き添いのご家族の方、1日ありがとうございました。
 本事業は、独立行政法人国立青少年教育振興機構「子どもゆめ基金助成活動」です。

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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 17:00 | サイエンスコミュニケーション | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
研究者コラム(4)無機化学研究者 三宅 亮介先生 [2023年08月03日(Thu)]

 こんにちは、熊澤有紗です。さて、皆さんが研究をしてみたいと思ったとき、「どんな心構えを持っていたら研究者になれるのか?」「そもそも、研究とは何なのか?」と考えたことはありませんか? 私も高校生の頃に日本科学協会のサイエンスメンタープログラムに参加して、研究者に向いているのか、研究とはそもそも何なのか、ということをよく考えていました。
 そこで、お茶の水女子大学で錯体化学を研究されている三宅先生にインタビューをしました。この記事を読みながら、研究について考えてみてくださいね。

「人生にも通ずる、研究に必要な心構え」

熊澤 有沙(お茶の水女子大学3年生)
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左:熊澤さん 右:三宅先生
 

研究とは

 「研究」とは、未知なものに対して仮説を立てて探究していくプロセスです。つまり実験のような目の前で起こっている現象に対し考察して、仮説を立てて実験を繰り返し、それぞれの考察から現象に共通している真理を得ていくプロセスです。考察するというのは、解釈するとも言えます。
 少し難しい表現を使ってしまいました。皆さんにとって研究とはどのようなイメージでしょうか? 本当にたくさんのイメージがあると思います。私にとっては、実験も図書館での調べ学習も、小学生の自由研究も、企業の商品開発も、研究のイメージがあります。
 三宅先生にとって、研究は世の中で全く分かっていなかったことを明らかにすることだそうです。その言葉を受けて考えてみると、理科の授業でやる実験は教科書のとおりに行いますが、研究の実験では自分で実験方法を考えて、結果がどのようなものだったらどういう考察するかを全て自分で決めて行うという違いがあるように思いました。つまり、テストにあるような正解がないのです。
 しかし一方で、「研究の定義は人それぞれでよい」ということも三宅先生は語っていました。好奇心を持ったことに対して、さまざまなアプローチでチャレンジすることこそが、探究することであり研究なのだと思います。


うまくいかない研究は「無駄」なのか?

 「研究とは」という話をしましたが、教科書のない実験というものを想像できたでしょうか? それは自由で楽しいけれど、同時にその正解のなさに不安になってしまいます。私は研究をしていた中で、そのような不安から自分の研究が無駄だったのではないかと思うことがありました。その不安について、三宅先生に尋ねると「研究を無駄だと判断できるほど、私たちは頭が良いのだろうか」とおっしゃっていました。「無駄と判断することは傲慢ではないか?」、ともおっしゃっていました。私はそれを聞いて、研究に正解がないのだとすれば、研究に不正解もないのだということを考えました。「無駄=不正解」だとすれば、研究に無駄はないのです。無駄と判断することは、研究に正解を求めているということで、傲慢なことなのかもしれませんね。
 そして、三宅先生は「研究というのは『一見無駄に見える1万個の基礎研究があるから1個が革新的な技術が生まれる』のだと思う。1万個の研究が切磋琢磨した結果、革新的な研究や技術に繋がっているのではないか」と語っていました。三宅先生には、研究で6,7年間も結果がでなかった時期がありました。
 研究の成果が得られるまでの期間、ずっと自分の研究の面白さを信じ続けられたわけではなく、周りの先生や先輩・仲間からのサポートがあってなんとか乗り越えた時期もあったそうです。自分の研究に「面白いね」と声をかけてくれる人、一緒に考えてくれる人が大きな支えになったとおっしゃいます。上手くいっていない時は「無駄なんじゃないか」と批判してくる人の声の方が耳に残りやすい。でも、実際には、面白いと思ってくれている人はいて、そういう人は、上手くいってからその存在を知ることが多い。実際に、成果が出てから「君の研究は面白い。いつか結果が出るんじゃないかと思っていたよ」と言われた経験があるそうです。その経験から、人の評価は変わっていくものだから、気にしないのが一番と思うようになったと話されていました。
 自分の研究を信じること、応援してくれる人を大切にすることがとても大切だということが分かりました。


中高生にメッセージ

 最後に、三宅先生に中高生が研究において大切にすべきことを聞きました。「自分がどうしていきたいのかをちゃんと向き合える時間を取ること」が大事なのだそうです。
 ここまで、三宅先生から「研究に正解はないけれど、正しいと信じ続ける」「人の評価に振り回されないようにする」「応援してくれる仲間を大切にする」など、さまざまなことを教わりました。そして、これらの学びは、目標に向けて努力をしていく中で壁にぶつかり、それを乗り越える時に得られたとのことです。実験の結果が出ない、他の人の方が良い結果を出しているなど、理想と現実、他人と自分を比べては打ちひしがれる時期が三宅先生にもありました。そして前を向こうとして、できることをやり始めると徐々に打開できることが多かったようです。これは、皆さんにも当てはまることだと思います。勉強や部活などで、思ったような成績が出なかったとき、他の人に先を越されてしまったとき、打ちひしがれたことがあると思います。でもそんなときに、前を向こうと、できることを続けていると何か大事なことを学べるのではないでしょうか。
 常に前を向いていけるように、たまに自分と向き合う時間を設けてみてはいかがでしょうか?

(おわり)


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三宅亮介先生

   所  属:お茶の水女子大学 基幹研究院 自然科学系 講師
   専門分野:錯体化学、超分子化学、生体機能関連化学
   経  歴:東京大学で博士(理学)取得。お茶の水女子大学助教を経て現職。
   サイエンスメンタープログラムでメンターとして高校生を指導。


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熊澤有紗さん(お茶の水女子大学3年生)

サイエンスメンタープログラム当時の情報
   研究期間:2018.9 - 2019.8
   研究課題:「粘菌は菌類と共生出来るのか」
   学 校 名:東京農業大学第一高等学校
   メンター:出川洋介先生(筑波大学 生命環境系 准教授)

三宅先生・熊澤さんありがとうございました!!

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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 15:47 | サイエンスコミュニケーション | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
研究者コラム(3)気象・物理学者 森 厚先生 [2023年07月20日(Thu)]

 研究者コラム第3回は気象・物理学者の森厚先生、インタビューアーは右田亜朗さんです。大学生になったサイエンスメンタープログラムのOB・OGが、研究者にインタビューして、研究者を紹介したコラムです。研究者についてもっと知りたい方必見です!

桜美林大学 森厚教授 インタビュー
〜世界の広げ方〜

右田 亜朗(早稲田大学大学院2年生※取材当時)
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左:森先生 右:右田さん

 NHKの番組『ピタゴラスイッチ』を見たことがあるだろう。しかしこの番組で涙が出そうになる人は珍しいかもしれない。桜美林大学の森厚教授が自身の体験も交えつつ、そこに感じとった「世界の広げ方」を語った。


1 好きなことを見つけなくてもいい
 
 「あらかじめ強調しておきたいことがある」と、森教授は話を切りだした。
「世の中“好きなことをやればいい”とよく言われている。けれども“私、好きなことがない”という声もよく聞く。やりたいことが見つからないとか、自分にとって何がおもしろいのか分からないとか。それを罪悪感のように感じている人がいる気がする」。
大学で教えている学生にも、そういう人がたくさんいるという。大学院生の筆者のまわりでもよく耳にする。
 どうやって好きなことを見つければよいのか。普通はそう考えてしまう。しかし森教授のたどりついた答えは“好きなことを見つけなくてもいい”だった。その代わり、自分の経験にいとおしさを感じることが重要と話す。
「好きなことがあるのももちろんよい。しかし好きなことが見つからないから自分はダメだとか、将来を決められないというのはすこし違う。好きなことは必ずしもすぐ見つかるわけではない。何が好きかはっきりしなくても、それが普通だしよいではないか。何か好きなことを見つけようというより、自分の行動や経験に愛着を持つというほうが正しい表現に思える。たとえ最初は好きではなくても、何かやったことに対し“自分はこれをやったんだ”と思えることが大事」。
 もちろん森教授にもそうした経験があり、いま愛着を持って仕事ができていると話す。そのひとつ、研究者の職業の魅力を感じたという研究での体験を聞いた。


2 朱に交われば赤くなる

 「北極振動」という現象がある。北極と日本などの地域の気圧が、まるでシーソーのように交互に変動する。日本の気候にも影響するので、最近は天気予報でも時折耳にするようになった。
 しかしこの現象には昔から論争が生じている。あたかも「北極振動」というものがあるかのように見えているが、じつは以前から知られていた「北大西洋振動」と「太平洋・北アメリカ振動」という別の現象が合わさっただけではないかというのである。
 どうすればそれを確かめられるのか? 森教授が疑問に思っていたちょうどその頃、隣の研究室の先生が偶然別の課題を口にした。「独立成分分析」を何かに応用できないか? 「独立成分分析」とは例えるなら、合唱の声から個人の歌声をそれぞれ分ける技術だ。森教授は「北極振動」に「独立成分分析」を使えるのではないかと考え、研究をはじめる。結果、「北極振動」は見かけ上の現象に過ぎないというものだった。のちにそれを論文で読んだ他大学の先生の指摘を受け、観点を変えて解析しなおし、実際の現象をより正確に再現できる結果も得た。
 いろいろな人とコミュニケーションを取り、より正解に近づくプロセスはおもしろい体験だったという。
「自分だけでは気付けない。やっぱりコミュニケーションは常に重要だ。人によって気付くところが違うし、以前に気が付いていたことでも、いつの間にか自分はそれを大事ではないと思っていることもある」。
 そんな森教授が科学者を目指したひとつのきっかけは、1982年、高校生のときに読んだ雑誌『図書』の記事にあった。当時はまだ目新しい気象衛星「ひまわり」が撮影した雲の様子の解説である。まるで地面の溝を空から眺めると絵だと分かるナスカの地上絵のように、地上からと宇宙からでは雲の様子も異なって見えるという話で、気象学に新たな視点が与えられた印象だったという。気象学に興味のあった森青年は感銘を受けた。
 そこで記事の文章と挿絵を手掛けた東京大学の木村龍治先生に手紙を出し、気象学を学べる大学を聞いた。すると各大学の先生の専門と研究内容を記した丁寧な返事をもらい、のちに大学院では木村先生のもとで学ぶこととなった。木村先生のさまざまなことに関心を持つ姿勢に大いに影響を受け、今でもお手本にしているそうだ。
 「このあいだのW杯でゴールを決めた、三笘選手と田中選手はおなじ小学校だった。朱に交われば赤くなる。お互いに磨き合えたり、この人と一緒にやっていけば自分も成長できるだろうという人を見つけたりして、積極的にコミュニケーションを取っていくと自分も伸びていく」。
 サイエンスメンター制度でメンターの先生に教わりながら、友人と切磋琢磨し研究していた著者にも大いに頷ける。出会いがもたらす人生への影響は小さくないと、改めて感じる。


3 世界の広げ方
 
 森教授が自身の講義『物理学概論』で紹介している歌がある。冒頭にすこし書いた、『ピタゴラスイッチ』で放送された「対応の歌」だ。
 歌そのものは極めて単純である。スイッチを押すと電気がつく。まな板に残ったへたの数を見ると、料理に使ったナスの数がわかる。そうした日常に見られる対応関係を並べている。しかし森教授の見方はそれだけにとどまらない。
 「番組を見たときに感動して涙が出そうになった。ふと気が付くと人間活動はみんな“対応”と関係している感じがする。あらゆるものがいちいち“対応”していて、それが組み合わさってコミュニケーションができ、学問が成立し、人間の知的活動につながっている」。
 いったいどういうことか。いくつか例を出して説明してもらった。たとえば、日本語の「犬」は英語の「dog」という言葉と“対応”することで、おなじ動物を指している。言葉だけでなく、すこしだけ数学にも話を広げてみよう。方程式になぜxやyの文字を使うのか。それは他のアルファベットの頭文字と重ならないよう、あえて無個性な文字を使うことで、xやyがさまざまなものと“対応”できるようにしているからだ。“対応”させるという発想があるからこそ、xやyは意味を持っている。
 もうひとつ例をあげよう。速さ、時間、距離を考えると、「速さ×時間=距離」という“対応”関係の公式を見いだせる。しかし“対応”はそれだけにとどまらない。さらに発展させれば比例という“対応”関係にも結びつく。応用の幅が広がる。これを森教授は「世界が広がる」と表現した。
「とりあえず公式に当てはめて解き、自信を持つのも大事なこと。しかし、それだけできればオーケーという雰囲気があるのは残念に思う。それで終わるのではなく、本当は勉強したことをさらに深めると、いろいろな“対応”があり発展がある。比例のような“対応”関係と結びつけて考えることができたりする。そうすればもっと世界が広がってくる。ひいては大きな枠組みで考え、人間の知的活動として自分のやっている勉強を位置付けたりすることができる」。
 こうした“対応”を理解する能力が人間には備わっているという。
「人間が自分を改善していくために備わっている本能として、“対応”がある。たとえば赤ちゃんは生まれたときにちゃんと自分の手を動かすことができない。何回も試行錯誤してこうしたら手が動くという経験を獲得しているはず。初めて『ママ』と言うのも、何度も失敗し偶然言えたときに母親が反応することで、『ママ』が“対応”していると気付く。そうやってパターンを身につける」。
 “対応”によって人間はさまざまなことを認知し、考え、探究することができる。じつはこれは科学の「仮説検証」の考え方そのものだ。
「本能的に人がやってきた“対応”を見つける試行錯誤を、ガリレオ・ガリレイは実験科学の方法として提示した。何か物事を見つけたとき、その裏にどんな法則(パターン)があるだろうかと仮説を立てる。そしてその仮説に基づいて実験で検証して確かめる。この流れを意識すると、モノの見方や生活の行動、さまざまなパターンを身につけて人生を変えることができる気がする。だからこの考え方を、改めてちゃんと言葉にして身につけておくのはすごく大事ではないか」。
 人間の知的活動の根本にある“対応”。今回話に出たのはそのほんの一部にすぎないだろう。たくさんの“対応”を知りパターンを身につけ、もっと世界の広がりを見る、広げていく。そのためにまず、本能的にやってきた「仮説検証」を意識するところから始めてみてはいかがだろうか? すこし人生が変わるかもしれない。
 最後に森教授の考える、ぜひとも身につけるべきパターンを伺った。
「時間管理。意外と人生は短い。この宿題は何分でやるという、そういうところから始まる時間管理を自分でできるようにしておくと、あまり後悔しない気がする」。

<おわり>

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森 厚 先生
所  属:桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授
専門分野:地球流体力学
経  歴:東京大学で博士(理学)取得。東京学芸大学教育学部地学科 助手、桜美林大学 准教授を経て現職。

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右田亜朗さん
(早稲田大学大学院 基幹理工学研究科 機械科学・航空宇宙専攻2年生※取材当時)
サイエンスメンタープログラム当時の情報
研究期間:2015.4 - 2016.3
研究課題:「裸眼での夜空の明るさ観測方法の確立」
学 校 名 :海城中学高等学校
メンター:渡部 潤一先生(国立天文台副台長教授、総合研究大学院大学物理科学研究科天文科学専攻教授)

森先生・右田さんありがとうございました!!


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研究者コラム(2)後編 地質学者 山口直文先生 [2023年07月03日(Mon)]

 本日のコラムは、山口先生のインタビュー後編です。大学生になったサイエンスメンタープログラムのOB鈴木さんが、前編に続き、山口先生のお話から、飛び込んでみなければわからない研究の世界をお伝えします。(前編はこちら眼鏡

 
「科学好き」と「科学者」の違いって何だろう?(後編)

鈴木泰我(筑波大学4年生)
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左:山口先生 右:鈴木さん


「困っちゃうなぁ」は素敵なこと

 科学者、特に職業としての研究者の問いの答えは、その時点でこの世に存在しないものが大半だ。ゆえに、明晰な研究者であろうと、研究中は常に「困って」いる。答えが分からない。あるいは答えに行き着く方針すらも立たない。だが、山口さんは「そういう『困っちゃうなぁ』という状況って素敵なんですよね」と笑って語る。予想のつく研究はもちろん成果が出やすい。しかし、予測のつかない、困ってしまうような研究こそ、研究者に必要な時もあるのだ。
 また、困ってしまう、手立てがない瞬間というのは、言い換えれば大人も子供もない、ということでもある。先生や親といった大人が用意した問を自分たち子供が解く、という上下のある構造とは根本的に違い、科学の問いの前では大人も子供も等しく困っている。こうした問いに直面したとき、プロの研究者は「答えに行き着くコツを持っていたり、考える筋力が強かったりする」ことはあるが、基本的には学生と対等の立場である、というのが山口さんの考えだ。
 情報過多の時代を生きる私たちにとって、わざわざ問いを立てて検証することは無駄に思えるかもしれない。多くの場合、検索すれば「答えらしきもの」は出てくる。それを繰り返すうちに、問うことそのものを止めてしまった人も沢山いるだろう。だが答えの出ている問いに疑問を見出すことは決して愚かでも、悪いことでもない。山口さんは「『無駄』を敬遠しないでほしい」と言う。車輪は何度再発明してもいいのだ。さぁ、「困っちゃう」まで問いを立て続けようじゃないか。


科学者として生きること

 科学者としてやっていくには何かに秀でていなくてはならない、ということは多くの人の想像するところだろう。確かに研究者インタビューを見れば途方もない読書量や何日も徹夜するバイタリティなどの超人的な要素が目立ってしまうものだ。しかし一般的な「研究者らしい」イメージ以外にも研究者に役立つ重要な能力は沢山ある。
 その中の一つにはプレゼンテーションの技術が挙げられる。ここでいうプレゼン技術とは、ステージに上がって上手に振る舞うことではなく、自分の伝えたい内容を論理的に伝える技術のことだ。科学者にとって成果を発表することは研究そのものと同じくらい重要だ。相手に伝えられなければ研究成果としてみなされず、「なかったこと」になってしまう。
 山口さんは、最も言いたいことが伝わらないとき、「それは必ずしも内容が悪いわけではなく、そこに至るまでの説明で、必要な文脈を説明しきれていない場合がある」と言う。このことは研究のプレゼンだけではなく、レポートや小論文、メール一通に至るまでさまざまな媒体に通用する話だ。


科学の『競争』

 研究に「頭の回転の速さが全てではない」と山口さんは言う。舌鋒鋭く切り返す会話は確かに端から見ていて頭がよさそうに見えるだろう。しかし、時間がかかろうとも素晴らしい成果を生み出すことができる科学者もいる。科学者の評価は基本的に「最終成果物」であり、そこに至るやり方は人それぞれだ。
 従って、科学者に必要なものはある特定の能力がずば抜けていることではなく、その人にしかない能力の組み合わせだ。同じ分野に取り組んでいても、得手不得手の異なる研究者によって多様な研究が生まれる。
 山口さんのお話を伺っていると、研究者として生きていく上では「自分自身に向き合うこと」が大切で、「他人より優れた能力を獲得すること」などは二の次なのではないかと感じた。山口さんの動機は「研究そのものよりも、見つけた何かを人に伝えたい、びっくりさせたい」という思いにある。幼いころに憧れたNHKスペシャルの世界がずっと心に残っているのだ(一度は本当に就職を考えNHKの方に話を聞きに行ったそうだ) 。研究の動機は人それぞれでよい。自分の『好き』にあった研究に向き合うことが何よりも大切なのだ。
<おわり>

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山口直文先生
所属:茨城大学 地球・地域環境共創機構 講師
専門分野:地質学
経歴:京都大学大学院で博士(理学)取得。その後、日本学術振興会特別研究員、
産業技術総合研究所 地質調査総合センター特別研究員、茨城大学 広域水圏環境科学教育
研究センター助教を経て現職。サイエンスメンタープログラムメンター(2020年)。

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鈴木泰我さん(筑波大学 生命環境学群 地球学類4年生※取材当時の所属)
サイエンスメンタープログラム当時の情報
研究期間:2017.9 - 2018.8
研究課題:「東京都新宿区立おとめ山公園内湧水周辺の地下水面及び地下水の挙動の分析」
学校名:海城高等学校
メンター:松山洋先生(首都大学東京 都市環境科学研究科 教授)


山口先生・鈴木さんありがとうございました!!

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研究者コラム(2)前編 地質学者 山口直文先生 [2023年06月16日(Fri)]
 
 研究者コラム第2回は地質学者の山口直文先生、インタビューアーは鈴木泰我さんです。
大学生になったサイエンスメンタープログラムのOB・OGが、研究者にインタビューして、研究者を紹介したコラムです。研究者についてもっと知りたい方必見です!

「科学好き」と「科学者」の違いって何だろう?(前編)

鈴木泰我(筑波大学4年生)
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左:山口先生 右:鈴木さん

イントロ

 「科学好きと科学者の違いはどこにあるだろう?」とか、「科学好きは、一体どうすれば科学者になれるのだろうか?」、あるいは「科学者になれる才能がある気はしないけど、じゃあそもそも科学者の才能ってなんだ?」といった疑問を、あなたは抱いたことがあるだろうか。研究という世界には、飛び込んでみなければ分からないことがたくさんある。
 でも、分からないからと言って諦めるには、科学の光はあまりにも眩しい。
この記事では、そんなあなたと同じ目線で、科学の世界を歩いている研究者を紹介したい。このコラムで少しでも、あなたの前に広がる科学の道が照らされれば幸いだ。


「地味なのに複雑」
 
 山口直文さんは現在、茨城大学 地球・地域環境共創機構(水圏環境フィールドステーション)で講師を務める地質学の研究者だ。専門は堆積学と呼ばれる分野で、主に水中で地層が形成されるプロセスについて研究している。例えば砂浜には整列した波模様が見られることがあるが、堆積学では「リップルマーク」と呼ばれる立派な研究対象だ。
 山口先生のフィールドは浅い海から湖まで幅広く、茨城県が誇る湖沼面積日本第二位の霞ヶ浦もその一つだ。とはいっても、地元の茨城県民からすれば比較的身近な存在であり、一般的に研究という言葉からくるものものしいイメージとは離れているかもしれない。だが、山口先生は身近で地味なものに面白さを見出せることこそ醍醐(ルビ:だいご)味だという。堆積学の目を通じてみれば、味気ない地面が興味深い絶景に変わることもある。地味な見た目の奥に潜む複雑なプロセスを一つ一つ探り当てる作業は、科学的探究心をそそる行為だろう。

得意になるのは後でいい。
何なら好きになるのも後でいい。

 学生時代の山口さんはごく一般的な科学好きの少年だった。幼いころにNHKスペシャルで科学の世界に触れ、高校も理系を選択し、大学では理学部に進学した。一方で高校科目としての理科は苦手ではなかったものの、飛びぬけて得意で大好きな科目だった訳ではない。科学分野を志したことと、理科科目でほどほどの点数が取れたことについて「単にラッキーだった」と山口さんは振り返る。高校の科目はあくまで一つの枠組みでしかなく、その得手不得手で自分の興味を推し量ることはもったいない。「得意」と「興味」が一致している必要はないのだ。最も重要な事は「苦手意識を持たない」ことだと山口さんは語る。理科の点数が取れない、理科を好きになれないという気持ちと、より広い科学に憧れる気持ちは共存していい。


科学好きと科学者の違いとは?

 科学者と科学好きであることの違いについて、山口さんに面白いエピソードを伺った。山口さんの大学時代、ある授業でいわゆる化石マニアの人たちに出会ったそうだ。その人たちは早い段階から論文も読み漁り、化石についての知識を収集していた。しかし卒業研究の頃には、彼らの姿を化石どころか地球科学系のどこのゼミにも見なかったという。一方で、化石に限らず、山口さんの知り合いの研究者の中には、いわゆるマニアと言われるような人たちと比べて研究対象から一歩引いて見ている人もそれなりの割合でいるそうだ。どうやらマニアだから研究者になれるわけでも、マニアでないと研究者になれないわけでもないようだ。
 さて、科学者と科学好きの違いは何だろうか。山口さんによれば、その一つは「問い」を立てる、という行動にある。他人の用意した答えに納得するのではなく、どんなに単純なものでも自ら問いを立てること、それこそが科学者の入り口だ。いかに専門性の高い論文を読もうとも、その成果に感心するのみでは研究にはならない。しかし逆に考えれば、研究とは何かを極めてやっと始められる、というようなものではないとも言える。身構えず、自然に生まれた疑問を発すれば、あなたはもうスタートラインに立っている。あとは仮説を立て、信頼できる方法で一歩一歩仮説を検証していけば、それはあなたの研究だ。

<後編に続く>

山口先生.jpg
山口直文先生
所属:茨城大学 地球・地域環境共創機構 講師
専門分野:地質学
経歴:京都大学大学院で博士(理学)取得。その後、日本学術振興会特別研究員、
産業技術総合研究所 地質調査総合センター特別研究員、茨城大学 広域水圏環境科学教育
研究センター助教を経て現職。サイエンスメンタープログラムメンター(2020年)。


鈴木さん.jpg
鈴木泰我さん(筑波大学 生命環境学群 地球学類4年生※取材当時の所属)
サイエンスメンタープログラム当時の情報
研究期間:2017.9 - 2018.8
研究課題:「東京都新宿区立おとめ山公園内湧水周辺の地下水面及び地下水の挙動の分析」
学校名:海城高等学校
メンター:松山洋先生(首都大学東京 都市環境科学研究科 教授)

山口先生・鈴木さんありがとうございました!!

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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 08:00 | サイエンスコミュニケーション | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
研究者コラム(1) 有機化学研究者 米澤宣行先生 [2023年06月01日(Thu)]
 
 みなさんは、研究者とじっくり話したことがありますか?
 大学生になったサイエンスメンタープログラムのOB・OGが、研究者にインタビューして、研究者を紹介するコラムをお届けします。研究者についてもっと知りたい方必見です!
 第1回は有機化学者の米澤宣行先生、インタビューアーは石井辰美さんです。


「米澤先生の歩み」
石井辰美(中央大学4年生)
P1000635.JPG
左:米澤先生 右:石井さん


○紹介

 米澤先生は1955(昭和30)年に静岡で生まれ、有機化学を専門とされている。実は「化学」には大きく有機化学、物理化学、無機化学などの分野があり、中学や高校で学ぶ「化学」は、それらを広く浅く全体的な基本知識として学んでいるというわけだ。大学に入ってからそれぞれの分野を深く勉強することになるのでお楽しみに。
 米澤先生はそのうちの一つである有機化学という分野を扱っている。「有機化学ってなに?」と思ったみなさんのために簡単に説明すると、炭素原子と水素原子の結合を含む物質である有機物をいろいろ勉強する分野で、その研究の姿は、『実験室での実験』という、誰もが「The・化学」と思える風景を想像して貰えばよいかな、と私は考えている。世間に知られている、膨大な数の有機化学物質があるのだけれど、それらのさまざまな化学,反応・形・作り方などを扱うのだ。記念すべき第一回のコラムでは、そんな有機化学に取り組んできた米澤宣行先生を紹介しよう。


○育った環境、そして、科学との出会い

 米澤先生の生まれた当時の静岡市はとてものんびりとした環境だったという。物心ついた時の暖房器具は火鉢。調理の加熱器具はかまどと七輪を使っていたし、お風呂は薪で沸かしていた。その後の半世紀強、技術と社会生活は猛スピードで変化を遂げ、米澤先生はその変遷の目撃者であり、当事者でもあった。米澤少年はよく学研などの科学系の本を読み、図鑑などを見ながら実験を自分でやってみていたそうだ。そんな雰囲気の下で過ごしたからか、ごく自然に理科的、技術的な考え方を身につけたらしい。
 中学では文学や歴史が好きだったそうで、中央公論社の『日本の歴史』、『世界の歴史』それに加え、読売新聞社の『日本の歴史』、計60〜70冊ぐらいの歴史書を読破したそうな。これには私もびっくり仰天してしまった。しかし年数が覚えられずに、高校の日本史のテストでは赤点になってしまう点数を取ったこともあったそうだ。またまたびっくり仰天してしまった。
 高校では数学や物理でテストの点数は取れるものの、綺麗な論理だと納得のいくように解くことができず、能力がないと考えていた米澤青年。当時、親戚や高校の担任の先生には経済学部や法学部、医学部などを薦められたが、「この分野だったらもしかしてなんとかなるかな」と考えたのが化学だった米澤青年。こうして東京大学の理科一類から合成化学科へ進学することとなったのである。


○米澤先生の研究人生

 大学4年生の春、研究室に配属されて初めて研究に携わった米澤青年が卒業研究に選んだテーマは、当時人気のあった『人工酵素モデル』を作ることであった。ところが、このテーマに1年間取り組んだ感想として米澤青年は「いろんな実験技術や知識が全く身に付かなかった」と思ったそうな。考えた米澤青年は、次の修士課程のテーマとして『生分解性ポリマー』を作ることを選んだ。生体内で小さな分子に分解してそのまま吸収される手術用縫合糸のようなもの、といえばイメージしやすいだろうか。だが、やはり勉強不足だと感じた米澤青年は博士課程でなんと基礎有機化学分野にテーマを変えてしまう。米澤先生曰く、「それまでが周りから見てよさそうだという分野を選んでしまって大変後悔した」。その後、助手 (現在の助教) として4年間過ごした後に企業へ転職、再び大学の助手、そしてさまざまな出会いや経験を経て東京農工大学の教授となった。
 東京農工大学の教授に就く頃までは企業在籍時の開発対象であったフェノール樹脂から展開して,硫黄を含まない、炭素,水素,酸素の三つの元素のみで超高性能という金属材料並みに強い性質の有機物質であるエンジニアリングポリマーを作ることに挑戦。困難さを楽しみつつ仕事を進めていったのだけど,ある時、この芳香族のポリマーは、植物の構造を支えていた物質が黒鉛、石炭に変化していく過程という、自然界の物質・元素循環の中の途中の形なのだと米澤先生には思い浮かんできた。この物質が変化していく過程の途中で人間が少しの間それを利用し,気配りしながら元の流れに戻すということができれば物質の循環への影響を小さくした利用が可能かもしれないと考えた米澤先生は、有機化学の中でも有機構造化学とそれと関係づけた有機反応化学を専門とすることに。そしてそれが、大学教授を退職するまでの仕事となったのであった。東京農工大学で研究室を引き継いだ岡本昭子先生と共同での論文作成を現在も継続中だ。


○研究者を目指すにあたって

 「大切なことは、『仕方がない』とは言わないこと」と米澤先生はおっしゃった。「仕方がない」と口にすることで自分を満足、納得させてしまってはいけない、という意味だ。追究することが大切なのかな、と私は考えたのだがそうではなく、「自分に見えていないものがきっとあるから、違う意見の考え方を謙虚に聴いてみよう」という姿勢が必要だそうだ。
 このことを私自身に置き換えてみると、私も研究室では先輩の話は素直になんでも聴くようにしている。「普通は先輩の言うことは聴くでしょ」と思うかもしれないが、自分の性格もあって素直に聴けない時期があったのだ。しかし、先輩が言っていることはやはり正しいことの方が多い。意見が衝突してしまっても、素直に聴くことで冷静に自分の考え方と比較でき、新たな知見を得ることができる。謙虚な姿勢は大切である。


○読者の皆さんへ向けて

 最後に、米澤先生から皆さんへ向けてメッセージをいただいた。
 「基礎ができていないと、何が新しいのか、違うように見えるけれど本質は同じことということ、わからない。そして、現在『揺るぎない法則』だとされて教わっているものが、突き詰めたらどういう意味をもつものかを理解した上で、それぞれに違った立場で対応することが重要だと思います。そのためにはやっぱり基礎を学ぶ。基礎を学ぶためには今置かれている状況でできる範囲の最も上の水準の研究を行って、同時に歴史からも学ぶ。過去の人達が来た道、それからサイエンティフィックには何が本筋で本質なのかということを見極める姿勢をみんなが採って、化学の世界と同様、うまく共和国的に共存していくことが必要なのかな。若い人には勉強と研究をコツコツと続けていってもらいたいと思います。」


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米澤宣行先生
所属:元公益社団法人日本作業環境測定協会専務理事
専門分野:有機化学
経歴:東京大学で工学博士取得。その後東京大学助手、日本鋼管(株)主任研究員、群馬大学助教授、東京農工大学・大学院教授、公益社団法人日本作業環境測定協会専務理事を歴任。日本化学会功労賞・化学教育賞受賞(2013)。現在、サイエンスメンタープログラム事業委員。

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石井辰美さん(中央大学理工学部応用化学科4年生※インタビュー当時)
サイエンスメンタープログラム当時の情報
研究期間:2017.9 - 2018.8
研究課題:「箱根火山について」
学校名:神奈川県立神奈川総合高等学校
メンター:斎藤靖二先生(神奈川県立 生命の星・地球博物館 名誉館長)

米澤先生・石井さんありがとうございました!!

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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:00 | サイエンスコミュニケーション | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)