先輩研究者のご紹介 村上 千明さん
[2026年06月19日(Fri)]
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2023年度「新タイプの哺乳類ホスホリパーゼC酵素群の発見と機能解析
−ジアシルグリセロール代謝の新機軸−」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、愛知県がんセンター研究所・研究員(助成時:千葉大学国際高等研究基幹・特任助教)の村上千明さんからのお話をお届けします。
<村上さんより>
私の研究対象は「脂質代謝」です。脂質は栄養素として利用されるだけではなく、細胞の内と外を隔てる細胞膜の主成分であり、生理的機能(代謝、免疫、神経伝達等)を調節する重要な役割を担うものもあります。私はそのような脂質の1種である「ジアシルグリセロール(DG)」の代謝に注目して研究を行っています。DGを作る酵素(タンパク質)の1種としてホスホリパーゼC(PLC)が知られています(図1)。現在までに発見された哺乳類のPLCは特定のリン脂質(PIP 2 )しかDGを作る反応の材料(基質)に用いません。一方、哺乳類には他のリン脂質を基質とする別種のPLCの存在が予想されており、多様なDGの代謝経路が存在する可能性があります。しかし、どのタンパク質がその働きを担っているのか長年不明でした。特にリン脂質のPCやPEを基質とするPLCの酵素活性の上昇が動脈硬化症や免疫応答に関係することが報告されていますが、どのタンパク質がその酵素活性を担うのか分かっていないことから、生体内における詳細な機能の解析ができずにいました。
私はDG代謝酵素の研究を進める中で、未知のPLCの探索に取り組み、新タイプの哺乳類PLCを発見しました。さらに、発見した新規PLCと類似したアミノ酸配列を持つタンパク質中から別種のPLCを複数発見しました(参考文献参照)。これらの一連の研究成果によって、国際生化学分子生物学連合(IUBMB)の管理する国際的な酵素データベースに、新たな哺乳類PLCが約40年ぶりに正式に登録されました。今後は、発見した新規PLC酵素群がどのような生命現象に関与するのかを明らかにすることを目標に研究を続けていきます。
参考文献・情報 (*, 責任著者; #, co-first author)
1. IUBMBに登録された新規PLC(酵素番号EC 3.1.4.62, 2024年登録承認)URL:https://enzyme.expasy.org/EC/3.1.4.62
2. Murakami C.* et al: Human PHOSPHO1 exhibits phosphatidylcholine‐ and phosphatidylethanolamine‐phospholipase C activities and interacts with diacylglycerol kinase δ. FEBS Letters,599, 1169-1186 (2025)
3. Murakami C.* et al: Multiple activities of sphingomyelin synthase 2 generate saturated fatty acid- and/or monounsaturated fatty acid-containing diacylglycerol. Journal of Biological Chemistry, 300, 107960 (2024)
4. Suzuki, R.#, Murakami C.#, * et al. Human sphingomyelin synthase 1 generates diacylglycerol in the presence and absence of ceramide via multiple enzymatic activities. FEBS Letters 597 2672–2686 (2023)
5. Furuta M. #, Murakami C.#, * et al. Diacylglycerol kinase ζ interacts with sphingomyelin synthase 1 and sphingomyelin synthase-related protein via different regions. FEBS Open Bio 13 1333-1345 (2023)
【申請を検討されている方へ】
笹川科学研究助成との縁は学生時代に始まります。学部4年生(2015年応募、当時は郵送申請)の時から何度も応募し、不採択通知にあった審査コメントを読みながら申請書を書き直す日々でした。博士課程進学時(2018年度採択、この年から電子申請に移行しました)に初めて採択され、私の人生初の研究助成金となりました(その後、特別研究員DC1採用のため辞退)。当時は未知のPLCの発見の糸口も掴めずに博士課程へ進学する私にとって、大きな励みとなりました。
その後、学位取得後に任期付きの教員になった際に再び採択されました(2023年度採択)。当時は任期付きでしたが、独立した研究者として複数の学生と技術補佐員で研究チームを立ち上げ、本研究に取り組んでいました。笹川科学研究助成をきっかけに始めた研究から、学生が筆頭著者の原著論文(文献4、5、他2報投稿中)、国際学会や国内学会の発表が生まれ、指導学生が日本生化学会の若手優秀発表賞を受賞しました。また、一緒にプロジェクトを進めた技術補佐員は、本研究から発展させた研究成果を基に論文博士を申請する予定です。このように、本研究を通じて多くの学生・スタッフが成長する機会を提供することができました。
笹川科学研究助成の採択研究課題の多くは大学院生が提案したものです。私のように、任期付きの教員が助成金を活用することによって、時間的な制約があっても人材の育成や新たな挑戦への後押しに繋げることもできます。学生時代の採択とは違った立場で再びご縁が巡ってきたことを深く感謝しています。
笹川科学研究助成金は35歳以下なら申請可能です(詳細は募集要項をご確認ください)。若手の任期付き教員も、大きな志を持ってチームで研究を発展させ、後進の育成にもつながる研究構想をご提案いただけたら幸いです。いつの日か、笹川科学研究助成の採択者の同窓としてお会いできることを楽しみにしています。
日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2023年度「新タイプの哺乳類ホスホリパーゼC酵素群の発見と機能解析
−ジアシルグリセロール代謝の新機軸−」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、愛知県がんセンター研究所・研究員(助成時:千葉大学国際高等研究基幹・特任助教)の村上千明さんからのお話をお届けします。
<村上さんより>
私の研究対象は「脂質代謝」です。脂質は栄養素として利用されるだけではなく、細胞の内と外を隔てる細胞膜の主成分であり、生理的機能(代謝、免疫、神経伝達等)を調節する重要な役割を担うものもあります。私はそのような脂質の1種である「ジアシルグリセロール(DG)」の代謝に注目して研究を行っています。DGを作る酵素(タンパク質)の1種としてホスホリパーゼC(PLC)が知られています(図1)。現在までに発見された哺乳類のPLCは特定のリン脂質(PIP 2 )しかDGを作る反応の材料(基質)に用いません。一方、哺乳類には他のリン脂質を基質とする別種のPLCの存在が予想されており、多様なDGの代謝経路が存在する可能性があります。しかし、どのタンパク質がその働きを担っているのか長年不明でした。特にリン脂質のPCやPEを基質とするPLCの酵素活性の上昇が動脈硬化症や免疫応答に関係することが報告されていますが、どのタンパク質がその酵素活性を担うのか分かっていないことから、生体内における詳細な機能の解析ができずにいました。
私はDG代謝酵素の研究を進める中で、未知のPLCの探索に取り組み、新タイプの哺乳類PLCを発見しました。さらに、発見した新規PLCと類似したアミノ酸配列を持つタンパク質中から別種のPLCを複数発見しました(参考文献参照)。これらの一連の研究成果によって、国際生化学分子生物学連合(IUBMB)の管理する国際的な酵素データベースに、新たな哺乳類PLCが約40年ぶりに正式に登録されました。今後は、発見した新規PLC酵素群がどのような生命現象に関与するのかを明らかにすることを目標に研究を続けていきます。
図1 ホスホリパーゼCとリン脂質
参考文献・情報 (*, 責任著者; #, co-first author)
1. IUBMBに登録された新規PLC(酵素番号EC 3.1.4.62, 2024年登録承認)URL:https://enzyme.expasy.org/EC/3.1.4.62
2. Murakami C.* et al: Human PHOSPHO1 exhibits phosphatidylcholine‐ and phosphatidylethanolamine‐phospholipase C activities and interacts with diacylglycerol kinase δ. FEBS Letters,599, 1169-1186 (2025)
3. Murakami C.* et al: Multiple activities of sphingomyelin synthase 2 generate saturated fatty acid- and/or monounsaturated fatty acid-containing diacylglycerol. Journal of Biological Chemistry, 300, 107960 (2024)
4. Suzuki, R.#, Murakami C.#, * et al. Human sphingomyelin synthase 1 generates diacylglycerol in the presence and absence of ceramide via multiple enzymatic activities. FEBS Letters 597 2672–2686 (2023)
5. Furuta M. #, Murakami C.#, * et al. Diacylglycerol kinase ζ interacts with sphingomyelin synthase 1 and sphingomyelin synthase-related protein via different regions. FEBS Open Bio 13 1333-1345 (2023)
【申請を検討されている方へ】
笹川科学研究助成との縁は学生時代に始まります。学部4年生(2015年応募、当時は郵送申請)の時から何度も応募し、不採択通知にあった審査コメントを読みながら申請書を書き直す日々でした。博士課程進学時(2018年度採択、この年から電子申請に移行しました)に初めて採択され、私の人生初の研究助成金となりました(その後、特別研究員DC1採用のため辞退)。当時は未知のPLCの発見の糸口も掴めずに博士課程へ進学する私にとって、大きな励みとなりました。
その後、学位取得後に任期付きの教員になった際に再び採択されました(2023年度採択)。当時は任期付きでしたが、独立した研究者として複数の学生と技術補佐員で研究チームを立ち上げ、本研究に取り組んでいました。笹川科学研究助成をきっかけに始めた研究から、学生が筆頭著者の原著論文(文献4、5、他2報投稿中)、国際学会や国内学会の発表が生まれ、指導学生が日本生化学会の若手優秀発表賞を受賞しました。また、一緒にプロジェクトを進めた技術補佐員は、本研究から発展させた研究成果を基に論文博士を申請する予定です。このように、本研究を通じて多くの学生・スタッフが成長する機会を提供することができました。
笹川科学研究助成の採択研究課題の多くは大学院生が提案したものです。私のように、任期付きの教員が助成金を活用することによって、時間的な制約があっても人材の育成や新たな挑戦への後押しに繋げることもできます。学生時代の採択とは違った立場で再びご縁が巡ってきたことを深く感謝しています。
笹川科学研究助成金は35歳以下なら申請可能です(詳細は募集要項をご確認ください)。若手の任期付き教員も、大きな志を持ってチームで研究を発展させ、後進の育成にもつながる研究構想をご提案いただけたら幸いです。いつの日か、笹川科学研究助成の採択者の同窓としてお会いできることを楽しみにしています。
図2 助成終了後に本研究に関して複数の団体から表彰されました。家族も増えました。
<以上>
日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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