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先輩研究者のご紹介 池田 颯希さん [2025年07月28日(Mon)]
こんにちは。科学振興チームです。
 本日は、2023年度「コケ食ダニの多様性と進化:コケ食の起源と寄主利用パターンの究明」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、京都大学大学院理学研究科の池田 颯希さんからのお話をお届けします。

<池田さんより>
 ダニ類は、生命が存続できるあらゆる環境に生息するといえるかもしれません。例えば、南極の氷上で藻類を食べているダニ類もいれば、人間の眉毛の毛包に生息するダニ類もいます。私は、ダニ類の多様性がどこまで及んでいて、それがいかにして生まれたのかという点に興味を持ち研究しています。
 これまでに取り組んできた課題は、コケ植物のみを食べて生きるダニ類の自然史を明らかにするというものです。以下に、研究の概要を記します。
 コケ植物は、セン類、タイ類、ツノゴケ類の3つのグループからなる陸上植物です。植物体は小さく、野外ではそれぞれが密に集合して、しばしばコロニーを形成します。多くの節足動物がそれを住処として利用しますが、餌とする分類群は極めて稀と考えられています。ただし、近年ではコケ食性昆虫の発見が相次いでおり、そこに潜む未知の多様性が窺えます。
 マルヒシダニ属(汎ケダニ目:ナガヒシダニ科)は、体長0.5 mmほどの赤いダニ類です。世界から約140種が既知で、その分布域は南極大陸を除く全ての生物地理区に及びます。約半世紀前、北アメリカでの調査にて、本属のうち4種がセン類専食性であることが確かめられました。この発見はダニ学の枠を超え注目されてきましたが、続く研究はほとんど無く、他にどのくらいセン類食性種がいるのか、セン類といかにして関わるのかといった問いは未解決のままでした。

写真1.JPG
〈写真1〉セン類のコロニー(徳島県)


 そこで本研究では、西日本を中心に大規模な野外調査を行いました。その結果、36地点から10種のセン類食性種を発見しました(Ikeda et al. 2024a)。分子・形態形質に基づき分類学的な検討を行ったところ、全てが日本未記録種であると分かりました。そのうち2種は新種で、2種は極東ロシアとの共通種、1種は全北区に広域分布する種であったと報告しました(Ikeda et al. 2024b, 2025)。セン類食性種の食草利用についても興味深い結果が得られました。食草記録が十分に集まった4種のうち3種は、広範で重複した分布域をもつにも関わらず、互いに異なる系統のセン類を餌とする傾向がありました。残りの1種は、幅広い系統のセン類を食べる広食性であると推察されました。こうした成果等により、セン類食性種の見過ごされていた多様性を明らかにし、その進化史に初めて光を当てました。

写真2.jpg

 〈写真2〉(a) ネズミノオマルヒシダニ [Ikeda et al. (2024b) で新種として記載]。
       (b) ヤスリマルヒシダニ [Ikeda et al. (2025) で新種として記載]。
       スケールバーは0.1 mm。


 笹川科学研究助成は、学部生でも応募できる数少ない研究助成金の一つです。大学院進学に伴い研究室を変えた私にとって、修士一年時から自身の研究予算がある状況はとても励みになりました。また、早い段階で申請書執筆や助成金の管理を経験できたことは、その後の研究生活を支える糧になりました。助成期間中は、研究計画・予算変更にも柔軟に対応頂けたので、研究に最大限専念できました。本助成金への申請を検討されている皆様におかれましては、是非チャレンジしてほしいと思います。


参考文献
Satsuki Ikeda, Yuya Inoue, Yume Imada. 2024a. Unveiled species diversity of moss-feeding mites (Stigmaeidae: Eustigmaeus): a research on their distribution, habitat, and host plant use in Japan. Experimental and Applied Acarology. 93(4):721–741. DOI: 10.1007/s10493-024-00954-z.

Satsuki Ikeda, Yume Imada, Takafumi Nakano. 2024b. A new species of the genus Eustigmaeus (Trombidiformes: Prostigmata: Stigmaeidae) and the first record of E. extremiorientalis in Japan. Zootaxa. 5538 (3): 233–246. DOI: 10.11646/zootaxa.5538.3.2.

Satsuki Ikeda, Yume Imada, Takafumi Nakano. 2025. A new species of Eustigmaeus (Prostigmata: Stigmaeidae) and the first records of two congeners, E. pseudolacunus and E. rhodomelus, from Japan. Systematic and Applied Acarology. 30(4):664–680. DOI: https://doi.org/10.11158/saa.30.4.3

<以上>


 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 10:26 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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