先輩研究者のご紹介 上村 知春さん
[2024年09月24日(Tue)]
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2022年度「エチオピア正教徒の食実践をめぐるローカルな健やかさの民族誌的研究」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、立命館大学・日本学術振興会特別研究員CPDの上村知春さんからのお話をお届けします。
<上村さんより>
はじめに、研究活動をご支援くださった貴財団に、心より感謝申し上げます。
わたしは、エチオピアのキリスト教コミュニティにて人びとの宗教生活を民族誌的に調査することを通じて、食と人間の関係を探究しています。
エチオピアでは、人口の4割以上がエチオピア正統テワヒド教会(一般には「エチオピア正教会」として知られています)というキリスト教会に属しています。わたしがフィールドワークをしてきたコミュニティの人びとは、この教会の信徒です。
サブサハラ・アフリカの国としては珍しく、エチオピアは、古代からキリスト教会と密接な結びつきをもってきました。はやくも4世紀に北部の王がキリスト教に改宗するという出来事があり、それがその後のエチオピアのなりたちに大きな影響を与えたのですが、キリスト教会自体もまた、地域社会の風土のなかで独自に発展してきました。エチオピア正教会は、その長い歴史的なプロセスを経て現代のエチオピアに息づくキリスト教会です。
エチオピア正教会と食といってまずとりあげなければならないのは「断食」でしょう。というのも、この教会では、一般信徒が1年のうちの180日前後を断食して過ごすのです。個々の断食の時期と期間にはばらつきがありますが、代表的なものにはたとえば、毎週水曜日と金曜日の断食や、長く厳しいイースター前の55日間断食などがあります。その内容は、原則として断食日前日の午後10時から当日の午後3時まで一切の飲食を慎むことと、断食日には動物性の食品を摂取しないことです。時間の規則は比較的緩やかにとらえられており、人によってあるいは状況によっては、昼頃に最初の食事をとることもありますが、飲食物の内容に関する規則は大半の信徒がしっかり守ります。
わたしはこれまで、こうした食の規範にしたがって生活を営む人たちの間でフィールドワークをおこなってきました。そのなかで、食べることと食べないことがいかに人びとの宗教心、人間関係や社会関係に影響を与えるのかを明らかにしてきました。とくに、宗教上重要な意味をもつ儀礼だけでなく、平凡な日々の活動−−農作業や毎日の食事づくりなど−−も儀礼と同様の重きをおいて調査するアプローチをとることによって、信仰心をもつ人びとが、日常のなかでいかに食と関わりながら現代を生きていくのかを考察しています。
わたしは、修士課程の調査でエチオピアに通い始めた2010年から、キリスト教徒と食の関係に関心を抱きつづけてきました。修士の学生の頃は別の分野で研究に携わっていたのですが、フィールドワーク中に周囲の信徒たちが頻繁にそして熱心に断食する姿を目のあたりにし、この人びとの宗教生活には食が深く関わっていること、それが生きる上での最重要事項であることに気づいていきました。
ですが、この関心を自らの研究の主題に据えることができるようになるまでには、かなりの時間を要しました。笹川科学研究助成は、キリスト教徒と食の関係を題目に掲げて採用されたはじめての競争的資金です。本研究助成に採択していただいたことで、自らの研究方針に自信をもつことができるようになりました。今年の夏からは、これまでの成果を土台にして研究をさらに深めるため、ボストン大学の客員研究員として、あらたな環境で研究活動を開始しています。
わたしは、本助成の申請書作成作業を通じて、博士後期課程修了後の研究の道筋をたてることができました。読む人の立場にたって申請書を書くことは、研究計画を練り直すことにつながると思います。申請を検討していらっしゃる方は、ぜひ挑戦してください。
研究活動を継続するうえで重要な助成を賜りましたことに、重ねて御礼申し上げます。まことに、ありがとうございました。
日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2022年度「エチオピア正教徒の食実践をめぐるローカルな健やかさの民族誌的研究」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、立命館大学・日本学術振興会特別研究員CPDの上村知春さんからのお話をお届けします。
<上村さんより>
はじめに、研究活動をご支援くださった貴財団に、心より感謝申し上げます。
わたしは、エチオピアのキリスト教コミュニティにて人びとの宗教生活を民族誌的に調査することを通じて、食と人間の関係を探究しています。
エチオピアでは、人口の4割以上がエチオピア正統テワヒド教会(一般には「エチオピア正教会」として知られています)というキリスト教会に属しています。わたしがフィールドワークをしてきたコミュニティの人びとは、この教会の信徒です。
サブサハラ・アフリカの国としては珍しく、エチオピアは、古代からキリスト教会と密接な結びつきをもってきました。はやくも4世紀に北部の王がキリスト教に改宗するという出来事があり、それがその後のエチオピアのなりたちに大きな影響を与えたのですが、キリスト教会自体もまた、地域社会の風土のなかで独自に発展してきました。エチオピア正教会は、その長い歴史的なプロセスを経て現代のエチオピアに息づくキリスト教会です。
エチオピア正教会と食といってまずとりあげなければならないのは「断食」でしょう。というのも、この教会では、一般信徒が1年のうちの180日前後を断食して過ごすのです。個々の断食の時期と期間にはばらつきがありますが、代表的なものにはたとえば、毎週水曜日と金曜日の断食や、長く厳しいイースター前の55日間断食などがあります。その内容は、原則として断食日前日の午後10時から当日の午後3時まで一切の飲食を慎むことと、断食日には動物性の食品を摂取しないことです。時間の規則は比較的緩やかにとらえられており、人によってあるいは状況によっては、昼頃に最初の食事をとることもありますが、飲食物の内容に関する規則は大半の信徒がしっかり守ります。
わたしはこれまで、こうした食の規範にしたがって生活を営む人たちの間でフィールドワークをおこなってきました。そのなかで、食べることと食べないことがいかに人びとの宗教心、人間関係や社会関係に影響を与えるのかを明らかにしてきました。とくに、宗教上重要な意味をもつ儀礼だけでなく、平凡な日々の活動−−農作業や毎日の食事づくりなど−−も儀礼と同様の重きをおいて調査するアプローチをとることによって、信仰心をもつ人びとが、日常のなかでいかに食と関わりながら現代を生きていくのかを考察しています。
わたしは、修士課程の調査でエチオピアに通い始めた2010年から、キリスト教徒と食の関係に関心を抱きつづけてきました。修士の学生の頃は別の分野で研究に携わっていたのですが、フィールドワーク中に周囲の信徒たちが頻繁にそして熱心に断食する姿を目のあたりにし、この人びとの宗教生活には食が深く関わっていること、それが生きる上での最重要事項であることに気づいていきました。
ですが、この関心を自らの研究の主題に据えることができるようになるまでには、かなりの時間を要しました。笹川科学研究助成は、キリスト教徒と食の関係を題目に掲げて採用されたはじめての競争的資金です。本研究助成に採択していただいたことで、自らの研究方針に自信をもつことができるようになりました。今年の夏からは、これまでの成果を土台にして研究をさらに深めるため、ボストン大学の客員研究員として、あらたな環境で研究活動を開始しています。
わたしは、本助成の申請書作成作業を通じて、博士後期課程修了後の研究の道筋をたてることができました。読む人の立場にたって申請書を書くことは、研究計画を練り直すことにつながると思います。申請を検討していらっしゃる方は、ぜひ挑戦してください。
研究活動を継続するうえで重要な助成を賜りましたことに、重ねて御礼申し上げます。まことに、ありがとうございました。
<以上>
日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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