先輩研究者のご紹介 細木 拓也さん
[2024年08月20日(Tue)]
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2022年度「東北震災後に出現したトゲウオ集団における交雑後も二種の遺伝的分化が維持される機構」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、国立遺伝学研究所の細木 拓也さんからのお話をお届けします。
<細木さんより>
最初に、本課題のご支援に深く感謝申し上げます。これまで私は、いかに種がうまれ、維持され、消失するのか、に興味を置き、研究を進めてきました。地球上に存在する多様な生物は、繰り返す種分化によって生じており、したがって、生命を理解する上で種分化のメカニズムを解き明かすことが重要な鍵と考えているためです。近年、我々を含め、多くの生物のゲノム上から“2つの種が交雑を経験した痕跡”が次々と同定されてきました。大変興味深いことに、同定されてきた“交雑の痕跡”はゲノム上の局所的な領域に限られており、ゲノムが一度混合した後も遺伝的に異なる種が維持されてきたことを意味しています。では、どれほどの速さで、交雑後に遺伝的分化が再構成されるのでしょうか。混合したゲノムを再構成する要因は何でしょうか。これらの問いは、種を完成に導く要因を追究する上で重要な鍵となりうります。
この度のご支援により、東日本大震災によって誕生したトゲウオ雑種集団のゲノムの変化を観察することから上述の問いを追究する機会を得ました。まず、2011年の津波後、ガレキのなかに形成された湿地で、ニホンイトヨとイトヨ淡水型が交雑したことがわかりました。さらに、津波から10年かけ、混合したゲノムが再構成されて片方の種に回帰することがわかりました。陸海さまざまな場所に建てた野外実験系から、混合したゲノムを再構成する要因に迫ることもできました。これらの評価はまだ論文としては未発表ではありますが、国際会議で高く評価いただきました。
Best presentation, Selected talk, and Travel award, The Gordon Research Conference Speciation 2023(ゴードン会議にて、最優秀賞/特筆すべき発表として選出/旅費支援の三点を同時に受賞)
現在、私は北海道大学苫小牧研究林で研究を進めています。ここには最新の機材はありませんが、広大な土地と、長年培われてきた高い技術力があります。我々は早速、津波跡地を模した、汽水から淡水の環境勾配からなる人工生態系を作成し、雑種の人工進化を促すシステムを構築しました。津波後のパターンとの共通性を調べることで、混合したゲノムを再構成する要因の詳細を追究していきたいと考えています。果たして、津波跡地のパターンとどれほど共通したものが得られるのか、大変に楽しみです。
図3:震災後にできた湿地群を再現し、トゲウオ雑種の人工進化を誘導するための
人工生態系
本助成金の応募に悩んでいる方は、挑戦されることをお勧めいたします。これは金銭的なご支援だけでなく、盲目的になりがちな研究において、審査を通して自分の立ち位置を知る意味でも大変ありがたい機会になるためです。私はこれまで何度か応募しており、不採択の際には至らぬ点を猛省し、採択いただいた時にはある種の安心感を覚えてきました。応募した年度の選考総評、各分野総評を読むことで、どの点が至らなかったか、どの点が評価されたのかがわかります。応募を検討される方も一読の価値はあると思います。
日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2022年度「東北震災後に出現したトゲウオ集団における交雑後も二種の遺伝的分化が維持される機構」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、国立遺伝学研究所の細木 拓也さんからのお話をお届けします。
<細木さんより>
最初に、本課題のご支援に深く感謝申し上げます。これまで私は、いかに種がうまれ、維持され、消失するのか、に興味を置き、研究を進めてきました。地球上に存在する多様な生物は、繰り返す種分化によって生じており、したがって、生命を理解する上で種分化のメカニズムを解き明かすことが重要な鍵と考えているためです。近年、我々を含め、多くの生物のゲノム上から“2つの種が交雑を経験した痕跡”が次々と同定されてきました。大変興味深いことに、同定されてきた“交雑の痕跡”はゲノム上の局所的な領域に限られており、ゲノムが一度混合した後も遺伝的に異なる種が維持されてきたことを意味しています。では、どれほどの速さで、交雑後に遺伝的分化が再構成されるのでしょうか。混合したゲノムを再構成する要因は何でしょうか。これらの問いは、種を完成に導く要因を追究する上で重要な鍵となりうります。
この度のご支援により、東日本大震災によって誕生したトゲウオ雑種集団のゲノムの変化を観察することから上述の問いを追究する機会を得ました。まず、2011年の津波後、ガレキのなかに形成された湿地で、ニホンイトヨとイトヨ淡水型が交雑したことがわかりました。さらに、津波から10年かけ、混合したゲノムが再構成されて片方の種に回帰することがわかりました。陸海さまざまな場所に建てた野外実験系から、混合したゲノムを再構成する要因に迫ることもできました。これらの評価はまだ論文としては未発表ではありますが、国際会議で高く評価いただきました。
Best presentation, Selected talk, and Travel award, The Gordon Research Conference Speciation 2023(ゴードン会議にて、最優秀賞/特筆すべき発表として選出/旅費支援の三点を同時に受賞)
現在、私は北海道大学苫小牧研究林で研究を進めています。ここには最新の機材はありませんが、広大な土地と、長年培われてきた高い技術力があります。我々は早速、津波跡地を模した、汽水から淡水の環境勾配からなる人工生態系を作成し、雑種の人工進化を促すシステムを構築しました。津波後のパターンとの共通性を調べることで、混合したゲノムを再構成する要因の詳細を追究していきたいと考えています。果たして、津波跡地のパターンとどれほど共通したものが得られるのか、大変に楽しみです。
図3:震災後にできた湿地群を再現し、トゲウオ雑種の人工進化を誘導するための
人工生態系
本助成金の応募に悩んでいる方は、挑戦されることをお勧めいたします。これは金銭的なご支援だけでなく、盲目的になりがちな研究において、審査を通して自分の立ち位置を知る意味でも大変ありがたい機会になるためです。私はこれまで何度か応募しており、不採択の際には至らぬ点を猛省し、採択いただいた時にはある種の安心感を覚えてきました。応募した年度の選考総評、各分野総評を読むことで、どの点が至らなかったか、どの点が評価されたのかがわかります。応募を検討される方も一読の価値はあると思います。
<以上>
日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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