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研究者コラム(3)気象・物理学者 森 厚先生 [2023年07月20日(Thu)]

 研究者コラム第3回は気象・物理学者の森厚先生、インタビューアーは右田亜朗さんです。大学生になったサイエンスメンタープログラムのOB・OGが、研究者にインタビューして、研究者を紹介したコラムです。研究者についてもっと知りたい方必見です!

桜美林大学 森厚教授 インタビュー
〜世界の広げ方〜

右田 亜朗(早稲田大学大学院2年生※取材当時)
右田さん森先生2人.jpg
左:森先生 右:右田さん

 NHKの番組『ピタゴラスイッチ』を見たことがあるだろう。しかしこの番組で涙が出そうになる人は珍しいかもしれない。桜美林大学の森厚教授が自身の体験も交えつつ、そこに感じとった「世界の広げ方」を語った。


1 好きなことを見つけなくてもいい
 
 「あらかじめ強調しておきたいことがある」と、森教授は話を切りだした。
「世の中“好きなことをやればいい”とよく言われている。けれども“私、好きなことがない”という声もよく聞く。やりたいことが見つからないとか、自分にとって何がおもしろいのか分からないとか。それを罪悪感のように感じている人がいる気がする」。
大学で教えている学生にも、そういう人がたくさんいるという。大学院生の筆者のまわりでもよく耳にする。
 どうやって好きなことを見つければよいのか。普通はそう考えてしまう。しかし森教授のたどりついた答えは“好きなことを見つけなくてもいい”だった。その代わり、自分の経験にいとおしさを感じることが重要と話す。
「好きなことがあるのももちろんよい。しかし好きなことが見つからないから自分はダメだとか、将来を決められないというのはすこし違う。好きなことは必ずしもすぐ見つかるわけではない。何が好きかはっきりしなくても、それが普通だしよいではないか。何か好きなことを見つけようというより、自分の行動や経験に愛着を持つというほうが正しい表現に思える。たとえ最初は好きではなくても、何かやったことに対し“自分はこれをやったんだ”と思えることが大事」。
 もちろん森教授にもそうした経験があり、いま愛着を持って仕事ができていると話す。そのひとつ、研究者の職業の魅力を感じたという研究での体験を聞いた。


2 朱に交われば赤くなる

 「北極振動」という現象がある。北極と日本などの地域の気圧が、まるでシーソーのように交互に変動する。日本の気候にも影響するので、最近は天気予報でも時折耳にするようになった。
 しかしこの現象には昔から論争が生じている。あたかも「北極振動」というものがあるかのように見えているが、じつは以前から知られていた「北大西洋振動」と「太平洋・北アメリカ振動」という別の現象が合わさっただけではないかというのである。
 どうすればそれを確かめられるのか? 森教授が疑問に思っていたちょうどその頃、隣の研究室の先生が偶然別の課題を口にした。「独立成分分析」を何かに応用できないか? 「独立成分分析」とは例えるなら、合唱の声から個人の歌声をそれぞれ分ける技術だ。森教授は「北極振動」に「独立成分分析」を使えるのではないかと考え、研究をはじめる。結果、「北極振動」は見かけ上の現象に過ぎないというものだった。のちにそれを論文で読んだ他大学の先生の指摘を受け、観点を変えて解析しなおし、実際の現象をより正確に再現できる結果も得た。
 いろいろな人とコミュニケーションを取り、より正解に近づくプロセスはおもしろい体験だったという。
「自分だけでは気付けない。やっぱりコミュニケーションは常に重要だ。人によって気付くところが違うし、以前に気が付いていたことでも、いつの間にか自分はそれを大事ではないと思っていることもある」。
 そんな森教授が科学者を目指したひとつのきっかけは、1982年、高校生のときに読んだ雑誌『図書』の記事にあった。当時はまだ目新しい気象衛星「ひまわり」が撮影した雲の様子の解説である。まるで地面の溝を空から眺めると絵だと分かるナスカの地上絵のように、地上からと宇宙からでは雲の様子も異なって見えるという話で、気象学に新たな視点が与えられた印象だったという。気象学に興味のあった森青年は感銘を受けた。
 そこで記事の文章と挿絵を手掛けた東京大学の木村龍治先生に手紙を出し、気象学を学べる大学を聞いた。すると各大学の先生の専門と研究内容を記した丁寧な返事をもらい、のちに大学院では木村先生のもとで学ぶこととなった。木村先生のさまざまなことに関心を持つ姿勢に大いに影響を受け、今でもお手本にしているそうだ。
 「このあいだのW杯でゴールを決めた、三笘選手と田中選手はおなじ小学校だった。朱に交われば赤くなる。お互いに磨き合えたり、この人と一緒にやっていけば自分も成長できるだろうという人を見つけたりして、積極的にコミュニケーションを取っていくと自分も伸びていく」。
 サイエンスメンター制度でメンターの先生に教わりながら、友人と切磋琢磨し研究していた著者にも大いに頷ける。出会いがもたらす人生への影響は小さくないと、改めて感じる。


3 世界の広げ方
 
 森教授が自身の講義『物理学概論』で紹介している歌がある。冒頭にすこし書いた、『ピタゴラスイッチ』で放送された「対応の歌」だ。
 歌そのものは極めて単純である。スイッチを押すと電気がつく。まな板に残ったへたの数を見ると、料理に使ったナスの数がわかる。そうした日常に見られる対応関係を並べている。しかし森教授の見方はそれだけにとどまらない。
 「番組を見たときに感動して涙が出そうになった。ふと気が付くと人間活動はみんな“対応”と関係している感じがする。あらゆるものがいちいち“対応”していて、それが組み合わさってコミュニケーションができ、学問が成立し、人間の知的活動につながっている」。
 いったいどういうことか。いくつか例を出して説明してもらった。たとえば、日本語の「犬」は英語の「dog」という言葉と“対応”することで、おなじ動物を指している。言葉だけでなく、すこしだけ数学にも話を広げてみよう。方程式になぜxやyの文字を使うのか。それは他のアルファベットの頭文字と重ならないよう、あえて無個性な文字を使うことで、xやyがさまざまなものと“対応”できるようにしているからだ。“対応”させるという発想があるからこそ、xやyは意味を持っている。
 もうひとつ例をあげよう。速さ、時間、距離を考えると、「速さ×時間=距離」という“対応”関係の公式を見いだせる。しかし“対応”はそれだけにとどまらない。さらに発展させれば比例という“対応”関係にも結びつく。応用の幅が広がる。これを森教授は「世界が広がる」と表現した。
「とりあえず公式に当てはめて解き、自信を持つのも大事なこと。しかし、それだけできればオーケーという雰囲気があるのは残念に思う。それで終わるのではなく、本当は勉強したことをさらに深めると、いろいろな“対応”があり発展がある。比例のような“対応”関係と結びつけて考えることができたりする。そうすればもっと世界が広がってくる。ひいては大きな枠組みで考え、人間の知的活動として自分のやっている勉強を位置付けたりすることができる」。
 こうした“対応”を理解する能力が人間には備わっているという。
「人間が自分を改善していくために備わっている本能として、“対応”がある。たとえば赤ちゃんは生まれたときにちゃんと自分の手を動かすことができない。何回も試行錯誤してこうしたら手が動くという経験を獲得しているはず。初めて『ママ』と言うのも、何度も失敗し偶然言えたときに母親が反応することで、『ママ』が“対応”していると気付く。そうやってパターンを身につける」。
 “対応”によって人間はさまざまなことを認知し、考え、探究することができる。じつはこれは科学の「仮説検証」の考え方そのものだ。
「本能的に人がやってきた“対応”を見つける試行錯誤を、ガリレオ・ガリレイは実験科学の方法として提示した。何か物事を見つけたとき、その裏にどんな法則(パターン)があるだろうかと仮説を立てる。そしてその仮説に基づいて実験で検証して確かめる。この流れを意識すると、モノの見方や生活の行動、さまざまなパターンを身につけて人生を変えることができる気がする。だからこの考え方を、改めてちゃんと言葉にして身につけておくのはすごく大事ではないか」。
 人間の知的活動の根本にある“対応”。今回話に出たのはそのほんの一部にすぎないだろう。たくさんの“対応”を知りパターンを身につけ、もっと世界の広がりを見る、広げていく。そのためにまず、本能的にやってきた「仮説検証」を意識するところから始めてみてはいかがだろうか? すこし人生が変わるかもしれない。
 最後に森教授の考える、ぜひとも身につけるべきパターンを伺った。
「時間管理。意外と人生は短い。この宿題は何分でやるという、そういうところから始まる時間管理を自分でできるようにしておくと、あまり後悔しない気がする」。

<おわり>

森先生2.png
森 厚 先生
所  属:桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授
専門分野:地球流体力学
経  歴:東京大学で博士(理学)取得。東京学芸大学教育学部地学科 助手、桜美林大学 准教授を経て現職。

右田さん2.png
右田亜朗さん
(早稲田大学大学院 基幹理工学研究科 機械科学・航空宇宙専攻2年生※取材当時)
サイエンスメンタープログラム当時の情報
研究期間:2015.4 - 2016.3
研究課題:「裸眼での夜空の明るさ観測方法の確立」
学 校 名 :海城中学高等学校
メンター:渡部 潤一先生(国立天文台副台長教授、総合研究大学院大学物理科学研究科天文科学専攻教授)

森先生・右田さんありがとうございました!!


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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 10:30 | サイエンスコミュニケーション | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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