研究者コラム(2)後編 地質学者 山口直文先生
[2023年07月03日(Mon)]
本日のコラムは、山口先生のインタビュー後編です。大学生になったサイエンスメンタープログラムのOB鈴木さんが、前編に続き、山口先生のお話から、飛び込んでみなければわからない研究の世界をお伝えします。(前編はこちら)
「科学好き」と「科学者」の違いって何だろう?(後編)
鈴木泰我(筑波大学4年生)
左:山口先生 右:鈴木さん
「困っちゃうなぁ」は素敵なこと
科学者、特に職業としての研究者の問いの答えは、その時点でこの世に存在しないものが大半だ。ゆえに、明晰な研究者であろうと、研究中は常に「困って」いる。答えが分からない。あるいは答えに行き着く方針すらも立たない。だが、山口さんは「そういう『困っちゃうなぁ』という状況って素敵なんですよね」と笑って語る。予想のつく研究はもちろん成果が出やすい。しかし、予測のつかない、困ってしまうような研究こそ、研究者に必要な時もあるのだ。
また、困ってしまう、手立てがない瞬間というのは、言い換えれば大人も子供もない、ということでもある。先生や親といった大人が用意した問を自分たち子供が解く、という上下のある構造とは根本的に違い、科学の問いの前では大人も子供も等しく困っている。こうした問いに直面したとき、プロの研究者は「答えに行き着くコツを持っていたり、考える筋力が強かったりする」ことはあるが、基本的には学生と対等の立場である、というのが山口さんの考えだ。
情報過多の時代を生きる私たちにとって、わざわざ問いを立てて検証することは無駄に思えるかもしれない。多くの場合、検索すれば「答えらしきもの」は出てくる。それを繰り返すうちに、問うことそのものを止めてしまった人も沢山いるだろう。だが答えの出ている問いに疑問を見出すことは決して愚かでも、悪いことでもない。山口さんは「『無駄』を敬遠しないでほしい」と言う。車輪は何度再発明してもいいのだ。さぁ、「困っちゃう」まで問いを立て続けようじゃないか。
また、困ってしまう、手立てがない瞬間というのは、言い換えれば大人も子供もない、ということでもある。先生や親といった大人が用意した問を自分たち子供が解く、という上下のある構造とは根本的に違い、科学の問いの前では大人も子供も等しく困っている。こうした問いに直面したとき、プロの研究者は「答えに行き着くコツを持っていたり、考える筋力が強かったりする」ことはあるが、基本的には学生と対等の立場である、というのが山口さんの考えだ。
情報過多の時代を生きる私たちにとって、わざわざ問いを立てて検証することは無駄に思えるかもしれない。多くの場合、検索すれば「答えらしきもの」は出てくる。それを繰り返すうちに、問うことそのものを止めてしまった人も沢山いるだろう。だが答えの出ている問いに疑問を見出すことは決して愚かでも、悪いことでもない。山口さんは「『無駄』を敬遠しないでほしい」と言う。車輪は何度再発明してもいいのだ。さぁ、「困っちゃう」まで問いを立て続けようじゃないか。
科学者として生きること
科学者としてやっていくには何かに秀でていなくてはならない、ということは多くの人の想像するところだろう。確かに研究者インタビューを見れば途方もない読書量や何日も徹夜するバイタリティなどの超人的な要素が目立ってしまうものだ。しかし一般的な「研究者らしい」イメージ以外にも研究者に役立つ重要な能力は沢山ある。
その中の一つにはプレゼンテーションの技術が挙げられる。ここでいうプレゼン技術とは、ステージに上がって上手に振る舞うことではなく、自分の伝えたい内容を論理的に伝える技術のことだ。科学者にとって成果を発表することは研究そのものと同じくらい重要だ。相手に伝えられなければ研究成果としてみなされず、「なかったこと」になってしまう。
山口さんは、最も言いたいことが伝わらないとき、「それは必ずしも内容が悪いわけではなく、そこに至るまでの説明で、必要な文脈を説明しきれていない場合がある」と言う。このことは研究のプレゼンだけではなく、レポートや小論文、メール一通に至るまでさまざまな媒体に通用する話だ。
その中の一つにはプレゼンテーションの技術が挙げられる。ここでいうプレゼン技術とは、ステージに上がって上手に振る舞うことではなく、自分の伝えたい内容を論理的に伝える技術のことだ。科学者にとって成果を発表することは研究そのものと同じくらい重要だ。相手に伝えられなければ研究成果としてみなされず、「なかったこと」になってしまう。
山口さんは、最も言いたいことが伝わらないとき、「それは必ずしも内容が悪いわけではなく、そこに至るまでの説明で、必要な文脈を説明しきれていない場合がある」と言う。このことは研究のプレゼンだけではなく、レポートや小論文、メール一通に至るまでさまざまな媒体に通用する話だ。
科学の『競争』
研究に「頭の回転の速さが全てではない」と山口さんは言う。舌鋒鋭く切り返す会話は確かに端から見ていて頭がよさそうに見えるだろう。しかし、時間がかかろうとも素晴らしい成果を生み出すことができる科学者もいる。科学者の評価は基本的に「最終成果物」であり、そこに至るやり方は人それぞれだ。
従って、科学者に必要なものはある特定の能力がずば抜けていることではなく、その人にしかない能力の組み合わせだ。同じ分野に取り組んでいても、得手不得手の異なる研究者によって多様な研究が生まれる。
山口さんのお話を伺っていると、研究者として生きていく上では「自分自身に向き合うこと」が大切で、「他人より優れた能力を獲得すること」などは二の次なのではないかと感じた。山口さんの動機は「研究そのものよりも、見つけた何かを人に伝えたい、びっくりさせたい」という思いにある。幼いころに憧れたNHKスペシャルの世界がずっと心に残っているのだ(一度は本当に就職を考えNHKの方に話を聞きに行ったそうだ) 。研究の動機は人それぞれでよい。自分の『好き』にあった研究に向き合うことが何よりも大切なのだ。
従って、科学者に必要なものはある特定の能力がずば抜けていることではなく、その人にしかない能力の組み合わせだ。同じ分野に取り組んでいても、得手不得手の異なる研究者によって多様な研究が生まれる。
山口さんのお話を伺っていると、研究者として生きていく上では「自分自身に向き合うこと」が大切で、「他人より優れた能力を獲得すること」などは二の次なのではないかと感じた。山口さんの動機は「研究そのものよりも、見つけた何かを人に伝えたい、びっくりさせたい」という思いにある。幼いころに憧れたNHKスペシャルの世界がずっと心に残っているのだ(一度は本当に就職を考えNHKの方に話を聞きに行ったそうだ) 。研究の動機は人それぞれでよい。自分の『好き』にあった研究に向き合うことが何よりも大切なのだ。
<おわり>
山口直文先生
所属:茨城大学 地球・地域環境共創機構 講師
専門分野:地質学
経歴:京都大学大学院で博士(理学)取得。その後、日本学術振興会特別研究員、
産業技術総合研究所 地質調査総合センター特別研究員、茨城大学 広域水圏環境科学教育
研究センター助教を経て現職。サイエンスメンタープログラムメンター(2020年)。
専門分野:地質学
経歴:京都大学大学院で博士(理学)取得。その後、日本学術振興会特別研究員、
産業技術総合研究所 地質調査総合センター特別研究員、茨城大学 広域水圏環境科学教育
研究センター助教を経て現職。サイエンスメンタープログラムメンター(2020年)。
鈴木泰我さん(筑波大学 生命環境学群 地球学類4年生※取材当時の所属)
山口先生・鈴木さんありがとうございました!!
サイエンスメンタープログラム当時の情報
研究期間:2017.9 - 2018.8
研究課題:「東京都新宿区立おとめ山公園内湧水周辺の地下水面及び地下水の挙動の分析」
学校名:海城高等学校
メンター:松山洋先生(首都大学東京 都市環境科学研究科 教授)
研究期間:2017.9 - 2018.8
研究課題:「東京都新宿区立おとめ山公園内湧水周辺の地下水面及び地下水の挙動の分析」
学校名:海城高等学校
メンター:松山洋先生(首都大学東京 都市環境科学研究科 教授)
山口先生・鈴木さんありがとうございました!!
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