先輩研究者のご紹介(中村 大輝さん)
[2022年08月15日(Mon)]
こんにちは。科学振興チームの豊田です。
本日は、2020年度に「理科の問題解決における仮説設定の質と深い学びに関する研究」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、広島大学所属の、中村 大輝さんから助成時から最近の研究について、コメントを頂きました。
<中村さんより>
さて、皆さんは小・中学生のころ、理科の勉強は好きだったでしょうか?全国的な調査の結果からは、小学生の8割以上が理科好きであるのに対して、中学生では6割程度にとどまるということが明らかになっています。しかし、小学生であっても科学的に考えることが好きというわけではなく、実験をアクティビティとして楽しんでいるに過ぎないという批判もあります。実験に先行して仮説が設定されなければ、実験は目的意識を失ったただの遊びに成り下がってしまいます。それにもかかわらず、義務教育を通して仮説設定の指導に時間が割かれることは少ないという実態があります。
このような現状を踏まえ、私は笹川科学研究助成を受けて、理科の授業における仮説設定の場面に着目し、仮説設定の指導に時間を割くことの効果について検討しました。方法としては、日本全国で行われている様々な理科授業の指導法とその後の学力のデータを収集し、メタ分析という手法で統合した上で、以下のような指導法ごとの学力向上効果のランキングを作成しました。すると、学習者が主体的に仮説を設定する活動を重視した指導法が学力向上に相対的に高い効果を発揮することが明らかになりました(中村ら,2020)。
その後の研究では、学習者が仮説を設定する中で自然現象に内在する変数に着目するようになり、科学的思考力の向上に貢献することが徐々に明らかになってきています。新しい時代の理科教育を受ける子供たちは、先生や教科書から与えられた実験をただ実施するのではなく、自らが見出した問題に対して仮説を立てた上で、科学的に探究していくことが期待されています。
私の専門である科学教育・理科教育は、自然科学との関連が深い学問領域でありながら、分類上は人文・社会科学に位置づけられるため、自然科学と比べて利用できる助成金などが限られています。そのような中で、笹川科学研究助成のように人文・社会科学も対象とした助成事業の存在は大変貴重でありがたいものです。申請に際しては、過去の採択された研究課題名や選考総評を参考にして、専門外の方にも研究の魅力を伝えられるよう工夫しました。採択後は、新型コロナウイルスの影響により研究計画や予算の使い方の変更を余儀なくされたものの、日本科学協会の方はこれらの変更の相談に真摯に対応してくださいました。助成事業を通して貴重な機会を与えていただいたことに心から感謝申し上げます。
*文献
中村大輝, 田村智哉, ... & 松浦拓也. (2020). 理科における授業実践の効果に関するメタ分析―教育センターの実践報告を対象として―. 科学教育研究, 44(4), 215-233.
インターネットの発達等により簡単に答えを検索できるようになり、仮説を立てて考えるといったことが疎かになっているように感じます。子供たちの学力向上のためにも、研究を続けていただきたいと思います。
また、笹川科学研究助成では幅広い分野の研究を募集しております。分野を跨がる研究も、複合系として募集しておりますので、皆様もぜひ申請してみてください。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2020年度に「理科の問題解決における仮説設定の質と深い学びに関する研究」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、広島大学所属の、中村 大輝さんから助成時から最近の研究について、コメントを頂きました。
<中村さんより>
さて、皆さんは小・中学生のころ、理科の勉強は好きだったでしょうか?全国的な調査の結果からは、小学生の8割以上が理科好きであるのに対して、中学生では6割程度にとどまるということが明らかになっています。しかし、小学生であっても科学的に考えることが好きというわけではなく、実験をアクティビティとして楽しんでいるに過ぎないという批判もあります。実験に先行して仮説が設定されなければ、実験は目的意識を失ったただの遊びに成り下がってしまいます。それにもかかわらず、義務教育を通して仮説設定の指導に時間が割かれることは少ないという実態があります。
このような現状を踏まえ、私は笹川科学研究助成を受けて、理科の授業における仮説設定の場面に着目し、仮説設定の指導に時間を割くことの効果について検討しました。方法としては、日本全国で行われている様々な理科授業の指導法とその後の学力のデータを収集し、メタ分析という手法で統合した上で、以下のような指導法ごとの学力向上効果のランキングを作成しました。すると、学習者が主体的に仮説を設定する活動を重視した指導法が学力向上に相対的に高い効果を発揮することが明らかになりました(中村ら,2020)。
その後の研究では、学習者が仮説を設定する中で自然現象に内在する変数に着目するようになり、科学的思考力の向上に貢献することが徐々に明らかになってきています。新しい時代の理科教育を受ける子供たちは、先生や教科書から与えられた実験をただ実施するのではなく、自らが見出した問題に対して仮説を立てた上で、科学的に探究していくことが期待されています。
私の専門である科学教育・理科教育は、自然科学との関連が深い学問領域でありながら、分類上は人文・社会科学に位置づけられるため、自然科学と比べて利用できる助成金などが限られています。そのような中で、笹川科学研究助成のように人文・社会科学も対象とした助成事業の存在は大変貴重でありがたいものです。申請に際しては、過去の採択された研究課題名や選考総評を参考にして、専門外の方にも研究の魅力を伝えられるよう工夫しました。採択後は、新型コロナウイルスの影響により研究計画や予算の使い方の変更を余儀なくされたものの、日本科学協会の方はこれらの変更の相談に真摯に対応してくださいました。助成事業を通して貴重な機会を与えていただいたことに心から感謝申し上げます。
*文献
中村大輝, 田村智哉, ... & 松浦拓也. (2020). 理科における授業実践の効果に関するメタ分析―教育センターの実践報告を対象として―. 科学教育研究, 44(4), 215-233.
<以上>
インターネットの発達等により簡単に答えを検索できるようになり、仮説を立てて考えるといったことが疎かになっているように感じます。子供たちの学力向上のためにも、研究を続けていただきたいと思います。
また、笹川科学研究助成では幅広い分野の研究を募集しております。分野を跨がる研究も、複合系として募集しておりますので、皆様もぜひ申請してみてください。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。