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先輩研究者のご紹介(阿部 駿佑さん) [2022年06月27日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2020年度に「未利用熱の有効利用を可能にする高汎用性スラリー熱媒体の流動・伝熱特性に関する検討および流動性の向上」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、信州大学大学院総合医理工学研究科総合理工学専攻所属(当時)の、阿部 駿佑さんから助成時の研究について、コメントを頂きました。

<阿部さんより>
 2020年度の笹川科学研究助成を受けた信州大学機械システム工学科特任助教の阿部と申します。助成を受けた当時は、同大学の応用熱工学研究室(浅岡研、http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/engineering/department/mech/laboratories/n/index.html)に所属しており、2021年3月に博士号を取得しました。助成時の研究内容について軽くご紹介させてください。

 SDGsの認知拡大を皮切りに、省エネや環境問題への意識が国内外問わず高まってきました。そのような中、工場の排熱といった、未利用の棄てられている熱を回収・再利用しようという試み(研究)がなされています。私は、この未利用熱の有効利用方法として潜熱を利用した熱輸送方法に着目し、熱を熱のまま需要のある施設へ輸送するシステムを提案しています。しかしながら、この未利用の熱は、熱源としては温度が低く、利用が困難とされているのが現状です。そこで、この低温の熱源の温度をなるべく下げずに輸送するために、固液二相流(スラリー)に熱を蓄えて輸送するシステムの実現に取り組んでいます。この技術が完成すれば、図1のように、熱源から各熱需要先へ熱を輸送するシステムが実現できると考えています。

図1-a-whiteBack.png
(a)

図1-b-whiteBack.png
(b)
図1 熱輸送システムのイメージ図
(a:熱輸送媒体が水の場合、b:熱輸送媒体がスラリーの場合)

 この未利用熱の利用にスラリーが適している理由は、相変化時に生じる潜熱により、温度を保持する効果が期待できるためです。このため、低い温度の熱源でも、その利用価値を下げずに需要先に送ることが可能になります。しかし、スラリーを扱う時には、注意しなければならない点がいくつかあります。一例を挙げると、輸送配管内での閉塞現象があります。スラリーは液体中に固体が分散したものを指しますが、この固体が管内で滞留し、閉塞につながってしまいます。また、液体のみの場合よりも、固体が入ることで、輸送するためにより多くの輸送動力が必要になってしまいます。この高い温度保持性というメリットを最大限活かしつつ、輸送動力の増大・閉塞リスクというデメリットが最小になるような条件を明らかにすることが必要です。

図2.png
図2 スラリーの特徴

 私が笹川科学研究助成を受けたテーマでは、このスラリーの圧力損失(スラリーを流すのに必要な輸送動力の計算に必要)を測定し、適切に輸送動力を見積もるためのデータを得ることを目的としていました。実験では、2種類のスラリーについて調査を行いました。一つは、固体と液体の密度差が大きく、固体が沈殿しながら流れるスラリーです(図3)。検討の結果から、こういった沈殿を伴う流れでも適切に圧力損失を見積もれるモデルを示すことができました。また、2種類のスラリーの固相は結晶のサイズや形状がそれぞれ異なるため、それらが及ぼす影響についても検討しました(図4)。固液二相流の研究はすでに多く行われていますが、固体-液体間の相変化を考慮したスラリーの研究はあまり多くはありません。特に、結晶の粗大化や管路内での結晶の固着による圧力損失の増大や、閉塞条件に関する検討は十分に行われていません。安定した配管輸送を実現するには、圧力損失が小さい条件かつ管路で閉塞しない条件を定量的に明らかにすることが必須だと考えています。圧力損失の見積もりについては目処がついてきたため、これに閉塞性の検討を盛り込んでいくことが今後の課題になると考えています。

図3.png
図3 円管内で固体が管底部に沈殿しながら流れる様子

図4.png
図4 水溶液中での結晶の形状の違い(a:エリスリトール、b:マンニトール)

 申請したテーマは、私がB4のときに発足した研究テーマで、萌芽性の高い(芽生え期の)研究であったため資金調達は困難と思っていましたが、笹川科学研究助成を受けられたことで、想定以上のペースで研究を進めることができました。実験がメインの研究なので、進捗によっては必要物品に変更が生じます。研究計画に沿うという前提ですが、購入物品の変更に柔軟に対応していただき、スムーズに研究を進めることができました。またコロナ禍であったため、学会のオンライン開催にかかる出張費内訳の変更についてもご対応いただきとても感謝しています。お陰様で当テーマの内容も博士論文に盛り込んで発表することができました。また、IJRというIF付き国際誌に論文を投稿することもできました。日本科学協会の皆様には、研究助成を通じて貴重な機会をいただいたことに心から御礼申し上げます。

 私が調べた限りでは、学生のうちに申請できる研究助成は多くはありません。今後アカデミックポストを目指す方は、こういったグラント申請書が書けることは必須のスキルになるので、積極的に申請することをおすすめいたします。
<以上>

 持続可能な社会となるよう、これからも環境問題に対する研究を続けていただき、多くの成果が出ることを期待しております。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 10:27 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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