先輩研究者のご紹介(ドル 有生さん)
[2021年04月05日(Mon)]
こんにちは。科学振興チームの豊田です。
本日は、2019年度に「気孔発生パターンの多様性を生み出す分子基盤の解明〜アワゴケ属の水草を新たなモデル系として〜」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻所属の、ドル 有生さんから助成時の研究について、コメントを頂きました。
<ドルさんより>
植物の気孔は、水蒸気や二酸化炭素などのガスを出し入れするために重要です。気孔は葉の表面にあって簡単に観察できるので、学校の授業で見たことがある方も多いと思います。
色々な種の気孔を注意深く観察すると、種によって気孔の配置パターンは様々に違うことに気づきます。例えば、アブラナ科の植物の気孔は異なる大きさの細胞に囲まれていることが多いですが(図1A)、ツユクサでは大きさの同じ細胞のペアに囲まれています(図1B)。こういった見た目の違いは、気孔の形成過程を反映しています。例えば、アブラナ科の植物では気孔のもとなる細胞(気孔幹細胞)が、らせん状に複数回分裂するために、3つの異なる大きさの細胞に囲まれた気孔ができます(図1C)。
もっと派手なことをする植物もいます。例えば、水中と陸上の両方で生活できる水草です。図2は私たちが研究対象としている水草、ミズハコベの葉を顕微鏡で観察した写真です。陸上で作る葉には気孔があるのに対し、水中で作る葉には気孔がほとんど見られません(参考文献1)。水に沈んだ時は薄い葉を作り、水中から直接二酸化炭素などを取り込むので、気孔が必要ないのです。
私が修士課程に入学した時は、この水草が水中で気孔を減らす仕組みを調べようとしていました。しかし、そこに意外な発見がありました。研究の前提としてミズハコベの気孔のでき方を調べたところ、気孔幹細胞が分裂せず、直接気孔になることが分かったのです(図3上)。さらに興味深いことに、ミズハコベと同じ属の、陸上でのみ生育する種では、アブラナ科で見られるような気孔幹細胞の分裂がふつうに起きていることが分かりました(図3下)。
これほど近縁な種で気孔の形成パターンが違い、さらにそれが生活環境の違いと関連する例はこれまで知られていません。この現象の背後にある仕組みを調べれば、植物一般における気孔の種間差(図1)が生まれる仕組みの解明にも繋がると期待されます。私は修士2年時の1年間、笹川科学研究助成を頂き、この現象の分子基盤を解析しました。その成果は、つい先日論文として公表することができました(参考文献2)。
修士課程の学生も応募でき、独自の視点が評価される笹川科学研究助成は、このような私の状況にぴったり合っていました。また、申請書を書くというプロセス自体、駆け出しの私にとって大変勉強になりました。後輩の学生たちにも応募をお勧めするとともに、ご支援を頂いた日本科学協会の関係者の皆様には厚く御礼を申し上げたいと思います。
参考文献1 Koga H, Doll Y, Hashimoto K, Toyooka K, Tsukaya H (2020). “Dimorphic Leaf Development of the Aquatic Plant Callitriche palustris L. Through Differential Cell Division and Expansion” Front Plant Sci 11:269. https://dx.doi.org/10.3389/fpls.2020.00269
参考文献2 Doll Y, Koga H, Tsukaya H (2021). “The diversity of stomatal development regulation in Callitriche is related to the intrageneric diversity in lifestyles” PNAS 118:14. https://doi.org/10.1073/pnas.2026351118
植物が呼吸するために必要な気孔が、環境や種によって異なる出来かたをしているということは、非常に意外なことに思います。気孔は小学校でも習うことではありますが、まだまだ分からないことがあるということに驚きました。
また、笹川科学研究助成では若手研究者をサポートするため、修士課程の方のご申請も受け付けておりますので、是非とも挑戦してみてください。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2019年度に「気孔発生パターンの多様性を生み出す分子基盤の解明〜アワゴケ属の水草を新たなモデル系として〜」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻所属の、ドル 有生さんから助成時の研究について、コメントを頂きました。
<ドルさんより>
植物の気孔は、水蒸気や二酸化炭素などのガスを出し入れするために重要です。気孔は葉の表面にあって簡単に観察できるので、学校の授業で見たことがある方も多いと思います。
色々な種の気孔を注意深く観察すると、種によって気孔の配置パターンは様々に違うことに気づきます。例えば、アブラナ科の植物の気孔は異なる大きさの細胞に囲まれていることが多いですが(図1A)、ツユクサでは大きさの同じ細胞のペアに囲まれています(図1B)。こういった見た目の違いは、気孔の形成過程を反映しています。例えば、アブラナ科の植物では気孔のもとなる細胞(気孔幹細胞)が、らせん状に複数回分裂するために、3つの異なる大きさの細胞に囲まれた気孔ができます(図1C)。
もっと派手なことをする植物もいます。例えば、水中と陸上の両方で生活できる水草です。図2は私たちが研究対象としている水草、ミズハコベの葉を顕微鏡で観察した写真です。陸上で作る葉には気孔があるのに対し、水中で作る葉には気孔がほとんど見られません(参考文献1)。水に沈んだ時は薄い葉を作り、水中から直接二酸化炭素などを取り込むので、気孔が必要ないのです。
私が修士課程に入学した時は、この水草が水中で気孔を減らす仕組みを調べようとしていました。しかし、そこに意外な発見がありました。研究の前提としてミズハコベの気孔のでき方を調べたところ、気孔幹細胞が分裂せず、直接気孔になることが分かったのです(図3上)。さらに興味深いことに、ミズハコベと同じ属の、陸上でのみ生育する種では、アブラナ科で見られるような気孔幹細胞の分裂がふつうに起きていることが分かりました(図3下)。
これほど近縁な種で気孔の形成パターンが違い、さらにそれが生活環境の違いと関連する例はこれまで知られていません。この現象の背後にある仕組みを調べれば、植物一般における気孔の種間差(図1)が生まれる仕組みの解明にも繋がると期待されます。私は修士2年時の1年間、笹川科学研究助成を頂き、この現象の分子基盤を解析しました。その成果は、つい先日論文として公表することができました(参考文献2)。
修士課程の学生も応募でき、独自の視点が評価される笹川科学研究助成は、このような私の状況にぴったり合っていました。また、申請書を書くというプロセス自体、駆け出しの私にとって大変勉強になりました。後輩の学生たちにも応募をお勧めするとともに、ご支援を頂いた日本科学協会の関係者の皆様には厚く御礼を申し上げたいと思います。
参考文献1 Koga H, Doll Y, Hashimoto K, Toyooka K, Tsukaya H (2020). “Dimorphic Leaf Development of the Aquatic Plant Callitriche palustris L. Through Differential Cell Division and Expansion” Front Plant Sci 11:269. https://dx.doi.org/10.3389/fpls.2020.00269
参考文献2 Doll Y, Koga H, Tsukaya H (2021). “The diversity of stomatal development regulation in Callitriche is related to the intrageneric diversity in lifestyles” PNAS 118:14. https://doi.org/10.1073/pnas.2026351118
<以上>
植物が呼吸するために必要な気孔が、環境や種によって異なる出来かたをしているということは、非常に意外なことに思います。気孔は小学校でも習うことではありますが、まだまだ分からないことがあるということに驚きました。
また、笹川科学研究助成では若手研究者をサポートするため、修士課程の方のご申請も受け付けておりますので、是非とも挑戦してみてください。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。