先輩研究者のご紹介(柳 のど香さん)
[2020年12月14日(Mon)]
こんにちは。科学振興チームの豊田です。
本日は、2019年度に「心筋肉柱発生過程における核内レセプター受容体結合タンパク質Arip4の機能解析」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東京大学大学院理学系研究科生物科学先行所属の、柳のど香さんから最近の研究、研究室の様子について、コメントを頂きました。
<柳さんより>
脊椎動物の中でも、我々哺乳類の器官再生能は限定的であるのに対して、魚類や両生類は非常に高い再生能を持つことが知られています。無尾両生類であるカエルの幼生(オタマジャクシ)も例にもれず、尾を切断しても1週間程度で脊髄、脊索、筋肉などの組織を備えた完全な尾を再生することができます。現在私は、アフリカツメガエル(図1)との幼生をモデルとして、器官再生を可能にする分子メカニズムを明らかにすることを目的として研究を進めています。
当研究室ではこれまでに、機能阻害(ノックダウン)をすると幼生の尾が再生できなくなる遺伝子を発見しており、これが再生に固有な分子シグナルによって尾再生に必要な未分化細胞を誘導し活性化させることが示されています。しかし、この未分化細胞の誘導や活性化がどのようにひきおこされるのかが未解明であるため、わたしはこの下流で再生にはたらく因子をつきとめることで、器官再生のしくみにせまることにしました。現在おこなっている実験は、再生に必要な遺伝子のノックダウンによって発現が大きく変動する遺伝子を網羅的に探索し下流因子の候補を絞り込み、候補となる遺伝子を、女性のノーベル賞受賞でも話題になったCRISPR/Cas9法を用いてノックダウンし、幼生尾の再生能への影響をみるという手法です。目的遺伝子の配列の一部を標的とするようなguide RNAを作製しCas9 mRNAとともに人工授精させた受精卵(図2)に打ち込むと、標的配列でゲノム編集がおこりその遺伝子の機能を破壊することができます。このとき、インジェクターという機器を使って、一つの受精卵につき約18nlという微量の液を打ち込むことができます(図3)。こうして得られたノックダウン幼生の尾を切断し、再生の程度を観察することで、候補の遺伝子が再生に必要なはたらきを持っているかどうかを見極めます。本研究は始めたばかりで課題の多いテーマですが、再生現象固有に必要な分子シグナルがわかれば、我々哺乳類への器官再生能賦与という再生医療への応用も期待できる研究であると期待しています。
私は、助成当時は心臓の心室構造がどのような分子メカニズムで形づくられるのかをマウス胎仔を用いて研究していましたが、発生学で学んだ知見を取り入れつつ、他研究室で再生の研究を進めています。分野が変わると新たに学ぶことが増えるのはもちろんですが共通の実験手法や知識も多くあり、博士課程では、今後どの分野に関わることになっても通用する基本的な技術や知識を身につけることができると実感しております。
笹川科学研究助成は学生でも応募させていただけるので、研究計画の作成や研究費の管理を若いうちから自身で経験できたことは貴重な経験だったと感じており、たいへん感謝しております。ありがとうございました。
ノーベル賞受賞によって話題となったCRISPR/Cas9等の研究手法を用いた、一分野の最先端の研究を行うことも重要ですが、基本的な技術や知識を身に着け、分野を跨いだ研究を行えるようになることも、研究者として歩んでいくためには重要かと思います。笹川科学研究助成では皆様の研究者としての第一歩をサポートできるよう、これからも陰ながら応援させていただきたいと思います。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2019年度に「心筋肉柱発生過程における核内レセプター受容体結合タンパク質Arip4の機能解析」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東京大学大学院理学系研究科生物科学先行所属の、柳のど香さんから最近の研究、研究室の様子について、コメントを頂きました。
<柳さんより>
脊椎動物の中でも、我々哺乳類の器官再生能は限定的であるのに対して、魚類や両生類は非常に高い再生能を持つことが知られています。無尾両生類であるカエルの幼生(オタマジャクシ)も例にもれず、尾を切断しても1週間程度で脊髄、脊索、筋肉などの組織を備えた完全な尾を再生することができます。現在私は、アフリカツメガエル(図1)との幼生をモデルとして、器官再生を可能にする分子メカニズムを明らかにすることを目的として研究を進めています。
当研究室ではこれまでに、機能阻害(ノックダウン)をすると幼生の尾が再生できなくなる遺伝子を発見しており、これが再生に固有な分子シグナルによって尾再生に必要な未分化細胞を誘導し活性化させることが示されています。しかし、この未分化細胞の誘導や活性化がどのようにひきおこされるのかが未解明であるため、わたしはこの下流で再生にはたらく因子をつきとめることで、器官再生のしくみにせまることにしました。現在おこなっている実験は、再生に必要な遺伝子のノックダウンによって発現が大きく変動する遺伝子を網羅的に探索し下流因子の候補を絞り込み、候補となる遺伝子を、女性のノーベル賞受賞でも話題になったCRISPR/Cas9法を用いてノックダウンし、幼生尾の再生能への影響をみるという手法です。目的遺伝子の配列の一部を標的とするようなguide RNAを作製しCas9 mRNAとともに人工授精させた受精卵(図2)に打ち込むと、標的配列でゲノム編集がおこりその遺伝子の機能を破壊することができます。このとき、インジェクターという機器を使って、一つの受精卵につき約18nlという微量の液を打ち込むことができます(図3)。こうして得られたノックダウン幼生の尾を切断し、再生の程度を観察することで、候補の遺伝子が再生に必要なはたらきを持っているかどうかを見極めます。本研究は始めたばかりで課題の多いテーマですが、再生現象固有に必要な分子シグナルがわかれば、我々哺乳類への器官再生能賦与という再生医療への応用も期待できる研究であると期待しています。
私は、助成当時は心臓の心室構造がどのような分子メカニズムで形づくられるのかをマウス胎仔を用いて研究していましたが、発生学で学んだ知見を取り入れつつ、他研究室で再生の研究を進めています。分野が変わると新たに学ぶことが増えるのはもちろんですが共通の実験手法や知識も多くあり、博士課程では、今後どの分野に関わることになっても通用する基本的な技術や知識を身につけることができると実感しております。
笹川科学研究助成は学生でも応募させていただけるので、研究計画の作成や研究費の管理を若いうちから自身で経験できたことは貴重な経験だったと感じており、たいへん感謝しております。ありがとうございました。
<以上>
ノーベル賞受賞によって話題となったCRISPR/Cas9等の研究手法を用いた、一分野の最先端の研究を行うことも重要ですが、基本的な技術や知識を身に着け、分野を跨いだ研究を行えるようになることも、研究者として歩んでいくためには重要かと思います。笹川科学研究助成では皆様の研究者としての第一歩をサポートできるよう、これからも陰ながら応援させていただきたいと思います。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。