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先輩研究者のご紹介(久保田 達矢さん) [2020年06月29日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2019年度に「沖合海底圧力計アレイ解析に基づく微小海洋変動シグナルの検出」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、防災科学技術研究所所属の久保田 達矢さんから、助成時の研究についてコメントを頂きました。

<久保田さんより>
 近年、津波の早期検知を目的とした沖合津波観測網が整備されつつあります。これらの観測網は、比較的狭い空間範囲に多くの津波観測点が展開されている点に特徴があります。本研究課題では、このような沖合津波観測網の記録から微小な津波を見つけ、津波とその起源となる地震の性質の理解を試みました。

 本研究では、これまで津波を引き起こしているとはあまり考えられていなかったマグニチュード(M)6程度の規模の地震に着目しました。岩手県三陸沖において発生したM6.0の地震について、東北日本の沖合に展開された「日本海溝海底地震津波観測網(S-net)」の記録を調査しました。震源の周囲の観測点の単一の波形からでは、海洋変動ノイズの影響により津波が記録できているかどうか不明瞭でしたが、複数の観測の波形を並べてみると、各観測点の間を約0.1km/sの速度で伝播する津波 (振幅1cm未満) が確認できました。また、この津波成分を解析してこの地震の性質を詳細に調べたところ、通常の地震とは異なる性質を持つ「スロー地震」と呼ばれる活動とは棲み分けて分布していることがわかりました。この地震の発生様式の空間的な違いは、プレート境界面上での摩擦などの物理的な性質の空間的な違いを反映していると私は考えています。
 本結果は、多数の観測点からなる津波アレイ記録を活用することで、従来の観測網では観測することすら不可能だった小さい津波や、それを引き起こす地震の情報を詳細に得ることが可能になることを示しています。M6程度の地震の発生頻度は巨大災害を引き起こすM9クラスの地震よりもはるかに多いことを考えると、M6クラスの地震による津波を多数精査することで、プレート境界における物理特性や巨大地震発生のメカニズムの解明、沖合での津波の伝播過程の理解につながると期待できます。

Kubota_etal_2020_GeophysResLett.jpg

 助成金への応募、研究計画の作成にあたっては、自分の研究の課題を見直すよい機会になりました。助成期間は1年だけでしたが、この研究は現在の自身の研究において重要な基礎となっています。現在応募を予定している皆さんにおいては、1年間自由に使える研究費が得られるだけでなく、ご自身の研究の現状と今後の方向性を考えるうえで有意義な機会になると思います。ぜひ、応募を検討されてみてはいかがでしょうか。最後に、笹川科学研究助成は様々な分野の幅広い研究を支える素晴らしい助成制度です。そのご支援を頂き感謝しています。ありがとうございました。
<以上>

 日本は海に囲まれた島国であるため、津波に関する研究は重要な課題です。津波が起きた際の対策だけではなく、なぜ津波が発生するのかというメカニズムの研究を行うことで、事前に避難等の対応ができるようになることを期待したいと思います。1年間という短い期間の助成制度ではありますが、研究費の面だけでなく、いろいろと考えるきっかけとなり、有効に活用していただけたとのこと、嬉しく思います。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 11:11 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0)
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